永遠の旅路
彼女と初めて会ったのは俺がまだ若かった頃の話だ。
第一印象は不思議とあまり良くない。子ザルみたいに元気な子だと思ったのだけは確かだ。
それからもしばらく彼女との付き合いが続いたあと、照れくさそうに差し出された初めてのプレゼント。
彼女は「覚えてないなぁ」と笑うかもしれないが俺はきちんと覚えている。
まさか彼女が俺に何かを選んでくれるなんて、考えてもいなかったから。
その日は俺たちの結婚記念日だったのだ。
今でもその細い腕を、柔らかい笑顔を覚えている。
彼女との付き合いも5年が過ぎ、10年も過ぎた頃。
彼女と俺の仲は急激に悪化した。
何度も話をしようとしてくれた彼女に気づかないままいた俺は、彼女の心が離れてからようやく事態に気づいたのだった。
俺は後悔した。
彼女を傷つけたのは俺だ。
それなのに彼女を詰り、自らを省みもせずに怒鳴った俺を。
「まゆこ…」
涙で目の前が滲む。
その存在を繋ぎ止めるように強く手をにぎると、まゆこ…彼女もほんの微かににぎり返してくれる。
それだけで。
それだけで俺は嬉しくなった。
彼女との絶縁状態は5年もすると落ち着いてきた。
お互いに干渉しすぎない。
必要なときには必ず傍にいる。
それだけでいいのだと、他に何も要らないのだと彼女は教えてくれた。
大切にすること。束縛すること。
自由にすること。目を向けないこと。
似ているようで全くちがうと教えてくれたのも彼女だった。
俺の手をにぎる力がなくなるまであと僅かだろう。
俺は最後まで手を繋いでいようと固く心に誓う。
旅立つ彼女に俺ができる最後のこと。
出会ってから26年。
辛いことも確かにあったが彼女との26年はどの記憶も確かに輝いている。
俺には、彼女でなくてはならなかったのだから。
そして、とうとう――――――
彼女の手から力が抜け落ち、俺の手の中から離れていった。
「今までありがとう…パパ」
まゆこの隣にはタキシードの男。
悔しいが今このときから、まゆこを幸せにできるのは世界でこの男しかいなくなった。
それは―――父である俺でも叶わないこと。
「幸せに。絶対幸せになれよ」
俺が彼女にできる最後の願い事。
俺のとなりには愛する妻がいる。
一緒に寂しさを共有できるかけがえのない妻が。
祝いの日ではあるが今日くらいは2人で泣くことにしよう。
これからは2人だけで生きていくのだから、今日だけは。
赤い絨毯に、白い花びらが舞う――――――
どうもこんにちは、blazeblueです。
連載をサボってとうとう短編に手を出し始めました。
携帯投稿って案外難しいものですね。普段PCユーザーなので余計にそう感じます。
さて。
「彼女」について、誤解しましたか?
それとも最初からバレバレだったでしょうか。
拙いですが、上手くまとまった…と思いたい。
最近私のまわりでは結婚や出産をする友人がとても多くなってきました。幸せっていいですね。
周囲の結婚、出産ラッシュで幸せのご相伴に与るためにも書いてみました。
少しでもほんわかしていただければ幸いです。
長々と読んでいただきありがとうございました!
読んでくださった方々にも幸せが訪れますよう……。
06.01.2010
blazeblue