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リグレとテナ  作者: 雨池蓮葵
序章『お誘い』
1/8

vol.1

 早朝〇時、だんだんと朝日が昇り、太陽の上がる東の空をほんのりと赤く染め始めている頃、スフォル連邦共和国中央国都市セパの首都セレアのとある街道を一人の男が、ふらついた足取りで帰宅していた。


 スフォル人にしては珍しい黒い髪の黒い瞳をした男だ。


 その眼は普段はやる気のなさそうな半開きなのだが、今日は虚ろだった。


 男の顔は、日が昇り始めているとはいえ、辺りはまだ十分暗い中でも一目見れば、酒で上気していると分かるほど赤かった。しかもそれに慣れていないようで、よたよたと壁にもたれかかっては、「おえ…」と気持ち悪そうにしている。


 その男、リグレ・アーロンは、スフォル軍暗部潜入捜査隊の退隊式を終えたところだった。と言っても、退隊式があったのは昨日。スフォル連邦共和国各皇族家家長十二人による、一時間のあいさつがあっただけで、それが終われば二日間に及ぶただの宴会だった。酒のぶっかけ合いと言ってもいい。


 リグレは、あまり酒に強い方ではなかったが、昨日と今日はそれこそ文字通り酒を浴びるように飲だ。 やっと軍から抜けることができると思うと、それはもう飲まずにはいられない衝動に駆られた。


 これからはもうずっとのんきに平和に暮らすというのが、リグレの心の底からの願いだった。

 スフォル軍暗部潜入捜査隊、要はスフォル連邦共和国のスパイなのだが、現在スフォルは、他の二国の争いに対して、中立の立場を保っている。そんな国だから、スパイの仕事などやってられない。冷戦中の国にわざわざ行って、その国の庶民の暮らしぶりから、その国の機密事項までを調べ上げてくるのが仕事だが、もし見つかったりしたら、ただ事では済まない。現在至って平和なスフォルにも争いの火の粉が散るかもしれないのだ。背負うものが重すぎる。どの国でもやっていることだが。


 大体十五歳で暗部所属に所属するという時点でおかしいというのが彼の意見だ。いくら実力主義だからと言っても、入隊年齢くらいは定めてほしい。


 そしてなぜ彼が入隊試験を受ける気になったのかも今となっては謎だった。何か決意のようなものを抱いて入隊したような気がするのだが、そんなものは一、二年で崩れ去ったかそれを果たしてしまったか。


 どちらでもいいが、少なくとも入隊して三年目には退隊志願書を提出していたように思える。暗部の人員不足に悩む上層部がどうしてもとせがむから二十五になるまで隊にいたのだ。兵役は十八歳から二十二歳の四年間だというのに、だ。暗部に入るだけでも、特殊な訓練と才能が必要だというのに、前後合わせて六年も過ぎている。暗部が例外で、兵役が関係ないだけだ。いくら無期限で所属できるとしても長い。 というのがいつもなじみの喫茶店のマスターにこぼす愚痴。


 ちなみに暗部に所属する期間の平均は、二十歳から三十五歳までの十五年間だったりする。。

 そんなことを考えながら、リグレはだんだん腹が立ってきて、家に入ったらまず風呂に入って酔いを醒まして、今日は丸一日寝ていようと心に誓った。


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