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第29話 魔族令嬢は、小さな嫉妬を無視できない

 私を失いたくないというエドワードの曇りなき瞳に、吸い込まれそうになった。そこに灯るのは、強い信念。とても温かくて優しい眼差しの後ろに、怯えが見えた。

 エリザ様を死なせてしまったことを、強く後悔しているのね。だから、私を失うことを考えてしまう。


「……エドワード様。これは、またとないチャンスです」


 私なら、エリザ様の真実を語らせることが出来る。その為には、ヴィアトリス王妃の懐に飛び込む必要がある。

 王城に来てまだ日が浅い今だからこそ、王妃を頼るふりをして近づける。その状況下で、王妃から来いといってきたのだ。罠であったとしても、乗らない手はないわ。


「……わかっている。わかっているんだ」


 私の肩を締め付ける腕に、より力が込められる。


「私の能力は、相手の心を引き出すもの。それが強い悪意であった場合、当てられて意識を失ったり発熱することがある。それは事実です」

「どうにか、回避は出来ないのか? もしも、王妃の前で意識を失うことでもあれば」

「そうならぬよう、祈るばかりです。ですが……私の決意は変わりません。私にしか出来ないことです」

「リリアナ……」


 苦しそうに私を呼ぶエドワードは、唇を噛み締めた。その後ろでは、サフィアに寄り添われたデイジーが鼻を啜り、泣くのを堪えている。

 三人が心から私のことを心配してくれていると、よくわかる。能力を使わなくても、その温かさが胸に伝わってきた。


「強情な女とお思いでしょう。ですが……私は、あなたの力になりたいの。エリザ様の真実を知りたいの!」


 エドワードは、エリザ様を愛していなかったといった。それは事実だろう。でも、その心はエリザ様の死が彼を捕らえている。


「あなたの心には、エリザ様がいる。愛していなかったといいながら、忘れることは出来ない。あなたの心は、エリザ様に向いている。それが……辛いの」


 これほどエドワードに惹かれるなんて、アルヴェリオンに来た当初は思ってもいなかった。


 一緒に歩いた街や森で見せてくれた表情が目まぐるしく蘇る。私を気遣う彼の優しさ、眼差し、声、全てが愛おしい。だけど、そこに私じゃない女性の影がちらつく。


 アルヴェリオンのために、王妃と戦わないといけない。わかってる。わかってるけど……その前に私は、この小さな嫉妬を無視できなくなっている。


「エリザ様のことは仕方のないこと。そう、頭でわかっていても、私は、あなたを捕らえる死の真相を知らないといけない。エド……あなたの薔薇として生きるためにも、真実を知る必要があるの」


 震えそうになりながら、初めてエドワードを愛称で呼んだ。


 あなたの横にいるのは私だと。これからも横であなたを支えるのは、私なのだと伝えたかった。その為に、真実を知る必要があるのだと。


 エドワードの瞳が見開かれる。

 私の揺らがない決意を、彼はわかってくれたのか。少し眉をひそめると「リリアナは本当に強い」と呟いきながら笑った。

 大きな手が、私の髪を優しく撫でた。


「夜の茶会へ行くことを許す。だが、君を守るため、私も出来ることをする」


 エドワードは真摯な眼差しを私に向け、自身の胸に輝くブローチに触れた。


 ◇

 

 翌朝、着替えを終え、サフィアを連れて西の塔へと向かった。

 夏の陽射しに汗が滲む中、辿り着いた塔はしんと静まり返っていた。その姿を見上げていると、塔の衛兵が二人近づいてきた。


「王弟妃殿下、なにか御用でしょうか?」

「書庫を見たいのですか、入ってもかまわないかしら?」

 

 衛兵は顔を見合うと、少し困惑した様子を見せる。


「お一人では入られない決まりとなっております」

「ええ。だから、侍女を連れて参ります」

「わかりました。当の内部は薄暗くなっております。足元、お気をつけください」

「ありがとう」

 

 扉が開かれ、サフィアと共に内部へと入ると、そよそよと涼しい風が頬を撫でた。


「外は暑かったのに、ここはずいぶん涼しいわね」

「風の魔法で、室温を調整ているんですよ」


 階段を上がりながら、サフィアが指し示す先を見る。天上には、風車のような羽根が取り付けられている。それがゆっくりと回転していた。

 

「あれも、魔法の応用なのね」

「はい。この塔には古代魔法の書が多く保管されています。そのため、室温や湿度に気を配っております」

「貴重な本を守るためなのね。ここには、そういった本ばかりあるの?」

「いいえ。市井で流行る物語集などもあります」

「物語……エリザ様が訪れたのも、なにか書物を読むためだったのかしら?」

「それは……」


 言葉を濁したサフィアの足が止まった。当時のことを思い出してしまったのだろう。辛そうに顔を歪めたサフィアは深く息を吸った。


「エリザ様が転落したとされる窓の側には、一冊の本が残されていたそうです」

「本? 魔導書?」

「いいえ。『月影の恋歌集』アルヴェリオンで流行っている恋物語です」

「その本は、今もここにあるの?」


 私の問いに、サフィアは静かに「ございます。こちらへ」といって、階段を上がり始めた。

次回、本日13時頃の更新となります


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