気持ち
更新遅くて申し訳ありません。別に書く時間がないわけじゃないんですが、どうにも筆が遅くて嫌になります。
これからも最低月に一回は更新できるように頑張るので、どうか温かい目で見守っていてください。
テナとリグレは、駅のプラットホームで自分たちが乗る汽車を探していた。
ここは中央国都市セパの首都、セレアの駅。中央国の首都の駅なのでそれなりに大きい。
リグレは、クロードとセレナも一緒に、と誘ったが今度の大戦の週はクロードとセレナの二人で旅行に行きたいらしく、結局この二人でリグレの郷に帰郷ることになった。
そのことでセレナがテナに「アンタの為にあたし達はいかないのよ?」などと言っていたが、久しぶりの夫とのデートが楽しみで浮かれまくっていた。
テナはそんな事を思い出し、これから汽車の中でのことを想像して赤くなったりしている。
唐突だが、セレアは国の中心となる都市だ、記号の本社となる建物や店が多い。そのため、この都市で働く者が多い。当然、セレアに住んでいるものも多くなってくるのだが、それよりも、セレアの周辺の町に住んで、そこから通勤しているものが多い。セレアに住む場所が無かったり、その方が安上がりだったりするからだ。
なので、セレアの駅には毎日、年中無休で人が多い。それも大戦の週のような、長めの休みとなれば普段でさえ夥しく人が集まるのに、家族連れ、友達、恋人と人の量は何倍にもなる。
そんな中、リグレはのんびりした調子で、駅の見取り図を眺めながら歩いている。誰かとぶつかったりしても気にしない。眠そうにボサボサの頭を掻きながら欠伸をしたり、急に立ち止まっては伸びをしてみたり、邪魔なことこの上ない。
そんな調子で、欠伸をしたついでに、前を向くと目当ての汽車があったようで、
「あー、あれか。あれあれ」
言いながら、チケットに書いてある番号を確認する。二〇三号ホーム。
「あったぞー。テナーいるー?」
後ろを振り向かないままに、テナに声をかける。が返事が返ってこない。
「あら? 逸れちゃった?」
この人ごみの中で、もし逸れなどしたら、見つけるのも一苦労なのだが、そんなことは気にしない。といった様子で振り返ってみると、やっぱりいない。
「うあ…。まじ…?」
どうせいるだろうとでも、思っていたのだろうか。今度は、今度は本気で心配そうにしている。
「り、リグレさーん」
テナの声がして、そっちを向くと、人の波に流されてしまったテナが手を振っていた。
それを見てリグレは、ふうと安心してか息を吐く。そして、近くの柱についている時計を指差して、
「そこの時計んとこにいるから」
背中ににテナの返事を聞いて、柱の方へ歩いていく。
そこで柱に寄り掛かると煙草を取り出して、火をつける。
「ふー」
煙を人のいない上の方へ吐き出して、一息つく。「なんか帰りたくなってきたなあ。人多くて怠い」 これはこの時期になると毎年言っているが、とりあえずそんなことをブツブツ呟いていると、テナがよろよろと人に流されながらも、やっとこさやってくる。
「す、すごい人ですね」
テナが真っ赤な顔で言う。少し辛そうに肩で息をしている。そんな様子を心配してリグレが、
「お、おい、大丈夫か? もう汽車来てるから、早くいくぞ」
「ひあぅっ?」
また逸れたりすると面倒だから。とリグレがテナの手をつかんで歩いていく。テナが、驚いて変な声を上げたがリグレはそれを誤魔化すように足を速めた。
テナは、何が嬉しいのか、俯いて、はにかみながらもにやけている。
二人は、人ごみの中をかき分けかき分け、何とか汽車にたどり着くと、予約してあった部屋を探すためにまた苦労した。
汽車の中も人だらけなのだ。
どうやら今日中に目的地に着く連中は、部屋をとったりすることはないので、席に座れなくて座れる場所を探す者や、売店に物を買いに行く者などで廊下が溢れていた。右を見れば十五センチ先には、人、人、人。左を見れば十五センチ先には、人、人、人。
そのせいで部屋の番号が見えないのだ。わざわざ人をかき分けて部屋の前まで行って、部屋の番号を確認する、という作業を何度も逸れたりしながら繰り返し、何とか部屋を見つけると、二人は流れ込むように部屋に入って、カーテン越しに並べてあるベットに飛び込んだ。右のベットへ、テナ。左のベットへ、リグレ。
「今日は朝早かったから眠いよ…」
言って、リグレは枕に頭をうずめると、早々に寝息を立て始めた。
すると、開けていた窓から警笛の音が聞こえて、それを合図に汽車が煙を噴出しながらゆっくりと走り始めた。
汽車乗るのが初めてのテナは、始めのうちは外の景色が注ぎついに変わっていく様子が珍しく、覗き込む用に窓から外を眺めていたが、すぐ隣のベットで寝ているリグレの寝顔が気になりだした。
窓の外をのぞきながら、横目でチラチラと眺めてみる。カーテンを跨いだところにあるベットには、うつぶせになって枕の上に頭を乗せて、目をつぶってテナの方を向いているリグレが、涎を垂らしていびきなんか掻いていて。
何となく顔が火照ってくるけど、ここにはテナとリグレしかいない。だからそんなことも気にしないで、今はずっと彼のことを見ていられる。それが嬉しくてテナは、
「えへ」
と笑う。
気が付くと外の景色なんか気ならなくなって、夢中になってリグレの顔を眺めている。窓の桟に腕を組んで置いて、その上にリグレの方を向いて頭を乗せると、ふと思い出す。
「これから、今日と明日は二人っきりかあ…」
テナだけ。自分だけが今はリグレと一緒にいるんだ。それがまた嬉しくてまた、
「えへへ」
と笑う。
とそこでジェニーがする惚気話の内容を思い出して、もし自分とリグレが恋人同士だったらどんな感じだろうか。などと想像してみる。リグレはいつもやる気がなくて、それをテナが怒る。そんないつものやり取りが思い浮かんでくる。
「いや、まあいつも通りが一番幸せかもだけど…」
それでもちょっと、ちょっとだけ夢を見てみたくなって、ジェニーの話で自分も彼としてみたい、して欲しいことを想像する。一緒に映画を見に行ったり、ご飯を食べたり。そこでまた、前に一緒に映画を見に行ったことを思い出して。それに夕食なんか、リグレが帰ってきている日は、リグレが料理とか全く出来ないから、ほとんど毎日一緒に食べていた。それにこれからは、リグレがルーシーで働きたいなんて言い出したから学校がない日は一日中一緒で、学校がある日も夕方からは一緒だ。
「あれ? もしかしてそれっぽいこと結構してる…?」
そう思って、それだけで一層、急に顔が火照るのが分かる。
「うわー…」と消え入りそうな声で唸って、腕の中に顔をうずめる。でも、ご飯を食べるだけなら、学校の友達ともできる。自慢じゃないが男の友達だって結構いるし。
だから、もっと、友達には絶対出来ないような事を想像する。リグレの方を向きなおして、それだけで夢心地になる。
そこでは、テナがリグレに抱きすくめられて、耳元で「愛してる…」なんて囁かれていて…。
そんなことを考えて、テナは悶えながら、今度こそリグレの方を直視できなくなる。
心臓の音が高鳴って、胸の奥がズキズキと痛んで、もう全部爆発してしまうんじゃないか、というくらい気持ち良くなってしまう。
そして、その方がいいかな?なんてことが頭を過って、なんだかしばらくふわふわしていると、リグレが目を覚ました。
リグレが寝起きのとろけた目でテナの方を向くと、彼女はその火照った顔を見られるのが嫌で外の景色へ目を移す。
外の流れていく景色を見ると、もう太陽が昇り切っている。テナは、頬を打つ風が、火照った顔と心を覚ましていくのを感じて、呟く。
「…風が気持ちいい」
リグレはテナが顔をそらしたところから、何となくテナを眺めていて、
「飯、食いに行こうぜ」
どうやらリグレは昼食の時間を察知して起きたらしい。リグレの腹の音が鳴って、テナとリグレはそろって笑うと、食堂のある車両へ行くために部屋を出た。