黒崎卓の意外な趣味
とりあえず馨は地図をたよりに、店へと向かった。
一軒目はどうやら洋服店だ。
さすがお嬢様教師。
高級そうな店だ。
馨はつい周りをきょろきょろ見てしまう。
店内には女性が多い事もあり、少し恥ずかしい。
「ってゆうか『ザラブのスカート』って何?」
スカートなんて、男の馨には全部一緒に見える。
しかもザラブが何かすら分からない。
「良かったー!
間に合った」
卓が馨のもとへと駆けて来た。
「あなたは……」
「亜守華お嬢様の世話係、黒崎 卓です」
卓がニコリと微笑んで会釈する。
そう言えばそうだ、と思い出した。
「えーっと……。
ザラブはこれ、ですね」
『ザラブ』とはブランドの名前だった。
ピンクのスカートをとると、馨に渡した。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。
大変でしょう。
お手伝いします」
会計を済まして店を出た。
卓は他の店での買い物も手伝ってくれるようだ。
「お嬢様に聞いてビックリしましたよ。
まさか雑用ってこのことだったんだなんて」
間に合って良かったと言う様な顔をする。
「ははは。
来てくれて助かりました……」
本当に助かったと心の中で思う。
きっと今頃泣いていたかもしれない。
何故か歩いて他の店へ向かう。
車で来ていないようだ。
「すみません歩きで……」
「いえ、来てくれただけで十分っす」
「今日は同窓会だったんです」
卓は今日の出来事を話した。
とても楽しそうに話すので、馨までつい口元がゆるんでしまう。
「それは楽しそうですね」
「ええ、お嬢様と斎藤様のおかげです」
「担任と俺!?」
「はい。
お嬢様に今日は仕事を休んでいいと言われたんです。
まさか斎藤様に仕事をたのんでいるとは思いませんでしたが」
そう言って苦笑いを浮かべたので馨も苦笑いを浮かべる。
「皆様誤解されてるようですが、お嬢様は決して悪い御方ではないんですよ?
誤解されやすいだけです」
誤解されやすいだけですむのかは不明だが、卓は亜守華のことをとても慕っているようだ。
ふと卓は立ち止まった。
一軒の小さな店の前。
今まで買い物をした店と違って、庶民的な店だ。
「少しよってもいいですか?」
ああ、何だ黒崎さんの私用か。
てっきり馨は亜守華がここで何かを買っているのかと思った。
店内は可愛らしく飾られていた。
ファンシーな雰囲気だ。
男が入るには勇気がいるのにもかかわらず、卓は堂々と入っていく。
店員さんは卓を知っている様子なので、彼は常連客なのだろう。
「えーっと……。
これ、どうですか?」
卓が一番近くにあった棚から、変わったなすびのストラップをとって見せた。
なすびには点で書いたような顔が書かれている。
「え、俺に聞くんすか!?」
フォローに困るようななすびを見せられて、馨は戸惑った。
遠まわしに言えば個性的。
はっきりと言えば悪趣味。
その二つのうちどちらを言えばいいか迷う。
流石に悪趣味はいいずらい。
「こ、個性的ですね」
苦笑いをして誤魔化した。