初日終了.11
「以上が契約内容になります。何か質問等はありますか?」
聞きたいことはある。けど、今は色々と整理したい。頭もだけど心の整理も。
「質問があります」
気持ちを落ち着かせていると質問の声が上がる。またしても、さっぱりした人が意見を口にする。こういう困惑した状況で真っ先に立ち上がる姿からリーダーシップが高い人、と思い人物像を更新しつつ声の方に意識を置く。
「……本当にそのサインは両親が書いたものですか?」
「間違いありません。ちゃんと合意があり頂きました。それに両親が書いた文字かなんて、貴方たちなら一目で分かるのではないですか?」
「……」
ここに居る大部分の人の思いを代弁するかのような質問。確かに私も思った。本当にあの人が書いたサインなの?と。でも帰ってきた答えは無情にも黙らせる。
「では、もう一つ質問があります。何故そのような契約をする必要があるのですか?わざわざ秘密裏に行った意図も分かりませんし、書いてある方針の部分も言っていた事と矛盾しています。」
数ある疑問の中で、特に主張が激しい三つのものを質問してくれる。これに関しては分からない所が多すぎる。まず、契約する必要性。多分入学金と同様、人数をコントロールするため。だから、最後の文に記されていた”五億円”が鍵になっていると思う。けど、
「そうですね。簡単に分かりやすく話せる範囲で答えると実験の為です」
「……終わりですか?」
「はい。以上です」
簡単で分かりやすく短く、けれど広すぎる一文。そして思い出す。校長先生は実験の事について、『今の貴方たちに教える事は出来ない』と言っていた。つまり最初から私達に詳しく話をする気がないらしい。
「なるほど、よーくわかった」
比較的近くから自信に溢れている男の声がした。
「あんたらが”貧相”ってことがな」
声の位置的に多分私と同じ新入生。座ったまま発せられる声から、堂々とした態度と燃えているような危ない立ち振る舞いが聞こえ見える。
「その紙が本当かどうかなんてどうでもいい。俺はエリートだ。五億円なんてはした金、どうとでもなる」
花びらやかに語られている声に不思議と腹が立つ。こういうタイプの人は今までも何人かいた。でも、それも何とも思わなかったし、こんな気持ちになる事は初めて。
「だが、あんたらのその上から目線の要求が気に入らない」
「どういう意味ですか?」
「とぼけんな。つまりこれは入学式を装った単なる誘拐だろ?」
なるほど。確かにその可能性だってある。
「やり方はまどろっこしいが現に今、俺が此処にいる事は誇りに思って良い。なんせ俺は、あの有名なパータナム社次期会長の……」
不自然なぐらいに声の勢いがすんと止まる。そして何を思ったのか、力強く咳払いしたり、スリスリと何かをさするような動作をした。




