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第49話 魔族令嬢は、国王のもてなしを受ける

 数日後、ロベルト王からお茶の誘いを受けた。美味しい夏のハーブティーを楽しみながら、話をしたいという話だった。

 昼下がり、エドワードにエスコートされて、陛下の居室へと向かった。


「陛下のお話というのは、王位継承についてでしょうか?」

「おそらくは……」


 私の顔を見たエドワードは深く息を吸うと、困ったように眉をひそめて笑った。


「エド、やはりお断りするのですか?」

「当然だ。兄上もまだ若い。新しい妃を迎えればいいだけの話だろう?」

「そうですが……」

「私は玉座になど興味はない。兄上を支えていくのが身の丈に合っているんだ」


 荘厳な扉の前で立ち止まると、そこに立つ衛兵たちが頭を下げた。

 ゆっくりと開かれた扉の向こうで、ロベルト王が「待ちかねていたぞ」と明るい声で出迎えてくれた。初めて謁見の間でお会いした時に見た覇気のない顔と異なり、とても穏やかな顔をされている。頬も血色がよく、お元気な様子だ。よく見ると、その目元はエドワードと似ている。


「兄上、話というのは」

「まずは茶を飲もう。ブルーベリーパイとハーブティーを用意させた」

「コーヒーが好きな兄上がハーブティーとは、珍しいですね」

「なに。たまには花で癒されるのもいいだろう?」


 軽く笑ったロベルト王は、白磁のティーセットが並ぶ窓側の席へと私たちを招いた。勧められるままに椅子に腰を下ろすと、大きな窓の向こうで木々がさわさわと揺れた。

 ここから眺める景色も、とても美しい。ちらちらと揺れる黄色はヒマワリね。


「失礼します」といった侍女が、私のティーカップにハーブティーを注いだ。すると、甘く優しい香りがふわりと立ち上った。レモンのような爽やかさもあるわ。この香り、どこかで──考えていると、エドワードが「エルダーフラワーですか?」と静かに訊ねた。


 ハッとした。

 そうだ。つい数日前、庭で見上げた花木の香りだわ。


「ああ。エルダーフラワーにレモングラスとレモンピールを合わせたそうだ。癒される香りだろう?」


 少し寂しい顔をして、ロベルト王が笑う。


「兄上……」

「エドワード、本当にすまないことをした。何度謝っても、謝り切れない」

「よしてください。兄上は、ヴィアトリスに魔法薬を飲まされていた……そうですよね?」

「……そうだが、気付こうと思えば気付けたはずだ。私の甘さが、エリザを死に追いやった」

「兄上。そうだとしても、私は兄上を憎んだり、恨み言をいうなどできません」

「……恨まれた方がどんなに楽か。すまない。憎しみを繰り返すのが愚かなことくらい、わかっておる」


 苦笑を浮かべたロベルト王は、私を見て微笑んだ。


「リリアナ、君にも謝りたい。アルヴェリオンの問題に巻き込んでしまった上、エドワードと共に、私と国を救ってくれて、本当に感謝している」

「陛下。私はエドワード様の薔薇として、当然のことをしたまででございます」

「そうか……フェルナンドの薔薇は、エドワードの薔薇となったのだな」

 

 目を細めたロベルト王はカップに口をつけると、ほっと安堵の吐息をついた。

 窓から風が吹き込み、カーテンを静かに揺らした。遠くから、小鳥の優しい声が聞こえてくる。

 穏やかな昼下がりのひと時が、平和そのものを感じさせてくれた。


「……私は、この国の安寧をただ願っている」

「兄上、私も同じ思いです」

「だが……新たな妃を迎えるつもりはない」


 突然の宣言に驚き、指がティーカップの受け皿に触れた。小さくカチリと鳴った白磁のカップの中で、金色に輝くお茶が揺れた。

 私の横でエドワードがテーブルを叩いて立ち上がり、再びカップがカチカチと鳴る。


「それでは、世継ぎはどうされるつもりですか!?」

「王位継承二位は、お前だ。エドワード」

「私は玉座になど興味はないといいました!」

「エド、落ち着いて」


 真っ直ぐロベルト王を見つめるエドワードにそっと声をかけ、テーブルの上に置かれた手に触れると、指先が握りしめられた。


「だが、国を愛している」


 ロベルト王の静かな声が響いた。


「今すぐに王位を継承せよといっているのではない。王弟であれば成せることもあろう。しかし、王でなければ成せぬこともある。お前の心が決まるまで、私は王でいよう」

「しかし……」


 ぐっと私の手を握ったエドワードがこちらを見た。美しい若葉色の瞳が、揺れ動いた。静かに椅子に戻り、深く息を吸う。


 なにを迷うというのだろうか。

 アルヴェリオンに来て、私は日が浅い。それでも、エドワードが国と民衆を大切に思っていることを見てきた。正義感の強さも、優しさと温かさも目の当たりにしてきた。きっと、彼が国王になったら、誰もが喜ぶだろうことは容易に想像がつく。


「兄上、私は……リリアナを苦しめたくないのです」

「……私?」

「私が政権を握ったら、王妃派の貴族たちはどうでるか……君を守るのに、王という立場は危険すぎる」


 国を愛しながら、私を一番に思ってくれている。それが嬉しくも、悲しくもあった。


「エド……あなたが選んだ道に、私は従います。でも、忘れないで。私はあなたの薔薇。どんな未来も共に進みます」


 エドワードの手を握り返すと、彼の瞳が光を浴びて輝いた。今にも頬を伝いそうな涙をそっと拭い「意外と泣き虫ですわね」と微笑めば、エドワードは「情けないな」と呟いた。

 見つめ合って笑う私たちに、ロベルト王の声が優しくかけられた。


「エドワード、リリアナ。二人の好きなようにすればよい。だが、私が王でいられるのは、命があるまでだ。その時が来たら……嫌でも、お前が王になる。そのことは、忘れないでくれ」

「兄上……」

「蟄居して、畑でも耕そうと思っておったが、もうしばらく国のために働くとしよう。二人とも、手伝ってくれるのだろう?」


 ロベルト王の言葉に、私たちは手を握り合ったまま「御心のままに」と声を揃えた。

次回最終話は、本日18時頃の更新となります


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