初登校.8
「とう~ちゃく! 案外長いよねー学校の廊下って。あっ確か君はBクラスだったよね?」
長く響く足音やたまに聞こえる風が窓を叩く音。人がすれ違ったであろう少し温い風に度々当たりながら、歩いて五分ぐらいで目的地までついた。
ドア越しから盛んに声や物音が聞こえる中、着いて早々憂鬱な気分になりながら頷く。
「ずいぶんと賑やかそうなクラスだね。ふふ。さて、じゃあわたしの役目は果たしたし、此処いらで失礼しますか!」
静かな方が良いと心の中で愚痴りながら、楽しそうに笑っているその人の腕をゆっくりと放した。
さっきまで私を支えたくれたそれは、手の温度と共に離れていく。
「じゃあね! 困った事があったらすぐ私を呼ぶんだよ?」
カツン カツンと音が鳴り、どんどんと遠ざかっていくのを感じる。
慌てて口を開こうとして、鳴っていた音が消え変わりにカサカサと服が擦れ何かを振る音がする。
もしかしてと思い、手を少し上にあげてゆっくりと左右に振った。
「ありがとう」
正解かどうかは分からないけど、感謝の気持ちを言葉や手を振る音に乗せる。
再び鳴り響くその足音は、気のせいか少し軽く聞こえた。
* * *
「……眠い」
教室扉の前で動けずにいる。
別に緊張して歩けずにいるとか、周りの反応が不安で足踏みしているとかではない。
ただ…………眠たい。
正直に言えば、校内へ入ったときから感じていた。
『まあ、いつもの事』と軽く考えていたせいか、将又歩き過ぎたからか、眠気が一気に襲ってきた。
「……もう……無理」
教室の扉を左手で体を使い何とか開ける。
案の上、内側に籠もっていた音や熱気を全身に浴びる。平常時ならまずどんな音なのか、音の出所、匂い、肌感なので確認してから入るかを決める。けど、今はそんな余裕が無い。
今直ぐにでも倒れそうな体を懸命に動かし扉を閉める。
そして白杖のグリップをしっかり握り、上から下に強く突いた。
チリーン チリーン
ダンと地面を叩く音の後に二つの鈴が鳴り響く。密閉しているだけあって音が端まで響き渡った。
働かない頭で教室内の状態を把握していると、周りの生活音が消えていることに気づく。たぶん見られてる、と思いながらも気にして居られない。
「…………ふぁ~~んぅ……」
長いあくびを出しながら自分の席まで一心不乱に歩いて行く。
普通ならクラスの座席表が黒板や教卓に張り付けられているらしいが、私は予め自分の席をキリに教えて貰っている。確か一番後ろの窓際。
数人で使う教室なら広いが、三〇人ぐらいで使うのでそれだけ一人一人の移動スペースも狭い……。なので真ん中らへんの席じゃなくて本当によかった。
「……」
無事に自分の座席まで着き荷物を下ろす。まずは椅子に手を置く。
全体的に木で作られていた為、サラサラとしたさわり心地。背もたれを持ってゆっくりと引いていく。今だ周囲の音がほとんど無い静寂な空間の中、椅子を引きずる音が良く響く。椅子を引き終えゆっくりと座った。
「…………良い……」
少し硬いが座り心地も良く足の高さも問題ない。後は机だ。
手で机の場所を確認して少し腰を上げ、椅子を後ろから前に引く。ちゃんと机に腕を置くぐらいまで近づけた。机の高さも問題なく使える。
「……ねぇ……隣の………………本の人……」
座る事によって体がこれで休めると思い始めたのか、段々と体が伸びていく。
眠気も相まって体が完全に寝る体制になる前にやる事をやる。
白杖を机の横に掛けてから隣の人に声をかけた。