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目がみえないから夢を見る  作者: muro
始まりの入学
9/21

初登校.9

「……」


 一定の間隔で聞こえる本の音は、紙が指の摩擦でしなり一ページずつ積もっていくのを想像させられ、どんどん眠気が膨らんでいく。

 そんな私を無視するかのように止まらないその音を聞いて


「……移動……するとき……に…………私を……起こして…………ほしい……」


 構わず自分の要求を伝えた。確か教室に荷物を置いたら体育館に集まるように言われている。たぶん時間的にまだ集合時間まで空きがあるはず。なので寝れる時間がある。


「……」

「……よろしく」


 とっくに限界が超えて意識が朦朧としている中、何とか伝えた。

 初対面でしかも返事に答えてくれなかったし望みは薄い。けど正直、起こしてくれなくても別にいい。


『ふふ。……いいの。何も見えなくても……○○さえ生きて、私に…………』

 

 薄れる意識をそのままに遠い記憶が浮かび上がる。

 心待ちにしていたその声を辿るように深く眠りに就いた。



 * * *



 ――――――

 とある村に一人の青年がいました。青年はとても誠実でお人良しな性格で、困った人が居れば迷わず手を伸ばすような心優しい人でした。青年には三人の家族が居て、父、母、そして兄弟(きょうだい)と四人で暮らしています。そんな家族四人の暮らしはとても裕福とは言えない生活でした。けれど、正義感が強くて頼もしい父、慈悲深く優しい母、足癖が悪いが元気な兄弟と青年は自慢な家族だと思っており、今の生活に不満は欠片もありませんでした。そんなある日、青年宛てに一通の手紙が届けられます。青年に心当たりが無く、疑問に思いながら手紙を読んで見ると、なんと青年に向けた縁談のお話でした。「何で僕となんだ」と、さらに疑問が深まり家族に相談する事にしました。すると父から驚愕な真実を聞かされます。なんと青年には許嫁がおり、お互い一六を過ぎたら結婚をさせようと考えていたのです。唐突に明かされた裏話に驚き過ぎて固まっていると、母も知っていたと言われました。「何で教えてくれなかったんだ!」と、青年には似つかわしい怒った声や表情で家族に詰め寄りました。そんな青年に父は「お前には好きな人と添い遂げてほしかった」と、冷静な声で言われます。許嫁の事を勝手に決めたのはそっちじゃないか……と、いい加減な返答に青年はショックを受けていると、母から衝撃な理由が明かされました。それはこの家族には借金があったと言うのです。元々は、母の父親がお金を借り返済出来ずに亡くなってしまった為、母に引き継がれていきました。当時、まだ若かった母は親戚の家に引き取られる形で、その親戚の家業を手伝って稼いでいきました。母は一人で抱えていくつもりでしたが、父と出会い次第に二人は惹かれていきました。ですが、秘密を抱える母は父に思いを伝えられませんでした。そんなとき"とある事件"が起き、母に秘密がある事を父に知られてしまいます。母は、絶望と諦念にかられましたが父は「お金の事は心配するな」と「お前が好きだ」と思いを伝えました。父の言葉や思いに母はすごく喜びましたが、罪悪感が道を塞ぎ素直に気持ちを受け取る事が出来ませんでした。そんなとき"とある事件"で知り合った商人にある提案を持ちかけられます。それが縁談だったのです。商人は父を気に入り借金を肩代わりする代わりに、もし子供ができたら商人の子と結婚させようということでした。何故まだ子供が居ない今に縁談の約束をさせるのか父は疑問に思いましたが、母はその話を受けました。それから数ヶ月後に二人の夫婦に天から子が授けられたのでした。青年は「そうだったんだ……」と小さくつぶやき手紙を見つめます。そして父、母を見て青年は縁談の話を受けました。それからは話がトントン拍子に進んでいき、商人の娘との対面や食事などをして仲を深めていきました。家族も商人の娘を大層気に入り、青年は何だか自分の事のように嬉しくなりました。最初は恩返し有りきの繋がりでしたが、段々と青年は恋に落ちていきました。そんな満ち足りた日々を送っていた青年に一通の手紙が送られてきます。青年は商人の娘からの手紙かもと、思いが高まりながら手紙を読むと青年は勢いよく走り出し、商人の娘の家へと向かいました。息が上手く出来ない状態の中、何とか家までたどり着き商人に手紙の内容を確認しました。商人は体を小刻みに震わせながら小さく頷きました。なんと商人の娘が誘拐されたそうなのです。商人は「娘が買い物に行ったきり帰って来ないんだ」と言い、青年に小汚い紙を渡しました。その紙には文字が書かれており、内容は"この娘を帰して欲しければ大金を用意しろ"とのこと。具体的な金額に、日付や場所、そして赤い血痕がこびり付いていました。青年はあまりの出来事に足から崩れかけましたが、必至に商人の娘のことを思って奮い立たせました。何とか落ち着きを取り戻し、青年は商人の方にこれからどうするのかを聞きました。商人の方は震える声ではっきりと言いました。「この取引には応じれない」。予想外の返答に少しの間の後、青年は慌てて商人に訴えかけました。するとポツポツと理由を話します。実は、実子では無いということ。そしてあの子には借金があるということを。青年は商人の家を飛び出し、思い悩みました。あの娘を助けるには大金を用意しないといけません。けれど青年にはそんな大金を用意する手段がありませんでした。家族に相談する手もありました。けれど青年はその手を取る事はありませんでした。青年は立ち止まりました。立ち止まってうずくまって震えて。そして立ち上がり、走り出しました。――――――青年はジャラジャラと鳴らしながら、ズッシリとした重みがある袋を担いで目的地まで歩いていました。何と青年は短い時間で大金を用意する事が出来たのです。青年は全て(・・・)を手放しました。家族も自由もそして○○を。それでも青年は歩みを止めずに、暗闇の中を突き進んでいきます。そして声が聞こえました。今だに聞き慣れていないけれど、ひどく安心してしまうその声に、青年は涙を流しながら手を伸ばしました。――――――とある事件から数年後、青年は妻と一緒にまだ幼い女の子の元気な声を聞きながら、幸せな家庭を築いていくのでした。

 

 

 

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