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冷血先生!  作者: 茉由
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はやとちりにお気お付けを

校庭では朝練を終えた生徒達が片付けをしている。


そこから一人、馨の方へと向かって歩いて来た。  

 

 「おはよう」


男子生徒が馨に声をかける。


「おっ、真人。


もう朝練終わったのか?」


「ああ。


そういえば担任嫌な奴なのか?」


「え!?


もう知ってんの!?」


「尋に聞いた」


尋とは馨と同じクラスの一人だ。


真人と尋は同じ野球部ということで仲がいい。


性格は正反対なため、しばしば言い合いになることもあるが、結構上手くやっている。


「嫌な奴ってはじめっから決めるのもダメだけどさあ……。


あの自己紹介は無かったな」


「自己紹介?」


「『私は自分の力で教師になってません。親の権力です』」


「それを担任が言ったのか?」


「そう。


無いだろ?」


 「悪かったわね」


ふと二人の耳に声が聞こえた。


馨でも真人でもない声。


「担任か?」


「やば……」


 予礼のチャイムがなった。


馨は亜守華から逃げるように、自分のクラスに向かった。


 「危なかったー」


「何で逃げるんだ」


「反射?」


 二人は教室まで走って逃げて来た。


今は3年2組の前である。


 馨は汗だくで息を切らしている。


一方真人はすがすがしい表情だ。


さすが野球部キャプテンである。


 「何やってんの?」


尋が教室の窓から顔を覗かした。


「お前、何で今日朝練に来なかったんだ」


「えぇー?


だってまさちんが起こしてくれなかったもん」


 尋は毎朝真人に起こしてもらうのが日課だ。


尋にとって真人はお母さんのような存在なのだ。


こんな奴が野球部副キャプテンだなんて、野球部も大変だな、といつも馨は思う。


「今日は俺もぎりぎりだったんだ。


いい加減自分で起きろ」


「やだよう、やだよう」


駄々っ子のように体を左右させる。


 「……お前なら出来る」


真人がそう言うと、尋の動きが止まった。


「ふっふっふ。


当たり前さ!


俺に不可能は無いからね!」


真人は良く分かっているよ、という風に、肩をポンポンと叩いた。


 「尋の扱いに慣れてんな」


「だてに付き合いが長い訳じゃないからな」


 そう言って、真人は自分の教室へと帰って行った。


 「俺ってやっぱ出来る奴なんだなぁ……。


まさちんは気づいてたんだぁ。


さすがまさちん。


さすが俺……」


 尋の暴走は真人が帰ってからも続いていた。


いつもの事なので馨は放っておくことにして教室へ入った。


 そんなことよりも馨は気になる事があった。


クラスの様子がいつもと違うのだ。


バケツを持っている生徒達もいたり、黒板消しをドアの間に挟んでいるものもいる。


 「何やってんの?」


バケツを持っていた生徒に声をかけた。


「あの担任が調子にのる前にこらしめようってなったんだ」


「虐めるってこと!?」


「だってむかつくだろ?」


馨は確かにむかつくとは思っていたが、虐めたいとは思っていない。


「そこまでしなくても……」


 馨が止めようとした瞬間。


「来たぞ!!」


扉が開いて、亜守華が入って来た。


同時に黒板消しが亜守華の頭へと落ちていく。


黒板消しはぽんと音を立てて、地面に落ちた。


 それからバケツを持った生徒達が水をぶっかける。


水は激しい音を立ててそこら中に飛び散った。


 後で卓があたふたと動き回っている。


「お嬢様!!」


 卓は何か拭くものを渡そうと思ったのか、近くにあった雑巾を亜守華に渡した。


当然、亜守華は雑巾を振り払う。


 亜守華は卓を連れて何も言わずにその場を去って行った。


 馨は亜守華を追いかけた。


罪悪感だ。


彼女は泣いていた。


あの様子を見て、罪悪感を持たなかったものはいないだろう。


クラスの生徒達もだ。


皆黙って自分の席へと座った。


 「待って!」


馨が呼び止めると、亜守華がクルリと振り返った。


「まだ何か用かしら?」


「あれ?」


泣いていない。


「次は何?


暴力的な虐めでもするつもり?」


「いや……。


そうじゃなくて……」


 卓が走ってきた。


「コンタクトお持ちしました!」


「コンタクト?」


何故着替えではなくコンタクトなのだろうか。


「泣いてたのって……」


「あら、もしかして貴方心配して来たの?


それは残念ね。


コンタクトずれよ」


「はぁ!?


んなわけねぇよ!」


「結構痛いのよ」


心配した自分が馬鹿だったと今更思った。


でもどこか安心している自分がいた。


 「大丈夫ですか?」


卓が亜守華の服を拭きながら聞く。


今度は雑巾ではなくちゃんとしたタオルだ。


「もう結構。


教室にもどりましょう」


亜守華が全く動じていない様子で言うと、


卓は嬉しそうに笑った。


「はいっ」


 二人は教室へともどって行った。


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