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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

執行人

作者: いぬ

 いぬが昔病んでる時に書いた病んでるものです。

 気分を害する恐れがあるので閲覧注意


 やぁやぁ、いらっしゃい。よく来たね。 



 ん? まぁそんなに堅くならずに。リラックス、リラックスだよ。まぁ、そうなるのも無理のない話か。君たちは死刑囚。私は執行人なのだからね。

 さて、唐突だが。君たちはまだ死にたくはないかね? いやいや。答えは聞かなくても分かる。なに、ちょっとした悪戯だよ。ん? 笑えないかね? そうか、残念だよ。

 訊くまでもないことだが、人はみな本心では死にたくないと思っている。これは人間に限らず生物としての本能だ。抗うことは出来ない。私としてもそのような人たちを殺していくのは大変に申し訳ないと思っている。だが、これが仕事なのだから仕方ないと割り切って今まで何人も殺してきた。それはとても辛いことだった。

 だから私は少し上に掛け合ってみた。私は私の思いを私なりに思いっきりぶつけてみた。本来なら通るはずもないことだ。しかし、奇跡は起こった! 私のその要求は見事にそのまま採用されることとなったのだ! これは本当に素晴らしいことなのだよっ!!

 うむ。いい表情をしているな。そうだ! 私の要求とは死刑囚達に“逃げ道”を与えることなのだ。君たちの望みどおり、助かることの出来る道なのだよ!

 フフフ、まぁそう興奮するでない。これにはまだ続きがあるのだよ。おっと、そんなに不安がる必要はない。ただ、助かるにはひとつ条件がある、というだけなのだよ。

 その条件かい? フフ、まぁ落ち付きたまえ。今から説明するから、まずはこちらへ来なさい。



 ◇◇◇



 さて、ここが今から君たちを“処刑”する部屋だ。ん? 緊張しているのかな? 無理もない。ここに来たもの達は最初はそうだった。だが、心配する必要はない。ほら? あそこの部屋の隅に扉が見えるだろう? あれはこの収容所で唯一外に直接繋がっている扉なのだよ。私の案が通ってからは皆あそこの扉から外へと出ているのだよ。安心したまえ。

 ん? あの椅子が気になるかい? あれが君たちを処刑するための道具なのだよ。あれにはいたるところに電極が付いている“電気椅子”と呼ばれる代物でね。あれに座った死刑囚に強力な電流を流して、人の手を汚さすに殺すように開発されたものなのだよ。

 さて、では助かるための方法だが、見たまえ。あのリビングのように向かい合って置いている電気椅子の間に低いテーブルがあるだろう? そこに三枚のカードを置いてある。是非手にとって見てくれたまえ。

 ……見たかい? 裏返すとそれぞれ色が塗ってあるだろう。赤色。青色。緑色、ってね。自分のだけでなくお互いのを見比べるといい。全く同じものを置いてある。それを確認してくれたまえ。

 ……いいかな? よし。ではそれをテーブルに戻してくれないか? あぁそうだ。ありがとう。

 ……フフ、まぁそんなに焦らなくていい。これからそれを説明するところだ。リラックスして聞いてくれ。

 さて、では説明といこう。といってもそんなに難しいことではない。君たちにひとつ“ゲーム”をしてもらうだけだ。

 まず君たちにはあの椅子に座ってもらう。……あぁ、そんなに不安にならなくていい。座ってもらうだけで実際にスイッチを入れるわけではないのだ。ただゲームをするのに座ってもらう必要があるだけなんだ。安心してくれ。

 ……いいかい? 説明を続けるよ? で、だ。座ってもらうと今度はお互いにテーブルにあるカードを手に取ってもらう。そしてそのカードを一枚だけ選び、またテーブルに置く。ゲームの内容はこれだけだ。簡単だろう?

 では、次にルールを説明しよう。そのカードだが、勢力というものを設定してある。いいかい? よく聞いてくれ。まず“赤は青に強い”そして“青は緑に強い”最後に“緑は赤に強い”という具合だ。図にするとこんな感じだ。三角形の頂点にそれぞれカードを置く。そしてカードとカードを繋ぐ線の代わりに一方通行の矢印を描く。……こんな感じだ。わかるね?

 では、分かったところでもう一度説明しよう。君たちは椅子に坐り、カードを手に取る。そして、その中から一つのカードを選び、テーブルに置く。ここまではいいかい? 次に、カードにはそれぞれ勢力というものがあり、それで勝ち負けを判定する。勝負は一回きり。それですべてが決まる。わかったかな?

 では、次。まず、カードがお互いに同じ色だった場合。この場合は君たちはお互いに助かることができる。つまり、死刑を回避できるのだよ。

 しかし、もしどちらかが勝ち、どちらかが負けだった場合。これは本当に申し訳ないのだが、電気椅子の餌食になってしまう。許してくれ。

 あぁ、そんなに怒らないでくれ。まだ続きがあるのだよ。お願いだから聞いてほしい。少しでも生き延びられるためにも……あぁ、ありがとう。本当にありがとう。

 では、ここからが本当に重要なんだ。良く聞いてもらいたい。実はこのゲームには普通ではありえないルールが一つだけあるんだ。それは“君たちはお互いがどのカードを出すのか相談することが出来る”というものなんだ。……変かい? でもこれがこのゲームの大事なところなんだよ。お互いが同じカードを出すために相談出来るということは、確実に助かるカードを出せるということなんだ。素晴らしいだろう? ……そうか、ありがとう。そう言ってもらえると私も上に掛け合った価値があるというものだ。

 さて、では長々と説明をして済まなかった。早速だが、君たちには椅子に坐り、外への道を自らの手で切り開いてもらいたい。さぁ、どうぞこちらへ。



 ◇◇◇


 

 どうだい? 痛くはないかい? すまないね。一応きつく拘束することになっているんだ。許してほしい。右腕は動くね? あぁ、ありがとう。それだけ動けば十分だ。

 では、早速だがゲームを始めよと思う。二人とも準備はいいかい? ……うん。いい返事だ。希望に満ちている顔だ。素晴らしい顔だよ、ククク……。

 あぁ、失礼。このように笑ってしまうのは私の悪い癖でね。よく同僚に気味悪がられてるよ、ハハッ。

 さて、では始めようか。カードを取ってくれたまえ。いいかい? うん。それでいい。では、お互い相談を……おっと、すまない。重要なことを言い忘れていたよ。ハハッ、そう笑わないでくれ。同僚にもよく言われるよ。これでも昔はそこそこの記憶力は持っていたのだが、歳を取るというのはつらいものだな。ん? あぁ、すまないすまない。話が逸れたな。悪かった。それで言い忘れていたことなんだが……



 もし引き分けだった場合は二人とも死刑を逃れる代わりに一生収容所から出られないことになっているからな。



 ん? なんだいその呆けた顔は? もしかして本当にただでここから出られると思っていたのか? 馬鹿な奴らだ。そうそう、ついでに忘れていたことをもう一つ教えてやろう。もしゲームに勝った場合だが、実は外に出られる上に今までの前科なども取り払われることになっている。そして、この口止め料の代わりに一生を優雅に過ごせるようになっている。勿論、負けた方はミディアムレアになるがね。ククク……。

 さぁ、ゲームを開始してくれたまえ。いつまでも私を睨んでいてもどうにもならないぞ? もしかすると私の気が変って二人とも“フライ”にしてしまうかもしれないからな。

 さぁ、早くどのカードにするか相談したまえ。お勧めは“引き分け”だぞ? もしどちらかが負けようものなら凄惨な結果になるからな。具体的に言ってやると、まずバリバリという激しい音と共に負けた方の身体は反り返り、唇はめくれ上る。顔は紫色に変色し、電極を付けた部分からは瞬く間に巨大な水ぶくれが水蒸気と共に発生し、室内には生臭い肉の焦げた臭いが充満する。眼球は飛び出し、向かいの勝者に体液と血が入り混じったシャワーを浴びせるんだ。ゾクゾクするだろう?

 さぁ、何をしている? 早く選びたまえ。ん? そういえば、君たちは幼馴染だったね。一緒に強盗をして一家を惨殺して死刑囚になったのだったな。もしかすると、どちらかが止めておけばこんなことにはならなかったのかも知れないなぁ。ククク……今から言ったところでどうにもならないがな。

 さぁ、何をしている。早く選べ。さぁ。さぁさぁ! さぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさがっ!? がはっ! ごほっ! がっ! はぁはぁはぁはぁはぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁさぁ!!

 ……ククク、選んだな? それでいいのか? 本当にいいのか? もしかしたら相手はお前を裏切ろうかと思っているかもしれないな? いいのか、それでも? ん? どうかね? 何とか言ったらどうかな? ククク……いい目だ。いいぞ、その目だ。その目が私をこれ以上なく興奮させる! 欲情させる! さぁ! カードを置け! もうカードには手を触れるな! “こんがり”焼いてやるぞ!!

 ククク……どうだ? いまの気分は? もしかしたら向かいの相手は自分を裏切ったかもしれないという気分は? 幼馴染に裏切られた気分はどうだ? なに? コイツは俺を裏切らないだと? はっ! 馬鹿馬鹿しい。お前は本当によく見ていたのか? ソイツはお前が私の方を見ている隙にカードをすり替えていたのだぞ? ククク……、いいぞ。そうだ。お互いに探り合え。お互いの腹を探り合え! “もしかしたらコイツは俺を生贄にしようとしてるんじゃないのか? もしかしたら自分一人助かろうとしているんじゃないのか?”となっ!

 あぁ、そうそう。これを言っておいてやろう。このゲームだがな、実は引き分けになった確率は……“0%”なんだ。

 さぁ! 準備はいいか? この場合は“死ぬ準備”だがな! ハハハッ!! さぁ、開くぞ? いいか? 死ぬぞ? 死ねよ! 死んでしまえよ! 私にお前の死ぬところを見せてくれッ!!



 ◇◇◇



 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハガッ!? がっ! がはっ! ごぼっ! がっ、がっは……は、はは、はははは、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!

 素晴らしい! 素晴らしいぞ!! 今までで一番素晴らしい!! なんて見事にはじけ飛ぶんだ! なんて綺麗に焼きあがるのだ!! 素晴らしい! お前たちは本当に素晴らしいぞ!! ハハハハハハハハッッッ!!

 見事だ! 見事お前はあいつを裏切った! お前は見事にあいつを殺したのだ! 本当に見事だったぞ!! では、約束通りお前を助けてやろう! あの扉の向こうへ誘ってやろう! そしてお前にもう一つ、真実を教えてやろう! 実はな、この収容所では囚人はいかなる理由があろうとも囚人同士で殺し合ってはいけないんだ。殺したらどうなるか知りたいか? 処刑だよ! ここでお前の幼馴染のように鮮やかな“華”を咲かせるのだよ!! もう分かるな? お前は“いかなる理由があろうともやってはいけない殺人”を犯したのだ! つまりお前も死ぬんだよ! ハハハハハハハッ!! あの扉はな“死体置場”に繋がっているだけなんだよ! つまりここに来た時点で死ぬことは確定していたんだよ! ハハハハハハハハハハッッ!! 死ねよ! 死んでくれ! 私に綺麗な“華”を見せてくれ! 命の輝きを見せてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!



 ◇◇◇ 



 さて、これでこの物語はお終いだ。どうだったかね?

 ……ふむ。やはりこの話は君には刺激が強すぎたか。あぁ、もどすなら向こうでやってくれ。私にかけられたらシャレにならないだろう。

 …………やぁ、お帰り。気分はどうだい? まぁ、少し休みたまえ。飲み物ならそこにある。すまないが自分で取ってくれたまえ。私も反省しているよ。久しぶりの客人とあって少々はしゃぎすぎたようだ。今後は自重するよ。

 さて、これで君に聞かせた話はいくつになったかな? もう随分話したような気もするし、そうでないような気もする。ここには時間の流れというものが存在しないから比較するものがないからね。もしまだ聞きたいのならいくらでも話してあげるのだが?

 ……そうか。なら仕方ないだろう。聞きたくないのに無理矢理聞かされるのは苦痛以外の何物でもないからな。私も今日はここで切り上げるよ。少々残念だがね。

 まぁ今日はゆっくり休みたまえ。またいつか私の話を聞いてもらうためにも、君には健康でいてもらわなくてはいけないのだからね。それまでの間、心を休めるといい。



 この残酷で美しい世界の話はまだいくらでもあるのだからね。



 


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