グループ活動ではハブられるタイプです
座学が終わると、担任さんは戦闘訓練の授業の説明を始めた。
「戦闘訓練では各チーム3人ペアになってもらう」
「各チームにそれぞれクリスタルを配る」
配られるクリスタルの長さは1メートルくらいあり重そうであった。
「持ちにくいと思うので、陣地にクリスタルを置いて構わない」
「相手チームのクリスタルを奪うか壊したチームの勝ちだ」
「午後に向けての練習のため、相手への直接攻撃を認める」
「能力をうまく使って課題をクリアしてくれ」
「死に直結する行為はやめてくれ。危険とみなしたらすぐに中止する」
「場所はフィールド3で行う!」
フィールド3は2つの15メートル平方の陣地が用意されており、
陣地はコンクリートでできているが、残りは土でできているらしい。
陣地同士の距離は約50メートルくらいだったような気がする。
普段は生徒を2グループに分け、陣地内で訓練することが多いらしいが今回は違った使い方のようだ。
「では、3人ペアになってくれ」
みんな一斉に動き出した。結構、真剣に考えている。
連携をうまくさせたいため、仲の良い者で組む者、チーム編成をうまく考え、能力別に組む者。
学校の授業なんてまともに受けたことなどないオレからすると、真剣な表情は少し不思議だった。
どうやら課題で良い点を取ると、お小遣いの額が上がるそうだ。
それでプリンとかを買ったりするのだろう。
このクラスは17人だから、1つのグループは2人になるだろう。
今回は教師としての立場だから、そこに、偉そうに参加すれば良い。
学生時代のような嫌な思いをしなくて済むのである。
段々とグループが決まってきた。残り5人となった。
アルアルだなと、思いながら聞いていると、『あいつとは組みたくない!』のようなグループ分けに苦戦、喧嘩でもしている声が聞こえる。
お小遣いのためとはいえ、随分と真剣だ。
よくよく聞いていると、『あいつは変態なの!』と聞き慣れた声に気がついた。
そこでようやく気がついた。
オレと組むのが嫌だったカナニが、駄々をこねていたようだ。
それなりの時間が経ったので、担任さんが、
「カナニ、スバル、2人は副担任と組みなさい」
どうやらカナニとスバルはペアだそうだ。
「やですよ、先生」
カナニは引き下がらない。
「でも、2人だと攻撃力足りないだろ?」
「てか、あいつは強いんですか?」
「そうとは聞いている」
「何級なのですか?」
「いや・・・級はその・・・・5級らしい」
「5級? 以前の副担任は準1級とか2級じゃないですか! それに、クラスには準1級レベルの人がいるのに5級でいいんですか?」
「私自身この目で強さを見ていないから何ともいえないが、私の恩人が彼を推薦した。恩人は信用できる方だ。だから私も信じることにした。この課題で実力を見てから判断するのはどうだ?」
「・・・・・」
「一旦やってみない? もしそれでも嫌だったらその時は、今後関わらなきゃいいじゃん? ね?」
スバルも優しく説得する。
「うん」
やっと納得してくれたようだ。
そういうわけで、オレ、スバル、カナニの3人グループが成立した。
完全に腫れもの扱いである。グループ決めに10分以上かかってしまった。
初めの計画では、生徒に対して『じゃあ、一緒に頑張りましょう!』とか言うつもりだったのに・・・
これでは学生時代と何も変わらないではないか。
普通なら嫌がられている奴は、萎縮してしまい、グループで目立たないようにするが、今回オレは年上なので気にしないで萎縮しないでおこう。
くじ引きで戦う相手チームと戦う順番を決めた。
オレのチームは最後の第3試合で、相手チームは男2人、女1のグループであった。
とりあえず、作戦会議をするため2人のところに行こうとした時、担任さんがやってきた。
「今回、お前には全力を出してもらいたい。私もチサトさんを信じてないわけではないが、この目で見ないと納得できない」
「わかりました」
「失礼なことはわかっている。その代わりと言ったらアレなんだが、お前のチームが勝ったら10万ゼニーボーナスとしてあげよう」
「マジですか! ひとつ確認したいことがあるんですけど」
「なんだ?」
「それは勝てば貰えます?『全力出していないからダメ』とかはないですよね?」
「もちろんだ。ただ、今回のお前の相手は準1級レベルの破壊力を持つ奴がいる。その上、お前のところの他の二人は、攻撃向けの能力者ではないぞ。全力ださないと勝てないとは思うぞ」
「わかりました! ま、最強なので大丈夫です!」
オレは2人のところに向かった。
とりあえず、話が通じそうなスバルに声をかけてみることにした。
「なんかすみません。よろしくお願いします」
「白銀先生! よろしくお願いします。スバルです!」
「スバルさんね! 電車では本当ごめんね」
「スバルでいいですよ! 助けてくださりありがとうございます」
スムーズに会話をする事ができた。
「とりあえず作戦立てないといけないんじゃない?」
「そうですね! ちなみに私の能力は、能力者の力を上げる能力です。私の体から発せられる赤い電気に当たると能力者は一時的に倍くらいの威力になります」
そう言ってスバルは赤い電気のようなものを見せてくれた。
「すごい! いい能力じゃん! 一家に一台は欲しい能力だね!」
「家電製品じゃありませんよ~」オレのつまらないボケにも付き合ってくれるやはりいい子であった。
そして、スバルは続けて、
「それで、あの金髪の子がカナニと言います」
「うん。仲良くなれるといいんだけどね・・・」
「カナニの能力は・・・」
「ちょっと! なに勝手に教えようとしてんのよ!」
オレたちの会話を聞いていたであろうカナニが割り込んできた。
「作戦会議なんだから仕方ないでしょ! それに今は協力しないと勝てないよ?」
スバルは少し呆れるようにカナニを諭した。
「わかったわよ・・・私の能力は人を治せる。どんな怪我でも基本的には元通り。能力は疲れるからあんまり使いたくない。だからあんたを治す気はないから!」
「わかりました。教えてくださりありがとうございました」
一応情報は入った。本当に攻撃力のない2人組だった。
「先生の能力ってなんなんですか?」
「ああ、一応、登録上は、肉体強化能力となっているよ」
「肉体強化能力ってパンチとかが規格外の力出るやつですよね?」
「ま、そんな感じかな。基本的な戦闘スタイルは殴る蹴るだ!」
オレは少しシャドーをして見せた。
「じゃあ、私の能力で強化しますので、先生が攻撃担当でもよろしいですか?」
「もちろん。そのつもりだ!」
「ちなみに2人はどのくらい動ける?」
「わたしもカナニも身体能力は高い方だと思います。能力が戦闘向けではないので、基本的な格闘技術も学んでおります」
「筋トレは大切だからね!」
味方のことはわかったので、敵の情報が欲しいなと思っていると、
「相手チームの3人の能力知っておきたいですよね?」とスバルは気を利かせてくれて概要を説明してくれた。
まず、身長183センチで体格のいいやつが英賀ということ。
そいつの能力は、【破壊光線】だそうだ。
手から破壊光線を発することができるらしい。
熱エネルギーを変換させ破壊光線を出すのであろう。
威力自体は、本気を出せば準1級クラスはあるとのこと。
性格は単純で、何事にも熱血にのぞむ奴らしい。
悪く言えば脳筋というやつだ。
もう一人は颯太という男。
身長は166センチと少し小柄で体も細めである。
能力は【サイコキネシス】
つまり、念動力で物や人を動かしたりすることができる。
近接格闘戦は弱く、遠距離で物を動かして戦うのが基本スタイルとのこと。
最後の女の子はさっきのギャルだった。エマというらしい。
能力は、【創造】
手から物を創れるとう能力らしい。
基本的に構造を理解していれば具現化は可能だそうだ。
ナイフや銃弾くらいなら、それなりの時間で作れるらしい。
そして、意外なことにクラスで1番頭が良く、担任さんもよく作戦を相談したりしているとのことだった。
さっき、自由にしていたのはそのためだったのかとスッキリはした。
ギャルが天才という、まさに、人は見かけによらないことを痛感した。
どうせ、頭脳も最強のオレには負けるだろうがな。
そのほか性格に関するエピソードを聞くことができた。
「結構バランスにとれているチームだね。エマと颯太は相性がいい。エマが作った物を颯太が動かしたりできそうだね」
「ええ。そうなんです。特に颯太は、攻守どっちにも使える能力ですし、今回の課題ではクリスタル動かせられたらアウトです」
「そうだな・・・扱える距離制限とかあるとおもうけど、どのくらい?」
「正確ではないですけど、半径25メートルくらいが限界かと」
「ほかに使える技とか見せてたことある?」
「技・・・ですか? 物を操るのしか見たことないですよ? なんかあるんですか?」
「いや、じゃあ、なんでもない。気にしないで! あとさ、質問なんだけど、勝たないと、お小遣いアップないの?」
「勝負の世界を教えるためらしく、勝たないとだめらしいです。ただ、勝ってもなにもしていないと、さすがにダメみたいです」
「そっか、やっぱりプリン食べたい?」と少し思い切って聞いてみた。
「聞こえてました? 電車での会話。やっぱお小遣いは欲しいかな」
「じゃあ、こう言う作戦はどう?」
オレは、思いつく中でのベストの作戦を敵に聞かれないよう耳元で小声で伝えた。
顔を近づけたので、ちょっと緊張したことは内緒だ。
「でも・・・危険じゃないですか?」
「オレは最強だから大丈夫だよ! カナニさんにも伝えておいて!」
「はーい!」と言ってカナニに伝えてきてくれた。
他のチームが作戦を立て終わるのを待っている間、スバルは気を利かせて会話をしてくれた。
「先生は何が最強の能力だと思います?」
「んー難しいな。スバルはなんかある?」
「私は時間止める能力とかあったら強そうだと思います」
『そうそう! ストップヲッチで止めている間に触り放題だもんね!』と言おうとした自分を一旦殴り、
「止まってる間に攻撃できるもんね!」と答えた。
「なんで自分のこと殴ったのですか?」
「えーーと。なんか時間止められてる間に殴られているイメージ?」
うまく言い訳が思いつかなかった。
「なにそれ! おもしろーい!」
スバルはこちらの意図にも気が付かず笑ってくれている。
『天使を汚してはいけない』そう誓ったオレだった。
「さっきの質問の答えだが、1万個くらいの能力使えるやつとか?」
「1万個って・・・そんなのいるわけないじゃないですか!」
何故かもう一度、『一万個』をゆっくりと言って欲しかった・・・
とりあえず、オレの地獄行きは決定したかも知れないな。
「100個くらいならいるかもよ?」
「いつか会ってみたいです!」