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第28話 王弟殿下は、魔族令嬢の身を案じる(エドワードside)

 庭でヴィアトリス王妃と遭遇してから三日後の夜のことだ。

 夕方に届いた諸侯からの手紙に目を通していると、サフィアとデイジーが部屋を訪れた。二人の真っ青な顔を見て、すぐさまリリアナの顔が脳裏をよぎった。


「どうした。リリアナになにかあったのか!?」


 椅子を蹴り倒し、ドアの前で佇む二人に近づくと、デイジーが一通の封筒を差し出した。


「ヴィアトリス王妃様から、リリアナ様へ招待状が届きました」

「……招待状?」

「殿下、リリアナ様を止めてください!」


 涙目のデイジーが声を荒げた。その背を摩るサフィアも、不安そうな顔で私を見ている。

 封の切られた手紙を広げ、中身に目を通す。そこには「夜のお茶会へご使用対しますわ。貴女のこと、デズモンドのことを聞かせてちょうだい」と書かれていた。しかも文末には、私に内緒で来るようにと念押しがされている。


「……夜の茶会、だと?」


 手紙を持つ手に力が入り、便箋にくしゃりと皴がよる。


「リリアナ様は、明日、殿下に相談するとは申してましたが……エリザ様のこともありましたので、先にお耳に入れておいた方がよいかと思い、参りました」


 静かに報告するサフィアの瞳が伏せられた。

 そうだ。エリザが塔から転落したあの日は、ヴィアトリス王妃の私室に訪れた翌日だった。私は、夜の茶会が開かれるなど聞かされていなかった。なにも知らず、いつものように扉の前で「おやすみ」と言葉を交わして自室に入った。もしもしっていたなら──


「リリアナは、招待を受けるつもりなのか?」

「はい。王妃様の本心を知る好機だと申しておりました」

「……本心を知る」


 それは、私に打ち明けてくれた能力を使うということか。

 夜の茶会であれば、酒もふるまわれるだろうし、もしかすれば能力など遣わずとも、話を引き出せるかもしれない。しかし、護衛もない状態で向かわせるのは危険だ。


「止めてください、殿下! リリアナ様お一人では危険です。あの能力を、使わせないでください!」

「……どういうことだ?」


 涙をぼろぼろとこぼすデイジーは、鼻を啜ると「諸刃の剣なんです」と呟いた。


「以前、お力を使われた時は、その反動で動けなくなり、三日ほど熱にうなされました。魔王様が仰られてましたが……あの能力は、時として能力者の精神を蝕むそうです」

「……精神を?」

「熱を出したのは、見える拒絶反応だそうでう。最悪、意識が戻らないこともあると。そんなの、嫌です! 殿下、お願いします。リリアナ様を、止めてください!!」


 床に崩れ落ちたデイジーが声を上げてなく様子を目の当たりにして唇を噛んだ。

 庭で愛らしく微笑みながら「色々と制約もありますが、きっと、お役に立てますわ」といったリリアナを思い出し、自身の浅はかさに背筋が震えた。


 リリアナを信じている。だけど、それでも──招待状を握りしめ、部屋の奥、リリアナの寝室に繋がる扉へと向かう。

 扉をノックする拳に力がこもった。

 返事が待ちきれずにもう一度叩こうとした時だった。


「どうかされましたか、エドワード様?」


 その向こうから、穏やかな声が聞こえた。


「リリアナ、話がある」

「……もう寝ようとしていたところです。その、明日ではだめでしょうか?」


 少し戸惑う気配を感じた。ナイトドレス姿を見られたくないとか、なにか、思いがあってのことだろう。しかし、俺の意思は変わらない。


「急なのはわかっている。だが、今すぐ話したい」

「……わかりました。少し、お待ちいただけますか?」

「ありがとう、リリアナ」 

 

 扉の向こうで衣擦れの音がし、リリアナが一度、扉を離れていくのがわかった。ややあって、小走りにかけてくる足音がした。そうして、扉の鍵が外される。

 

 静かにドアが開けられる。ショールを肩にかけたリリアナがそこにいた。


「どうかされましたか?」


 困った顔がハッとした。その視線が私の後ろに控えるデイジーとサフィアに向けられた。それから、私の手に握られている招待状に気付く。

 なにを話したいのか、察したのだろう。リリアナは少し眉をひそめて胸元で手を握りしめた。


「……明日、ご相談するつもりでした」

「ああ、二人に聞いた」

「王妃様に近づく好機です。それに、ここで断りでもしたら、怪しまれるかもしれません」


 私に止められると思ったのだろう。少し早口になったリリアナが訴えた。


「私の能力で、必ず王妃様の本心を聞き出します。どうか、信じてお待ちを──」

「信じていない訳じゃない」


 リリアナの手を掴み、腕の中に引き入れた。

 薄いナイトドレスの向こうにある柔らかい身体を抱きしめ、その小さな頭をかき抱く。


「だけど、君は私に能力の話を包み隠さず話していない」

「それは……」

「信じろというなら、私を信じて全てを話してくれ」


 庭で私に耳打ちをした時、リリアナは「人の本心を喋らせることができます」といっていた。制約はあるといったものの、彼女自身に影響が及びるなんて話はなかった。


「自白させる魔法のようなものだと思ったが、そうじゃないのか?」

「……そのようなものです」

「しかし、命にかかわることもある。そうなのか?」

「それは……」


 腕の中で、リリアナが肩を強張らせた。その緊張が伝わり、堪らず腕に力を込めて抱きしめた。


「私は、君を失いたくはない」

「……エドワード様」


 私の胸に寄せられた小さな手が、シャツを掴んだ。

次回、明日8時頃の更新となります


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