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目がみえないから夢を見る  作者: muro
始まりの入学
4/21

初登校.4

「これ……ありがとう……大事にする」


 キリからもらった布を優しく握りながら言う。

 多分これは入学祝いだと思う。キリからの"2回目"の贈り物。


 例え誕生日でも祝われないような屋敷で、物を貰うということは私にとってすごく心が温まる出来事で……。だからなのか少し布を握る力が(りき)む。


「ユメお嬢様、それでは(しわ)が出来てしまいます」


 そう言われ慌てて離す。離す力加減もミスしてしまい、手の平から重みが消える。


「…………ごめん……」

「いえ、大丈夫ですよ」


せっかくの贈り物を落としてしまった。大事にするって言ったばっかりなのに……。落ち込みながら謝る。

キリは気にしていなさそうだけど、僅かに声のトーンが高く少し震えていた。


 怒ってしまったかもしれないと、不安に思っていると


「今から付けて行かれますか?」


 キリは落ちた布を拾い、手で汚れを払いながら言う。


「……ん……おねがい」


 いつも通りに戻ったキリに言う。

 

まだちょっと不安が残っているけど、布が目元に巻き付きそれが消える。

 頭を押さえつけられるような感触、そして気持ちが抑えられ収まるのを深く感じた。


「力加減の程は問題ございませんか?」

「……ん……大丈夫」


 いつもキリが巻いてくれていたから、そこら辺の加減はキリが一番よく知っている。なのに一々確かめてくるあたり、キリの性格とさりげない優しさが(うかが)える。


「そろそろ向かわれないといけないお時間です」


 もうそんな時間なんだ。

私はそっと目元に巻き付いている布を触り、気持ちを切り替える。

  

「失礼します」とキリが私の左手を優しく握り、ゆっくりと手を引かれる。

いつも通り「段差がありますので」と言われ、段差の下に足を下ろすようにゆっくりと座る。座り終えるとキリが靴を履かせてくれる。


「革靴なので履き心地としては少し硬くなっております」


 確かにピッタリと革靴が()まっている足からは、少し窮屈さがあった。でも立ってみたところ、そこまで重さは感じられず動き難いという事はないと思う。


「慣れない靴の場合、靴擦れ等があるかもしれません。もし動けそうのない場合はこちらを押して下さい」


 そう言うと、四角い布状な物を渡される。


「こちらはお守りに偽装した発信器です。真ん中の部分を押すとこちらに信号が送られます」


 発信器……。十中八九あの人の指示だろう。まあ、学校に通う条件にも入っていたしあんまり驚きはないけど、まさか靴擦れの話で出でくるとは思わなかった。


「では、向かいましょう。こちらをどうぞ」


 私は、小さく頷きゆっくりと立ち上がる。するといつも外で使っている鈴付きの白杖を渡される。この家で過ごす事になったときから使っている物なため、とても手によく馴染む。


 グリップをしっかり握り上に少し持ち上げる。そして強く下に突いた。突く強さに比例するように鈴が高く鳴る。聞き慣れた音は、遠くへと鳴り響く。私の行く先を照らし示してくれるように。


「行って来ます」


 私は振り返らずに家を出た。







 

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