初登校.5
久しぶりの外出。ほとんど夜にしか外に出ないため、太陽の日差しが強く感じる。その為、車までのほんの数メートルさえ少しダルい。
気落ちしながらトボトボと歩いていると
「ユメお嬢様、こちらをどうぞ」
肌にチクチクと当たる暑さが消えた。何をしたのかを不思議に思っていると
「こちら日傘になります。今日みたいに日差しが強い場合に使いますので、遠慮なく申しつけ下さい」
「……ん……ありがと」
日傘……。使ったのは初めてだけどすごく快適。さっきとは違いスタスタと歩ける。
「お手をどうぞ」
車の前までついたらしく「ガシャ」と車のドアが開く音がした。
キリへと左手を前に出す。ゆっくりとキリにエスコートされながら、足を起点とし体を入れる。無事座るにことが出来た。
楽な姿勢になろうとしていると、キリが私にシートベルトを着けて入念に安全のチェックをしてくれる。
「では、満天星学園までお願いします」
一通り済んだのか運転手に発進の合図を出す。
「ユメお嬢様。いってらっしゃいませ…………どうかご無理のないように」
いつもなら私と一緒に車で出かけるのに……。わかってる。これも条件の一つなのだから。
そこに居るだろう人に"初めて"言う。
いつもより少し声が硬く、低いあなたに。
「いってきます」
* * *
車が動き出すエンジン音、時々起こる浮遊感、左右に揺れる体。
実は車に乗るのは苦手。否応なしに起こるそれらは、私の不安を駆り立てる。
「……」
自然に左の方に意識が向く。
いつもなら必ず居てくれる人。不安定な私に手をそっと握ってくれる人は今はいない。
左手で右手を包む。いつもの温もりを求めながら。
「お嬢様。間もなく到着します」
キリから事前に到着予定時間は聞いていた。
なのでもう車を出る準備は出来ている。
「到着しました。夢お嬢様」
車の中からいろんな声が聞こえる。
笑い声や只でかいだけの声、車内なので大声しか聞こえないけど、今まで聞いた事ないほどの数の声が外にはあった。
これから行く所には、いろんな人が居るんだろうなと思いながら耳にある物を付ける。
「お手をどうぞ」
運転手がドアを開けに来てくれた。
いつもはキリが開けてくれた為、無意識に待っていたみたい。
私はそれを無視して外に出る。
「ここまでありがと……帰りもお願い」
運転手の人は少し固まっていたけど「了解致しました。行ってらっしゃいませ」と言い、声の出所が下に下がった。
たぶんお辞儀をしていると思い、「行って来ます」と返した。
「あ、いた~。今年も同じクラスみたい! よろしくね!!」
「おまえ何の部活入る?」
「やっと光輝先輩に会える!! 楽しみ~」
「これから高校生になるのか……。不安過ぎる……。」
人だかりがある方へ歩いて行く。
確かまずはクラス表が張り出されていて、自分のクラスを確認してその教室へ向かう。
私は、あらかじめ自分がどのクラスかを知っているから、そのクラス表の横にある正面玄関に行けばいい。そう思いながら歩いていると、周りの空気に違和感を持つ。
何でだろうと考えながら、人にぶつからないように白杖や鈴の音で周りを把握して進む。
「ようこそ! 満天星学園へ!!」
人の少ない端を方を歩いていると一人の男性が声を上げる。
その瞬間、音が消える。何百という声がピタッと途絶えた。