体臭には気をつけよう
基本的に、電車は乗るとしたら、立って乗るタイプである。
釣り革を持ち、日々公園で鍛えている筋肉を窓に反射させ、肉体のチェックをしたいからである。
ただ、新しい職場までは35分と長丁場でもあるし、スーツなので肉体チェックできないから、座ることにした。
オレは、端の席以外は座らない。
両隣に座られると、どうしても、両方からの視線が気になって仕方がない。
検索履歴や予測変換を見られていないかと、座っていても気が休まらない経験は誰にでもあるだろう。
幸いなことに、朝の8:00では、マグロ町から田舎に向かう電車は、結構空いていたので、端の席に座ることができたのだ。
田舎行くとはいえども、時間が経つとやはり混み始めてきた。
立って乗る人も、ちらほらと現れた。
それにもかかわらず・・・・
何故か、オレの隣には座ってこない。
別に、座ってきて欲しくはないから、良いことではある。
ただ、自分の隣だけ空いていると、どうしても気が気ではない。
オレは、身長176センチであり割と標準的ではあると思う。
それに、股を売春婦のように開いて座っているわけでもないし、スペース的には余裕で座れると思う。
座らない原因としては、2つ考えられる。
1つ目は、威圧感であろう。
別に顔が強面というわけではない。どちらかといえば、マヌケ面と言われてきた。
体格の方である。
可処分時間が人より多いから、筋トレをよくしていたオレは、筋肉質なのである。
俗に言う、マッチョだと思われる。ゴリマッチョというわけでもないと思われる。
思われると言ったのは、男女での価値観が違うからだ。
女子の細マッチョとはいったい何を表すのだ。そもそも、言葉としても矛盾しているように思えて仕方がない。
小さめののっぽや、無能な天才、とかもありになってしまう。
2つ目は体臭だろう。
今まで、『臭い』と言われてきたことはないが、あまりにも隣に座らないと自分の体臭を疑いたくなる。
今まで言われてこなかったのは、本当に臭すぎて、言えなかったのではないかと疑心暗鬼になりながら、腕で汗を拭くふりをして、脇の匂いを嗅いだ。
やはり、自分で自分の匂いはわからない。
原因がわからないまま、電車は目的地へと進んでいた。
もちろん、オレの隣の席は埋まることはなかった。
しばらくすると、向かいに座っているおじさんたちがスマホやパソコンから目を離し、みんなが、一定の方向を見始めた。
流石に気になって見てみると、視線の先にはピンク色のショートヘアの女の子が乗車してきた。
申し訳ないが、感想としては、『おっぱいデカっ』だった。
何カップかはわからないが、服の上からでもかなり大きいのがわかる。
胸元が少しあらわになっているのがよりセクシーであった。
空いているオレの隣の席を見つけて、なんの躊躇もなく座ってきた。
ラッキー!!!!
自分の体臭が臭くなかった喜びよりも、右隣に巨乳の女の子がいる喜びが勝った。
周りの男たちは、すごく残念そうな顔をしていた。
オレは、軽く背筋を伸ばし、スマホをスリープ状態にして、口を閉じながら少し頬をあげた。
もちろん、鼻毛が出ていないことをそっと確認するためだ。
ちなみに、よく聞かれる質問だが、オレの鼻毛は白色だ。
当たり前の話で、髪の毛の色と同じなのである。
体毛は髪の毛で判断できる。
正直、白色は、老人みたいでコンプレックスでもある。
唯一、良かったことと言えば、教室の床にオレの縮れ毛が落ちていたとき、『ワイシャツの糸がほつれた』と言い訳できたことであろう。
そこで、中高生にオレからのアドバイスだ。
転校してきた金髪外国人に、下の毛の色を聞くなど、自明なことはやめなさい。
そんなことしてクラスで浮いてしまうことは勿体無い。
いいか、答えは決まっている。
『生えていないだ!』
そんなことを思っていると、肩に何か硬いものがコツンとあたった。
「あ、肩ぶつかってすみません」ピンク髪女の子が眠そうに言った。
「あ・・・だ、だいじょうぶです・・・」
年下の女の子に、動じることなく答えられたとしておこう。
さっきは、おっぱいしか見なかったが、近くでみると顔もとてもかわいい。
白くきめ細かい肌に、髪の毛より少し濃いピンク色をした瞳が、とても魅力的だ。
ピンク髪の女の子は、再び、うとうとしはじめ首を揺らし始めた。
手に紙袋を持っていることから、早起きでもして買い物でも行ってきたのであろうか。
24時間営業の店がほとんどであるからその可能性は高そうだ。
オレは、再びピンク髪の女の子と触れ合うことを期待しながら、シャンプーの甘い香りを楽しんでいた。
次の駅に到着し、ピンク髪の子の隣の人が電車を降りて行った。
それをみるや否や、おじさんたちは一斉に腰を浮かせ、空いた席の、イス取りゲームの臨戦態勢に入った。
そんなおじさんたちの努力も、一瞬で水の泡となった。
金髪のロングヘアーの女の子が、その席に座ってしまったのだ。
オレも、おじさんたちの殺気に夢中で、入ってくるところは気がつかなかったが、横目で見ると、胸は少し小さく、細身でハッキリとした顔立ちをしている。
可愛いというよりは綺麗というべきか、青い瞳は宝石のように輝いている。
結んでない長い髪の毛も美しさを引き立てている。
一瞬、金髪の子に目移りしてしまったオレだが、別に、ピンク髪の子を忘れたわけではない。
オレは、ピンク髪の子を一旦起こして、紳士的に『起こしてすいません。ここで降りますか? 一応聞いておこうと思って・・・』などいって、合法的に肩を触るか葛藤に駆られていた。
悩んでいると、ピンク髪の子が目を覚ましてしまった・・・