勉強なんてクソ喰らえ
歩きながら、さっき考えた面白い自己紹介を頭の中で繰り返し、戦闘準備は万全だ。
建物のドアを開けると、目の前には、教室が見えた。
建物のドアは、教室の後ろの出入り口につながっていたようだ。
生徒達はオレ達に気づかず、各自席に座りながら、近くの人と楽しく談笑をしている。
教室は、机と椅子があり、前には黒板と教壇があると言う、シンプルなものだった。
机や椅子は必要に応じて、ボタンひとつで床下に収納されるらしい。
黒板もただの黒板ではなく、声を流すだけで勝手に文字が浮かび上がってくれ、授業によってAIが板書をわかりやすくまとめてくれるそうだ。
また、黒板で通信ができるようになっているらしい。
黒板で何を通信するかは気になるところではあるが・・・
先に担任さんが入り、教壇に立ち、『副担任を紹介するからみんな静かにしてくれ!』と声をかけ、生徒たちも段々と静かになっていった。
そして、オレに向かって『まずは、自己紹介をしてくれ』と言った。
こちらも準備万端であったので「わかりました!」と返事をした。
オレも、教室の後ろから生徒のいない端の方を通って教壇に向かった。
教壇に立って生徒たちの方に顔を向けると、それなりに興味そうにこちらを見ていた。
ふと教室の後ろの方を見ると、見覚えがある人がいた。
さっき電車であった、オ・・・じゃなくて、カナニだった。
ブレザー型の制服姿だから、今まで気が付かなかった。カナニもオレと目が合うと
「え。キモ。さっきの変態じゃん!」と教室の後ろで割と大きめの声で叫んだ。
まだ賑やかであったなら聞こえなかったであろう。
静かな教室、一言一句聞こえたであろう。はい。終わった。帰ろう。
静かだった教室がすこしざわつき始めた。
『変態?』と男子生徒は少し興味があり、女子生徒は少し引き気味である。
完全に頭が真っ白になってしまった。
だが、ここで逃げ出せるわけでもなく、オレは仕方なく自己紹介を行った。
「副担任になりました白銀です。これからよろしくお願いします」
これしか言えなかった。数秒たってまばらな拍手が聞こえてきた。
女子たちによる『クール』という声も聞こえない。
オレは教壇を降り、あらかじめ指示された通りに教室の後ろの端に座った。
さっきは気がつかなかったが、スバルもオレの席の近くにいた。
「副担任だったんですか? よろしくお願いしますね」と笑顔で声をかけてくれた。
相変わらず、天使ぶりは健在である。
オレと入れ違いに教壇に登った担任さんは、「副担任と仲良くするように」と一言述べてすぐに座学の授業を始めた。
座学の授業では、オレは特にやることなく、90分、後ろの席で授業を観察してろとのことだった。
基本的に担任さんが、授業をし、生徒がノートを取るというよくあるスタイルだった。
このクラスは全員が16歳と同い年のため、同時に授業が可能でありこのスタイルになったのであろう。
オレは、授業を真剣に受けても、気持ちが悪くなりそうなので、可愛い子でも探すことにした。
このクラスの女の子は、全体的にレベルが高い。
芸能クラスと言っても過言ではない。
その中でも、目に止まったのは、赤い髪でツインテールをしたギャルであった。
制服のスカートを短くしてセーターを腰に巻いて上手く着こなしている。
ギャルはどちらかといえば嫌いだが、結構かわいいと思った。
ただ、そのギャルは全然授業を聞いていない。
生徒の陰でよく見えないが、どう見ても、授業に関係ない本を読んでいるように見える。
それにも関わらず、担任さんは注意しない。
他の生徒は授業に集中しているのにも関わらずだ。
ギャルというものはそういうものと言ったら怒られるが、少人数制なんだし、担任さんもそれなりに面倒見てあげればいいのに、と思った。
そんなことを思っても、まだ2分も経過していない。
以前、テスト監督のバイトをしたことがあったが、あれは辛い。
くしゃみ・おならの一つもできないのである。
いつか、すかしの技術をマスターし、受験生を困らせてみたいものだ。
今、全く同じ状況である。
オレは、バイトの辛さを思い出し、なんとか90分耐えることに成功した。