人は見かけによらない
数秒後、インターホンからは女の声がした。
「はい。どちら様」
「あ、あの~、副担任としてきました白銀です」
「はい。今行く」女は淡々と答えた。
副担任って、裏社会での何かの隠語だったりするのであろうか。
正直、愛人がインターホン出るとは思わなかった。
そういう仕事は見習いがするものとばかり思っていた。
しばらくすると、女が分厚い鉄でできた両開きの門を開けて出てきた。
綺麗で、巫女のような格好をした、黒髪のポニーテールを揺らしている。
愛人は年をとっている者がなるものだとの偏見があったからか、想像していたより、ずっと若かった。
背もオレと変わらないくらいの170 センチくらいある。
胸も大きくポニーテールと共に揺れている。
ものすごく気になることは、左手に日本刀を持っていることだ。
「はじめまして、五十嵐美鈴だ。よろしく」
一応、手を出されたので握手をした。
日本刀で腕を切られるのかと用心していたが大丈夫であった。
「あの・・・あなたは?」
「聞いていないのか? 私が担任だ」
「女の人とは聞いて無くて・・・・」
勝手に苗字だけで男だと決めつけていた。
おじさんの『早乙女さん』が存在することをすっかり忘れていた。
もちろん担任というのはブラフの可能性もある。
ただ、もう少し真剣に握手を堪能しとけばと、後悔はした。
「ちょうど副担任を欲しいていたら、チサトさんがあなたを紹介してくださった」
チサトさんとは、おそらく、大家の婆さんのことであろう。
いつも、大家の婆さんと呼んでいたから本名を覚えてない。
「お役に立てると光栄です」とやる気はないが一応答えておいた。
「チサトさんに、『腕はピカイチだから』と言われたが、私と同じ1級か?」
能力者の強さランキングをイメージして貰えば良い。
5級・4級・3級・準2級・2級・準1級・1級と分れており
1級が一番強いとされている。
世界共通の、能力者のための国家試験であり、NTR隊に入りたい者は受けている者が多い。
ただ、試験内容は、戦闘力よりの試験内容が多く、空を飛べる能力とか、あまり攻撃性はないが、使える能力が過小評価されることもある。
1級は世界にも100人程度しかいない。
スシ島には1級保持者は、多くても、10人くらいであろう。
級が上がるごとに難易度は指数関数的にはねあがるとされている。
正確とは言い切れないが、1級を1人倒すのに、準1級が5人は必要かもしれないと言われている。
ちなみに、最強のオレは5級だ。
過小評価に決まっている。それに、オレは真の目的を知っている。
これはテストを通じて、能力者を政府が把握することだ。
オレは最強すぎるので政府に注目されたくはないので、あえて5級止まりにした。
一応、4級も受けたが落ちていることは秘密にしておこう。
「オレは5級です!」
質問に偽りなく答えた。経歴詐称はバレると、後々面倒だからである。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔というのを、本当に見た気がする。
担任さんの綺麗だった目が点になっている。
しばらくして、担任さんは元の綺麗な顔に戻った。
「いや~どーも、テストがオレにあっていないというか・・・・」
一応、弁解はしておこうと思った。担任さんは特に何も言わなかった。
せめて、『そうやって言い訳する奴は多いぞ』とか会話くらいしてくれてもよかったと思う。
『少し電話がある』といって、オレから距離をとった。
十分な距離でなかったので、担任さんの声は聞こえる。
少し興味が湧いたので聞いてみると、
「ええ、お久しぶりです。美鈴です」
「いや。なんというかその。副担任が偽者の可能性があって・・・」
「特徴ですか?」
「白い頭で、マヌケ面で、筋肉はあるほうかと」
「え? あってる。そうなんですか。でも、5級ですよ?」
「いえいえ、わかりました。お忙しいところすみません」
どうやら、オレが本物か疑って、大家の婆さんに電話したようだ。
『世の中はテストだけでは計れないんだよ、お嬢さん』
こんなことを言っても余計カッコ悪くなるので、黙っておいた。
諦めた様子でこちらに戻ってきて、淡々と業務内容と施設説明しはじめた。
ここでは、副担任は基本的に、担任がいない時のみ授業をすれば良いとのことだ。
毎日、長い道を歩かなくてすむので安心した。
しかし、今日から1週間は慣れてもらうため、補佐として毎日授業に参加してもらうとのことだった。
いきなり地獄へと叩き落とされた。
今日の授業内容は、午前中が90分の座学と生徒同士の戦闘訓練、午後が避難訓練らしい。
避難訓練とは、みんなでお手てを繋いで外に出るわけではなかった。
外部の能力者に委託して教室が襲撃されたと想定して、生徒と戦ってもらうらしい。
無事全員が教室の外に出れたら授業終了というものだそうだ。
また、午前中の生徒同士の戦闘訓練には参加してほしいとのこと。
ただ、午後の避難訓練は教室で見てろと言われた。
以前の副担任が、生徒にモテたいがために、指示されていないにもかかわらず、外部の演者を全員瀕死にさせてしまったらしい。
それで、外部の人に多額の賠償金を払わせられたからとのことだ。
『だいたい面接をしてる人あなたが悪いんじゃ・・』と言いたかったが我慢した。
『お前には、その心配はないだろう』と馬鹿にされながらも、一応外部の人や生徒に手を出したら1000万ゼニーの罰金及び懸賞金をNTR隊に頼んでかけると言われた。
どんだけトラウマなんだよ。
やっぱ、金儲けしか考えていないやつなのか。
そのあとは、設備の説明を歩きながら受けた。
久々に女の人が横にいて一緒に歩ったので、その状況に興奮をしすぎて、あまり説明を聞いていなかったがなんとなくは覚えている。
敷地面積約3700平方メートル。建物は3棟あるらしい。
1つは、生徒達が寝泊まりする宿泊棟である。3階建の建物で部屋数の総数が40あるらしい。
今は男子が1階、女子が2階を使っている。
そして3階は食堂となっているそうだ。
次に案内されたのは、運動棟であった。
宿泊棟より大きい建物であった。10階建だ。
全て覚えていないが、
50メートルの室内プール、トレーニングジム、体育館などあらゆる施設が揃っているらしい。
3つ目の建物は、他2つと比べてかなり小さくそこには教室とトイレがあるシンプルなものだ。
あとは、戦闘訓練に使っているフィールドと呼ばれるエリアが、いくつかあるそうだ。
正直、遊園地にでも遊びにきた感覚である。
生まれつきお嬢さまだったのか、それとも夜職で稼いだのか
ま、1級なので賞金稼ぎで稼いだ可能性の方が高いが。
ただ、それにしても、授業料が高くないと、ここまでの施設を作り維持することは不可能であろう。
死ぬほど、働いて稼ぐなら別だが。
そもそも、こんな設備をよくするのは集客のためとしか考えられない。
授業料だけで成り立っていたらとんでもない女だぞ。
オレの臓器が売られることはないかとても心配である。
とりあえず、教室に生徒がいるというとのことなので、教室のある建物に向かった。