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リグレとテナ  作者: 雨池蓮葵
序章『お誘い』
6/8

vol,6

ごめんなさいやめました。最後のところを書いたところで切がよかったので、vol,6を二分割するのはやめてしまいました。

 すいません。

翌朝クロードは、いつもより遅い時間に起きた。既にテナとセレナの二人は、朝食を食べ終わって、セレナがその片付けをしていた。


「どうしたの? クロード。今日は遅いわね」

 セレナが言った。クロードは欠伸を一つして、眠そうに頭を掻く。

「ああ。リグを泊めたんだけどよ。風呂に入れたらなかなか出てこねえと思って風呂場を見に行ったら、あの野郎、眠って沈んでいやがって。急いで引きずり出して、体拭いて寝間着着せて部屋まで運んで、大変だったんでよ。したら遅くなっちまった。あの野郎起きたら店でこき使ってやる」


 クロードはげっそりしている。


「!」パタン。

 本が落ちる音がして、見ればソファで本を読んでいたテナが立ち上がっている。


「リグレさん、い、いるの…?」

「心配すんな、あいつは昼まで絶対起きねえ。起きたら店で働かせるつもりだし、お前が学校から帰ってきた頃はまだ居るよ」


 クロードが言ったがテナには聞こえていない。

「シャワー浴びてくる!」

 言って浴室へ駆け出した。バタン!と音を立ててドアが閉まる。

「火、炊いてないからお湯でないわよー」

 セレナが片付けを終えて、テーブルに着くと、紅茶を飲みながら言った。

「水でいい!」

 テナはそんなことは気にしていられないといった調子で叫ぶ。


 (くど)いようだが、もう春のど真ん中とはいえ、朝の水は冷たい。それを全身で浴びようものなら、風邪をひきそうだと、クロードとセレナは思ったが、テナの気持ちもわかるのでそれは言わないでおいた。理解のある両親である。


 数秒後、キャー! 冷た! イヤ! と浴室から悲鳴が聞こえてきて、二人は一緒にため息を吐いた。だがクロードの方は肩を落として呆れた様子だが、セレナの方は少し違う。左の頬に手を置いて、浴場の方を向きながら悩ましげにしている。


 そんなセレナの様子を見て、ドキッとしたクロードだったが、何も言わずにセレナの向かい側についた。テーブルの上に用意してあったパンをトースターにかける。


「食器は自分で片付けてね、クロード」

 セレナは、立ち上がってキッチンの鍋からクロードの分のスープを装い、クロードの出しながら言った。何故か上目づかいで。

「はい」

「ふふ」

 セレナが微笑む。クロードは毎回このように尻に敷かれるんだそうだ。「はい」としっかり返事するように躾けたのも当然セレナ。彼女曰く、夫婦の在り方はこうでなければいけないらしい。


 そういえば、とクロードがサラダを、飲み込んでから言った。

「昨日リグが大戦の週に、アイツの村に行かないかっつーんだが、どうする、セレナ? お前だっけ? 家族でどっか泊まりで遊びに行きたいっつったの」

「あら、いいじゃない。あ、でも…」


 セレナが、両手を合わせる。が少し考えるような仕草をして、

「やっぱり、ここは――」

「う~、寒い…」

 セレナが再び口を開いて、何か言いかけると、カチカチと奥歯を鳴らしながらテナが出てきた。寒さで紙を拭くのが億劫になったのか、髪が濡れている。

「あーあー、まだ髪が濡れてんじゃねえかよ。待ってろ、タオルとってくるから」


 クロードがそう言って、テナを椅子に座らせると、浴室の方へ駆けて行く。

「あ、ありが、と」

「だから言ったでしょ? お湯出ないって」


 セレナが紅茶を入れて、テナに渡す。

「う、ん」

 テナはまだ震えている。


 テナが紅茶に口をつけていると、クロードが毛布とタオルを持って戻ってきた。

「セレナ、テナの頭拭いてやってくれ」


 言ってタオルをセレナに渡す。「はーい」と返事してテナの頭を拭いてやった。


 なんとか震えも治まって、テナはリグレが寝ている部屋の前で悶えていた。やはりというかなんというか、顔が赤い。

 クロードは、「起きねえから寝かせて置け」と言っていたが、テナはリグレを起こすと言って、リグレの寝ている部屋の前に立っている。


 ノックをしても全く反応がない限り、リグレは寝ているのだろう。

「ックシュン…」

 どうもさっきからくしゃみが出ているテナだが、そんなことは気にならないようで、リグレが寝ている部屋のドアノブを捻ってはドアを開けずに戻してを繰り返している。

 思い切ってドアを開けると、案の定リグレはベットで寝ていた。ただ、ベットの向きに対して垂直に寝ているため、足がだらんとベットからはみ出て、かけ布団も床に落としてしまっている。

リグレが寝返りを打とうとしたが、ベットからはみ出た足が邪魔で動けないようだ。代わりにその場で回って横向けになる。


 一瞬テナは起きたかと思ったが、リグレはしっかり熟睡している。

 そんなリグレの様子にテナは安心したのか、ほっと息をついて、くすっと笑う。

「寝癖がいつもひどいのは、寝相が悪いから…なのかな?」


 クシュン。とくしゃみをして、部屋に入っていく。


 ぱんぱんとリグレが落した掛布団をはたいて、リグレにかけようとして、止める。とりあえず布団を近くの椅子に掛けておく。

「よっ」

 リグレの足をそろえて、起こさないようにそーっとベットの上へ戻してやる。


 だが、それが予想以上に重かったのか、一度持ち上げただけで下してしまった。


 それに反応してリグレがまた仰向けに戻る。一度唸って、頭を掻いたりなんかしている。


 テナは一度くしゃみをして、リグレの両足に手を掛け、掛け声とともにもちあげる。投げるようにして、リグレの足を布団に乗せ、リグレの体の向きをベットの方向へ直す。

「やっ」


 リグレの体の向きは戻ったが、テナの体が反動で投げ出される。


「きゃっ?」

「げぶあぁ!」

 リグレが悲鳴を上げた。テナが頭からリグレの腹に頭から突っ込んだからだ。


 ゲホゲホと何度も咳をついている。余程辛いようで、腹を押さえながら、首だけ横を向いて口に手を当てている。


「かはっ。な、なんだぁ?」

 リグレがバッと勢いよく起き上がる。リグレの上には、テナがまださっき倒れ込んだ状態になっている。顔はリグレの体に隠れて見えない。

「て、テナ? ど、どうしたんだよ?」

 リグレは、体にもたれかかっている、テナを起こした。


 彼女は真っ赤になって気絶していた。彼女がリグレに抱きつくような格好になったら、それは確かに真っ赤になって気絶くらいはしそうなものだが、今はいつもと少しばかり様子が違った。

 不審に思ったリグレがテナの額に手のひらを当てると、案の定熱があった。


「風邪ひいてんのになんでこんなとこにいんだよ・・・」


 リグレは面倒臭そうにため息を吐いた。


 いったんテナをリグレが寝ていたベットに寝かせると、クロード達を呼びにいった。


 ドアを開けてリビングへ入ると、セレナがさっきテナの読んでいた本を読みながら紅茶を飲んでいた。

「あら、おはよう」

「うーす・・・。セレナさん。おやっさんは?」

「リグレ君の嫌いなお髭剃り。テナは? あの子何やってるの? もう学校に行かないと遅刻しちゃうんだけど」

「なんかテナ風邪ひいてるみたいなんだよ。とりあえず俺が寝てたベットに寝かせてきたけど」

 リグレが頭を掻きながら言う。そして欠伸。

「えー? ほんとに? だから言ったのに」


 セレナが、左程驚いた様子もなく言った。対して心配もしていないのか、また紅茶を啜りながら本をめくり始めた。本のタイトルは、『雨のち珈琲』王道一直線の恋愛小説。だが情緒や、情景描写が詩的で、現在巷(ちまた)で人気なのだとか。

「おお、リグ。起きたのか。テナは?」

 

 クロードが、起きているリグレイ少々驚いた様子でリビングに入ってきた。

「風邪引いて寝てる」

「ああ? ったくだから言ったのによ。ってか早ーよ」

 発症するのが。そう言って立ち上がるとこっちはセレナとは変わって、部屋を出てテナの様子を見に行った。


「?」


 リグレはクロードが何を言ってるのかよく分からなくて、首を傾げたりしている。


 そんな仕草もつかの間、「俺の役目は終わった」と言わんばかりにテナが座っていたソファーに寝転がると寝息を立て始めた。


 セレナがリグレが起きてきたので紅茶を入れてやったのだが、それを見て自分のカップにそれを注いだ。


 そして呟く。

「こんな調子でテナちゃんは大丈夫かしらねー」

 本を閉じて紅茶を全部飲み干すと、立ち上がってテナの様子を見に行った。


 テナが寝ている部屋の前まで行くと、クロードが彼女を抱えて部屋から出てきた。

「このタイミングで熱ってなんか都合よすぎねーか?」

 クロードがテナを抱えながらあきれ顔で聞く。

「さあ?」

 セレナもあきれ顔。


 テナはテナで、赤くなってなんだかぐったりしているのに、気持ちよさそうなのはどういうわけか。

 


 

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