初登校.4
「これ……ありがとう……大事にする」
キリからもらった布を優しく握りながら言う。
多分これは入学祝いだと思う。キリからの"2回目"の贈り物。
例え誕生日でも祝われないような屋敷で、物を貰うということは私にとってすごく心が温まる出来事で……。だからなのか少し布を握る力が力む。
「ユメお嬢様、それでは皺が出来てしまいます」
そう言われ慌てて離す。離す力加減もミスしてしまい、手の平から重みが消える。
「…………ごめん……」
「いえ、大丈夫ですよ」
せっかくの贈り物を落としてしまった。大事にするって言ったばっかりなのに……。落ち込みながら謝る。
キリは気にしていなさそうだけど、僅かに声のトーンが高く少し震えていた。
怒ってしまったかもしれないと、不安に思っていると
「今から付けて行かれますか?」
キリは落ちた布を拾い、手で汚れを払いながら言う。
「……ん……おねがい」
いつも通りに戻ったキリに言う。
まだちょっと不安が残っているけど、布が目元に巻き付きそれが消える。
頭を押さえつけられるような感触、そして気持ちが抑えられ収まるのを深く感じた。
「力加減の程は問題ございませんか?」
「……ん……大丈夫」
いつもキリが巻いてくれていたから、そこら辺の加減はキリが一番よく知っている。なのに一々確かめてくるあたり、キリの性格とさりげない優しさが窺える。
「そろそろ向かわれないといけないお時間です」
もうそんな時間なんだ。
私はそっと目元に巻き付いている布を触り、気持ちを切り替える。
「失礼します」とキリが私の左手を優しく握り、ゆっくりと手を引かれる。
いつも通り「段差がありますので」と言われ、段差の下に足を下ろすようにゆっくりと座る。座り終えるとキリが靴を履かせてくれる。
「革靴なので履き心地としては少し硬くなっております」
確かにピッタリと革靴が填まっている足からは、少し窮屈さがあった。でも立ってみたところ、そこまで重さは感じられず動き難いという事はないと思う。
「慣れない靴の場合、靴擦れ等があるかもしれません。もし動けそうのない場合はこちらを押して下さい」
そう言うと、四角い布状な物を渡される。
「こちらはお守りに偽装した発信器です。真ん中の部分を押すとこちらに信号が送られます」
発信器……。十中八九あの人の指示だろう。まあ、学校に通う条件にも入っていたしあんまり驚きはないけど、まさか靴擦れの話で出でくるとは思わなかった。
「では、向かいましょう。こちらをどうぞ」
私は、小さく頷きゆっくりと立ち上がる。するといつも外で使っている鈴付きの白杖を渡される。この家で過ごす事になったときから使っている物なため、とても手によく馴染む。
グリップをしっかり握り上に少し持ち上げる。そして強く下に突いた。突く強さに比例するように鈴が高く鳴る。聞き慣れた音は、遠くへと鳴り響く。私の行く先を照らし示してくれるように。
「行って来ます」
私は振り返らずに家を出た。