初登校.7
群集の波に呑まれないように、入り口の横で人が減るのを待つ。
壁に背を当て寄りかかりボーッとしていると、いい感じに人の足音が減っていた。
立ちっぱで少し疲れている足を動かし、いよいよ学校内へと入った。
チリーン
鈴の音を鳴らし周りを確認する。
少し先に段差があり、多分そこで上履きに履き替えて左右にある凹状の物に靴をしまう。
私は、靴を持ち歩く方が楽なので上履きを袋から出して靴を袋に入れた。
「…………おー……」
上履きを履いてもう一度白杖を突いて音を鳴らす。
室内の空間が広いのか跳ね返る筈の音があまり聞こえなかった。でも大体の構造を把握することが出来て、左右に通路、そして二つの直階段ある事がわかる。
私のクラスは、確か二階にある筈なので階段の方へ歩いていると
「きみ!」
甲高い女性の声。
左の通路からその人が小走りに走ってくる。
「え~と、わたしは二年の鈴川 明美って言うんだけど。」
私の前まで来ると何故か突然名前を名乗られた。周りに人は居ないから多分私に話しかけていると思うけど……。
心あたりが無くて少し困る。とりあえず続きを待った。
「新入生だよね? もし教室まで行くのが大変そうなら、私が付き添うよ?」
多分だけど私の外見を見て話しかけてくれた?
今まであまり人と関わりが無かった私でも、こういう風に見られたことは何度かある。
けど、話かけて来たのは初めてだった。
「あッてか、君に話しかけているからね! いや、それじゃあわからな」
「……お願い……します……。」
驚きもあり返事を返せずに居ると、私に話し掛けられていないと捉えていると思われたのか、更に話かけられた。
初めての経験に少し好奇心が湧く。実際階段を上るのに一人か、二人かでは早さや安心感が違う事もあり、頼ることにしてみる。
「! うん、任せてね! えっと、じゃあ私の腕を掴んで」
「ここだよ」と腕をぺしぺしと叩く音がした。音の方に左手を伸ばす。
服のサラサラとした感触に、少し温かみがあるそれを掴む。力加減がわからない為、ちょっと控えめに掴んだ。
「もう少し強く掴んだ方がいいかも。……うん、それぐらいならオーケーかな」
掴む力が弱すぎたみたい。
それにしても何か慣れているような言動。
少しキリに似ている。
「よし、そろそろ動こっか。ゆっくりに歩くからもしペースが乱れたり、不安な事があったら言って。すぐ止まるから」
さすがに一人で上れるぐらいには、移動が出来るので多分大丈夫。
不安要素を上げるなら、相手が上手く手引きしてくれるかどうか。
けどその不安も段々と薄れていく。
「はい、階段の前に到着したよ。次は上がり階段をのぼるよ。はい、一段上がったよ、その調子!」
「今、半分ぐらいかな。大丈夫? 疲れてない?」
「よし、あと少しだよ。一緒にがんばろー!」
「後一段でー……終了~。おつかれさま! がんばったね」
私のペースに会わせながら、今居るところや、体の事とかを確認してくれる。
応援とかもしてくれていたけど、私が上る最中には静かに見守ってくれたので、集中できたし安心して上がれた。
「え~と、確か一年生のクラスは右廊下側にある筈だから、こっちだね」
そう言うと、「もう行ける?」と聞きながら掴んでいた腕が右に逸れるのを感じた。
行く方向は大体分かっていたので、大人しく従い小さく頷いた。
「うん、それじゃあ君のクラスまで出発進行~!」
高いテンションとは裏腹に、ゆっくりとした歩み。
いつもとは違うテンポや耳新しい陽気な声に、少しだけ頬がゆるんだ。