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それでも僕は揉んでない!


オレの、オレの手が、スバルの胸を掴んでいた・・・

咄嗟のことで、反射的に掴めるものを掴んでしまったようだ。


「いや、あの、え、いや、そのすみません。バランスを崩してしまって・・・」

オレはすぐに手を退けた。正直いうと、気が付かないフリをしてあと30分くらいは握っていたかったが。


「わかっていますよ。気にしてませんから」嫌な顔一つせずに答えた。

天使だ。天使だ。

普通なら『何すんのよ』などと言って、ビンタの一つや二つは喰らわせられるだろう。


オレは体勢をなおし、「では、失礼します。」と言って歩き出した。


いい思いをしたな。一応、助けてあげたからかな。

と思っていた刹那、

「ちょっと、待ちなさい!」カナニがオレを睨めつけ声をかけてきた。


「オ、オレ?」

「それ以外誰がいるのよ、変態!」

「いや、変態といわれましても、不可抗力でして・・・反省はしております」


どうやら、スバルのために怒っているのであろう。


「カナニ? 私は大丈夫だよ? それに、あの人の言う通り、わざとじゃないと思うよ?」スバルはオレのフォローをしてくれた。やはり天使だ。


「あのね、スバルはいっつも優しすぎるのよ。ほんと、私がいないとダメなんだからっ」

「大丈夫だって。助けてくれたでしょあの人は。悪い人じゃないよ?」

「いい? スバル。こいつは確信犯よ」

「なんでそー思うのよ。元痴漢の犯罪者? とかなの?」


オレの前でものすごい会話がなされている気もするが、気にしないでおこう。


「元犯罪者かどうかは知らない。でもね、こけたふりしてワザと触ったのよ。そういう下心しかない奴よ」

と言って一枚の、ふにゃふにゃした紙をスバルに見せた。


そこには、30代前半くらいの女性のいやらしい姿が載っていた。


「これはあいつがこけたフリをした時、私に投げつけてきたの」


完全に冤罪である。オレは投げつけてもないし、いやらしい広告など知らない。

流石にオレも、『冤罪だ。名誉毀損で訴える!』と声を出そうとしたが、ふと、点と点が線でつながり声は出さなかった。


オレは、あの卑猥な紙が、何であるかわかったのだ。

あれは、さっきオレが酔っ払いを追い払うのに使いくしゃくしゃに丸めた紙だ。



てっきりNTR隊の広告だと思っていたが、あれは以前、バイト帰り、変な店の前を歩っている時にもらった広告だ。


第一、民間企業でもないNTR隊が、広告なんて出すわけがない。



要するに、オレは酔っ払いに、エロい広告を見せただけである。



「スバル、おかしいと思わない? この広告を見せただけであの酔っ払いが勘違いしていなくなるなんてさ。普通、偽物って気がつくでしょ」

「た、たしかに」


『いやそれは、オレのやり方がうまかっただけで・・・』と言いたいが、言える空気ではない。


「おそらく、あいつと酔っ払いはグルね。金で買収したんだは。それで私たちにつけ込んで連絡先でも交換しようとしてたんじゃないかしら。一種のテクニックね」


連絡先交換しようとしたこと以外、あっていないではないか。

グルでもないし、お金もないし。


「でもさ、ブレーキかかったのはたまたまじゃない?」

「私もそう思ったよ。でも、すぐに立ち上がったでしょ。わざわざ歩かなくてもいいのにさ。ブレーキなくてもこけたふりをするつもりだったんだよ」


いや、歩く必要はあったぞ。オレは偽者なんだよ。気がついてくれよ。

「んーーーー。なんかしっくりこないなぁ」

「とにかく、こういうものを見ているってことは変態に違いないの!」


おいおい。その理論は、全世界の男性が変態になってしまう。


仮に、『寝取られ』のことを言っているとしても、オレはそのジャンルは見ないぞ。


オレが好きなのは・・・そんなことはどうでも良い。この状況をどうにかしないと。


「あ、偽者だから席を立ったんじゃない?」嬉しいことに、スバルが閃いてくれた。

「でも、それはグルじゃないって証明になってないよ」

「そっか。わかったよ。でも、酔っ払いに直接聞かないと証明できないから、私たちこのままだと証拠ないじゃん。酔っ払い探すのも面倒だし今回のところは行かせてあげない?」


なんという優しさ。オレに対する疑いは1ミリもなく、親友の言うことも素直に聞いてあげて、双方上手く納得できるように導くとは。

やはり天使である。お供え物とかはしないタイプの人間だが、いつか必ずプリンをご馳走してやる。

そう心に誓った。


「ってことで、失礼します。ほんとうにご迷惑をおかけしました」 

オレは一応頭を下げておいた。


「いえ、こちらこそ助けていただいたのに、証拠もないのに失礼なことを」

スバルは丁寧に返事をした。


「ま、いいは。今回は許してあげる。次はないから」

カナニは自分の信念を曲げる気はないらしい。


オレはそのまま、進行方向と反対の隣の車両に向かった。隣の車両は混んでいた。


ちなみに、カナニがオレに話しかけてから、オレはずっと2人の前で、オレに関する2人の会話を聞くというシュールな状況であった。


無駄に辱めを受けた上に、車両を移動する際にも他の大人に変な目で見られた。


胸を触るという、ラッキースケベに釣り合わないくらいの罰であった。



ビンタの方がまだマシだったぜと思いながら、釣り革を持って腕に力を入れ筋肉チェックを行って、目的地に向かった。

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