表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/47

第三十二話:日蝕の審判、科学の光

――西暦六二三年、冬。

 運命の正午が迫っていた。多賀の広場には、不安に震える移住者たちが数千人も集まっていた。

「全員、動くな! 持ち場を離れるな!」

 入鹿の声が多賀の街に響き渡る。

 近衛軍の兵たちは、かつて飛鳥で大江から受けた「天文学の特別講義」の内容を、必死に民衆に説いて回っていた。

「いいか、これは月が太陽の前を横切るだけだ! 影ができるだけだ! 決して空が落ちるわけじゃない!」

「怖がるな! すぐに元に戻る。俺たちがついてる!」

 兵たちが冷静に、かつ力強く民を導く姿は、恐怖の連鎖を食い止める防波堤となっていた。

 正午。

 空が薄暗くなり、気温が下がり始める。太陽が欠けていく中、玄州は演壇の上で狂ったように踊り始めた。

「見よ! 太陽が食い尽くされる! これこそが――」

「――これこそが、俺たちの『技術』を見せる最高の舞台だ!」

 入鹿が玄州の言葉を遮り、私に向かって大きく手を振った。

「大江、やれッ!」

 私は、城壁の四方に配置した閃光装置の点火を命じた。

「放てッ!!」

 シュアアアアアッ!!

 日食で暗くなった多賀の空に、マグネシウムを主成分とした強烈な閃光が炸裂した。闇を切り裂く白銀の輝き。それは、自然の影を打ち消す「知恵の光」だった。

「民たちよ、顔を上げろ! 影など恐れるに足らず!」

 入鹿が、眩い光の中で剣を抜き、高く掲げた。

「俺たちが守っているのは、ただの城じゃない。この『理』の光だ! 影が過ぎれば、太陽は以前よりも輝いて戻ってくる。それを信じて、俺たちの後ろに立て!」

 かつて飛鳥で大江が証明した真理を、今度は入鹿が、自らの言葉と軍の規律で体現してみせたのだ。

 数分後。影が通り過ぎ、再び陽光が差し込むと、多賀の民からは恐怖の悲鳴ではなく、蘇我の軍勢に対する熱狂的な歓声が上がった。

「……馬鹿な。民が、天罰を恐れぬだと……?」

 腰を抜かした玄州の前に、鎌足が音もなく歩み寄った。

「玄州殿。……李世民への手紙にはこう書いておきなさい。『飛鳥の若武者たちは、もはや迷信では動かせぬ』とな」

 鎌足の合図で、近衛軍が玄州を拘束した。

 私は、安堵の表情で戻ってきた入鹿と、強く拳を合わせた。

「入鹿、助かった。お前たちが民を落ち着かせてくれなきゃ、どんな光を焚いても手遅れだったよ」

「へへっ、飛鳥で散々聞かされたからな。……でも大江、これで李世民も分かったはずだ。次は小細工なしで、本物の『軍勢』が来るぞ」

 西暦六二三年、冬。

 内側からの崩壊を食い止めた三人の前に、ついに大陸の地平線から、唐の巨大な艦隊の影が姿を現そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ