ばばあ異世界のディストピアを謳歌する〜理不尽に従うのがオトナです〜
イラストは自分で描きました。
宇佐見。
冒頭部分の褒め言葉はお世辞だったようですね。
私は宇佐見。世間的には老女と呼ばれる80歳。この前なんて毒兎さんっていうラジオ番組を持っている人に沢山の人が見ている大通りで『ばばあ!長生きしろよ』って言われたところ。嬉しいやら恥ずかしいやら気持ちが落ち着かないわ。今はシワとかタルミもあって、毛艶が悪く毛色もハッキリしないけど、若い頃はなんとかバニアのショコラなんとか似で可愛いと評判の美貌だったんだから!朝起き抜けが一番関節が重ダルくて辛いけど、毎日家庭菜園を楽しめる筋力が自慢なの。沢山の孫達に囲まれ、健康に気を使ってくれる優しい家族と一緒に暮らしてハッピーシニアライフをエンジョイって感じ?しかもここは一年中収穫物が採れて温暖で穏やかな気候で家庭菜園が捗る捗る。葉物野菜なんてひと月もあればあっという間に食べ頃になるの。
あぁ、こんな毎日が永遠に続けば良いのに。
Xデイが起きたのは家庭菜園に勤しんでいる時だった。サイレンがけたたましく鳴り響き騒然とした雰囲気に周囲を見回し佇んでいると無機質な人型ロボットが素早く近づいてきた。
「80サイイジョウレンコウスル」
「なに?どう言うこと?」
私は悲鳴を上げその場で足踏みをした。
「テイコウスル」
ロボットはそんな私の様子を見て指先を向けてきた。赤い照準が目の上に当てられハッと息を呑む。
「大人しく付いて行くから撃たないで!」
私は重厚な金属の踵を見つめながら静かに歩いた。
かなり近い場所で男性の怒鳴り声と銃声が聞こえた。誰かロボットに抵抗して撃たれたのだろう。そちらの方を見ないようにやり過ごし震える脚で歩いていく。街に近づくにつれサイレンの音が強烈に響き大きな唸りの様になる。人型ロボットに付いてトボトボ歩いて行くと見慣れた大通りに出た。前にここへ来た時は家庭菜園で使う苗木や種を孫達と一緒に買いに来たのだったっけ。…何だか遠い昔の様な気がする。平穏な暮らしを懐かしんでいると前から数人の高齢者が私と同じように連行されてきた。
一塊に集められると人型ロボットが一斉に
「ホンジツ、ウサギセイフデキマッタホウアンデアル。ホンジツシコウ。80サイイジョウハ、ウサステヤマニスメ!」
「ナオ、カンリヒトシテ、ショユウザイサンハボッシュウス」7体全機で揃って叫んだ。
「そんなの理不尽だ!財産の没収は嫌だし今まで築き上げてきた全てを捨てて山で生きるなんて嫌だ!」
そう叫んで一目散に駆け出していった高齢男性が6人の目の前で頭を撃ち抜かれて膝から崩れた。もはや私達は誰一人として抵抗する気力も湧かず、息を潜めて青ざめていた。
俺は月沢と言って元大工。今は家庭内であちこち傷んだ所を手直ししたり簡単な什器を作ったりして過ごしている。身体はまだまだ動く方で、この前なんか角材一本担いで帰ってきたぜ。腰回りには愛用の大工道具が巻かれてないと落ち着かない性分で道具管理と備品の在庫管理は常に気にしている。
今は老夫婦二人暮らしで子ども達とは別に住んでいる。結婚記念日は3月3日でウサギっぽいだろ?妻がこの日が良いって言って決めたのさ。
妻はさ、実は病気で車椅子生活なんだ。バリアフリーの家が建てられる俺が大工で良かったよ。使い勝手は本人の要求が無いと判らないものだからね。…今思えば我儘を聞いてあげられて良かった。
妻が机の角に肘をよくぶつけるからと言っていて気を利かせて俺は庭に出て机の角をヤスリで削っていたんだ。その時、大きなサイレンが鳴り出してねぇそりゃあビビったわ。何だ?と周囲を見渡す間に人型ロボットに捕まっちまった。
家の中の妻に『逃げろ!』と言うも虚しく呆気なく捕まったようだった。その時は夫婦だし同じ場所に連行されると鷹を括っていた。だが大通りに着いてみろ、妻が居ないじゃないか!
あぁ、妻は無事に生きているのか、生きているとすれば不当な扱いを受けていないか心配だ!
僕は赤目。夫の方。金属加工の職人をしている。僕の工房には金属板を切断する大きな機械から緻密な細工物を作る精密機械まで揃っている。専ら細工物は僕よりも妻の方が得意だけどね。職人は年齢に関わらず仕事を続けられて良いね。今の若いウサギ達にも声を大にして伝えたい。仕事道具は妻同様常に持ち歩く派。
数年前からずっと胃の調子が不調だったけど、騙し騙しやり過ごしてしまった医者嫌いである。
はー。検査怖いし病院行きたくないなぁ。でも一応行っておくかと重い腰を上げて検査してみると、これが結構酷めの悪性のやつに侵されていた。やっぱりかと思いながら手術の予定を入れた。執刀医には『開腹してみて手遅れの場合は処置せず閉じる』と宣告された。自分以上に怖がりの妻にはこの事実を隠しておこう。
「一つお願いがあります。先生…もしその場合には……」
手術の当日を迎えて平静を振る舞いながら家を出る。僕は妻に婚約当時貰った物を御守りにしてポケットに忍ばせて手術に臨んだ。簡単な手術が終わった風を装い退院して家に帰った矢先、僕はXデイを迎えたのだった。
私は赤目。妻のほう。夫と同じく金属加工の職人をしています。私の方は金属のうつわ物、アクセサリーなどの細工物を担当しています。緻密な彫刻をしたり他の色の金属を象嵌したり凝ったものが得意です。夫とは職人の養成学校で出逢いました。大きな金属板を木鎚で打ち付ける姿が頼もしく、格好良かったんですよ。卒業する頃、夫お手製のナイフとフォークを贈られ『一生食べるのに困らせない』と言われて求婚されました。お返しに私は側面に彫刻と象嵌を施したぷっくりした可愛いハート形のペーパーウエイトを製作して贈りました。男性には可愛らし過ぎたのか彼ったら使わずに仕事机の中に仕舞いっぱなしにしていましたけどね。そうそう、結婚記念日は9月27日、みみみみみの日なんです。
夫が『最近胃が痛い』と言うので早めに検査してもらった方が安心だよと言って病院行きの背中をそっと押しました。手術が必要と聞いて不安になりましたが切れば治る程度のものだからと聞いて安心しました。手術当日、夫のお腹をさすりながら勇気づけ、緊張で汗ばんだ手を握り病院へ送り出しました。夫は3日程度で退院できるそうです。本当に簡単な手術だったのね、早めに帰宅できるようで良かった。
さあ、今日は退院日!腕によりをかけて胃に優しい料理を作りましょう。好物の人参ポタージュスープは外せないわ。
あたしゃ耳永っていいます。何年か前に当時の言葉でウサギ小屋って揶揄されていた家を買って一人でずーっと住んでます。そんな家からは天気の良いよく晴れた日の夜にはお星様がよく見えるんですわぁ。日々星の観察を楽しみながら過ごしています。特に北極星?位置が全然変わらないのよ。その周りは一年間で動いているけどねぇ。あと編み物も好きだねぇ。6つ編んで中心点にして広がる様にして編むと銀河みたいになるよ。赤目さんのところは結婚記念日が3の倍数なんだって?3✖️3✖️3の倍数は宇宙にもよく出てくる数字でよ。
そうそう、あたしゃあと編み物も好きだねぇ。6つ編んで中心点にして広がる様にして編むと銀河みたいになるよ。赤目さんのところは結婚記念日が3の倍数なんだって?3✖️3✖️3の倍数は宇宙にもよく出てくる数字でよ。北極星?位置が全然変わらないのよ。その周りは一年間で動いているけどねぇ。あと編み物も好きだねぇ。6つ編んで中心点にして広がる様にして編むと銀河みたいになるよ。赤目さんのところは結婚記念日が3の倍数なんだって?3✖️3✖️3の倍数は宇宙にもよく出てくる数字でよ。
そうそう、あたしゃあと編み物も好きだねぇ。6つ編んで中心点にして広がる様にして編むと銀河みたいになるよ。赤目さんのところは結婚記念日が3の倍数なんだって?3✖️3✖️3の倍数は宇宙にもよく出てくる数字でよ。
…ん?前にも言ったかな?
まあ、家でいつもの様に編み物してたらさ、見慣れないロボットが走り入ってきて捕まっちゃったんだ。確か編み目の数は216個だったはず。うん。
アタシは兎田。映画鑑賞が趣味なのよ。夫とは死に別れてね、そこから趣味にのめり込んだ感じ。今では同じ趣味の仲間もできて寂しくないのよ。友達と趣味の話ができるのは楽しいよね。みんな目の付け所がシャープでね、着眼点がマニアックよねぇ。ところで、友達が言うには話をしている途中時々意識を失っているようなのよ。アタシもどんな話をしていたのか記憶がない時があって怖いの。えー?認知症かも?トシだししょうがないねぇ。
あの日家でアベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン観ながら寛いでいたのにサイレンがうるさくて集中できなかったから映画を一時停止したの。それなのにウルトロンが動いてアタシに近づいて来るんだからおったまげたわ!
軽い自己紹介をしながら山の頂上の拓けた場所に到着すると人型ロボットは突如爆発した。
「ぎゃーーーー!」皆一目散に散っていく。全員の安全を確認し声をかけた。
「ロボットから距離を置いて歩いていて良かったですね」
「いつ撃たれるかと怖かったから解放されて良かった」
「ソイレントグリーンみたいなところに連れて行かれるかと思った」
周囲を見渡すと大きめの山小屋が一軒あった。恐る恐る近付き入り口から中を窺うも誰も居らず新築の様な匂いがした。
「我々のために用意された物なのか?管理費がどうのとか言っていたな」
広さは6人で使用しても充分なゆとりがありそうだ。これなら夜の闇や野生動物、風雨に曝される事はなさそうだと安心した。中に入ると大凡生活に必要なテーブルや椅子、陶器のコップ、薬缶、鍋、食器といった道具が備え付けられていた。
「ありがたいけど毒でも塗られてるんじゃないでしょうね」
「川でしっかり洗ってから使えば大丈夫じゃない?」
全員で外に出て周囲の探索に出掛けた。サラサラと音のする方へ足を進めると比較的近い場所に岩清水が汲める小川があった。さらに、道に迷わない範囲に蔓が伸びた自然薯が群生しており、ヨモギの群生地もあり、アケビやコクワ、ヤマブドウといった果実も自生していた。
「しばらくは飢えないでしょうけど早めに畑を耕して種を植えましょう」
「宇佐見さん、種持っているの?」
「ええ。農作業中だったからエプロンのポケットには種がいっぱいよ」
さらに先へと歩き探索を続けると『ゴォーーー』という音のする土でできた背丈程の高さで奥に長い密閉された小屋があった。さらにその横には、長い長方形の金属製の台車があった。近づいていくと気温が上がったように感じられた。扉の取手は熱くなかったので開けてみると灼熱の大火力の炎が僅かに耳の先の毛を焦がした。
「あっつ!」慌てて扉を閉ざした。
「これ何かねぇ。」
「謎だけどこの火を使って料理が作れる!」
全員がその場で華やいだ雰囲気になった。見つけた台車に石や枝を積み、山小屋に戻って前庭部に石を並べ枝を組み簡単な竈を作った。山小屋内の食器類を持ち出し、件の小川でザブザブ気が済むまで洗い、鍋と薬缶に水を汲んで戻った。先程の大火力の小屋から枝を束にした簡易松明で火を拝借し竈に移した。
松の葉をさっと洗って火に掛けた薬缶に多めに入れ、鍋では自然薯とヨモギを茹でている。火を見ながら今日あった出来事を反芻する。
「…ロボットって意外性のある動きは予測できないらしぜ。捕まりそうになった時にすると良いかもな」
「例えば。 押忍!オラばばあ!」宇佐見は立ち上がり背を丸め両脚の間から顔を出しながら言った。
宇佐見という素敵な名前があるのに渾名がばばあになりそうな勢いで皆が大爆笑した。
「宇佐見さん、これからばばあって呼んで良い?」
「え?いやぁ〜…」
「ばばあがばばあにばばあって言わないの!」
日が翳ってきた。山小屋内を見渡すと蝋燭と燭台があったので蝋燭に竈の火を移し、竈の火を消して山小屋に各々入って行く。蝋燭もすぐに無くなりそうだから蜜蜂の巣も探しておかないと、上手くすれば蜂蜜も獲れるかもと考えながら就寝準備をする。
「雑魚寝になるかと思っていたけど、新品の布団が何組も収納棚に入っていたのね」
「過ごし易い温度だから雑魚寝でも構わないけど嬉しいねぇ」
テーブルと椅子を一箇所にまとめ布団を敷き眠りについた。
翌朝目覚めると、身体中あちこち痛い。腰が特に痛いし、腕が重だるい。昨日は塊の石を運んだり小枝を拾うために屈んだり色々したからなぁ。あ、股覗きポーズのせいかな…。6人とも疲れが出たのかモゾモゾしているばかりで起き上がる気配はない。
「今日はゴロゴロしてましょうか」
皆の同意を得て午前中は布団で過ごす事にした。
「ねぇ耳永さん、天文や物理に詳しいけどお若い頃どこかで習ったの?」
「あぁ、あたしゃ明治の物理学者兎田兎彦の弟子だったのよぉ」
「ん?もしや耳永さん100歳越えなんじゃ?」
「レディに年を訊かんでくれ」
昼が過ぎ、皆で緩々と片付けて果物で簡単な食事を摂った後、昨日の人型ロボットの残骸を見に行ってみた。部品が繋ぎ合わさって復活していたらどうしようと思っていたがバラバラのままだったのでホッと胸を撫で下ろした。
「赤目さん、連行された時気になっていたんだけど、ロボットの踵や肘、膝の関節部分って何かに使えない?」
「そうだな。例えば花瓶とか?長い管状の金属も使えそうだな」と赤目が胃の辺りを撫でながら言った。
「コップがいい!ロボットのコップでロボコップ」
兎田が叫び笑い声が弾けた後、使えそうな部分を幾つか山小屋へ持ち帰った。
午後になり各々作業に取り掛かる。私は移植ごてを使って畑を軽く耕し、葉物野菜と人参の種を蒔いていた。
「ばばあ。じゃなかった宇佐見さんよぅ、野菜作っているウサギなら知ってるかもしれないけど植物は上から見て右回りや左回りに137.5度の角度の葉順で生えてきてるんだよ。神秘的だねぇ」
「へぇ、知らなかったわ。耳永さんとお話しすると賢くなれるわ」
「宇佐見さんよぅ、野菜作っているウサギなら知ってるかもしれないけど植物は上から見て右回りや左回りに137.5度の角度の葉順で生えてきてるんだよ。神秘的だねぇ」
「そうですね。神秘的ねぇ」さっきも聞いたと思いながら宇佐見は応えた。
赤目夫妻は仲睦まじくロボット部品の金属を加工している。どうやら関節部品は花瓶にし、管状の部品は横笛にするのだそう。なんでもこういった生活には彩りが必要らしい。芸術家気質の夫婦らしくて素敵だと思った。
月沢は粘土で皿を33枚作り金属の台車に乗せ土小屋で焼き上げ、赤目夫妻による金属加工でお洒落な花瓶が完成し山で摘んだ花を食卓に飾って彩りを添えた。私は料理に奮闘するが、料理は家族に任せっきりだったので久し振りに食事当番を経験すると有り難さと大変さが心に沁みる。蜂蜜も豊富に獲れたので松葉サイダーの仕込みをし、葉物野菜の3度目の収穫を終えた頃にはすっかりこの生活にも慣れていた。
そんなある日の朝。
「夫が息をしていない!」と赤目が叫んだ。皆飛び起きて赤目の布団を取り囲んで容態を確認した。確かに心臓の鼓動が聴こえず、固く目が閉じられ顔色に全く生気が感じられない。
亡くなったようだ。
私は悲嘆に暮れ泣き叫び夫を揺すぶり縋りつく赤目さんを気の毒に思いながら静かに冥福を祈った。
しばらくして赤目が憔悴し切った表情で
「…夫はXデイの前に胃の手術をしたの」
「軽い病ではなかったのね」
「心配かけないように内緒にしてたのね」と泣き疲れたガラガラした声でぽつりぽつりと話し始めた。
皆で故人にまつわる話をし合い、思う存分に泣き励まし合った。
そして弔う為に大火力の土小屋で火葬する事になった。
炉から取り出し遺骨が冷えるまで私は皆に完成した松葉サイダーをコップに注いで振る舞った。献杯の音頭を取ろうと思う。
「献杯」皆でコップを高らかに掲げ再び冥福を祈った。
「アタシ達おくりびとだね」
「うぐっ」
「あれ?サイダー効きすぎ?」
「シュワシュワし過ぎ。発酵してる」
「アルコール化しちゃったみたいね」
皆で飲み終えた後、遺骨を回収しに向かった。赤目が大事そうに骨を拾っていくと、肋骨の下、丁度胃の辺りで何かを見つけて手を止めていた。
「彫り込んで字が書いてある…。『大切な妻へ、ずっとありがとう。月が綺麗だよ』」
自分が製作し夫に贈ったペーパーウエイトがなぜ此処に在るのか分からないまま声に出して読んだ赤目が泣き腫らした目で天を仰ぎ見た。
それはそれは美しい銀板が宇宙に輝いていた。
「そういう意味じゃないよ。愛してるってこと」
夫の声がして赤目が振り返るとそこには兎田がいた。思わず手を伸ばし抱き締めるとすぐさま兎田が気を失ってしまった。
「兎田さんは降霊者だったか」
「高齢者?」
「降霊者!」
耳永がウサステヤマに来てから北極星の周りの星が一周したと言いだしてから少し経って新参者が8人入山して合計13人となった。その中の一人、耳山が月沢の妻の親友だというので月沢が妻の居場所を聞くために身を乗り出した。
「最初のXデイの後、貴方の奥さんはウサギセイフが開発したVR世界に入居されられたのよ」
「へー、レディ・プレイヤー1 みたいだねぇ」
「なんか頭を覆う装置を着けてたね。なんて言ってたかしら?ANOYOS?その後は姿を見てないわ」
「…ANOYO」周囲から唾を飲み込む音が聞こえた。
「会いたいとウサギセイフに伝えたらVRを繋いでくれて会ってみたの。そしたらさ、なんかギャル語で喋る異形の姿になっていて、私たち親友同士の秘密について話したら見当違いな言葉が返ってきたわ」
「妻の生きた身体はどこに居るんだ?」
「私もウサギセイフに本人に会いたいと言ったんだけど、身体はもう無いっていわれちゃった」
その後、他の新参者から最初のXデイ後の街の様子を教えてもらった。ダンカイセダイが数は力だと徒党を組んで抵抗してもすぐに制圧されたという話も聞いた。
「ねぇ、皆さん。これから先もウサステヤマに続々と高齢者が集まっても、そしていつか私達がアレしても大丈夫なように皆が持っているスキルをまとめた生活マニュアルを作っておかない?」
「良いね!俺が丸太から木の板を切り出すから赤目さんに道具の使い方を教えてもらって各自作ってみてよ」
「名付けて『ウサギでも分かるウサステヤマ生活』」
周囲から打ち解けた大勢の活気づいた声が上がる。
私は赤目さんに並んで横笛を構える。教えられた通りに歌口に口を当てて吹くが、スーという音しか出ない。赤目さんのような綺麗な音色が出せるようになるには練習あるのみ。この歳になってもワクワクする事があるなんてと八十路の手習に精を出す。まるで青春って感じ?
あぁ、こんな毎日が永遠に続けば良いのに。最高の終の住処が暮れ泥む夕日に照らされていく。




