初日終了.10
「いえ、それはありえないです」
案外あっさりと返される返事。でも不思議と言葉に明確な力強さを感じた。
「確かにこの場所には、今まで貴方達を守ってくれていたルールも常識も、家族さえもいないです」
どれもあまり縁が無い言葉に胸が締め付けられる。当たり前のものなんて無い。いつか必ず変わってしまうものばかり。
「しかし、それでも貴方達は我が校の生徒になるべくこの場所に立っています」
でも、いつしか変わってしまったことですら忘れる。
「国民があっての国のように、此処もまた生徒が居るから学校になるのです」
なら、どうせ変わるのなら、私は
「皆さん、こちらのスクリーンをご覧下さい」
唐突に声を掛けられたかのように意識が声に向く。無意識に俯いていた顔を上げた。
「この写真は皆さんの保護者様方から頂いた契約書のサインとなります」
身に覚えが無いものが映し出されていたのか疑問や不信の声がさざ波のように鳴る。
嫌な予感がする。何か大事な物を奪われそうになっているような。そんな感じが。
私にも聞き覚えの無い話しだけど、何より”保護者”という単語が私の心を締め付けて離れない。
「皆さんが知らないのも当然です。この契約書のサインは、皆さんがこの場所に来る前に頂いた物ですから。」
「一体何なのですか?その契約書は」
校長先生の言葉に引っかかりを覚える。
『皆さんがこの場所に来る前に頂いた物』、つまり入学する前にあの人からサインを貰ったことになる。けど、やっぱりおかしい。
もし家に直接来たのなら、何らかの情報が届いているはず。殆どあの家にいたことだし。それを”当然”と言い切ることに疑問が湧く。それに何より、あの人がそんな手間が掛かる事を素直にしない。
「見ての通りこの契約書には、一人一人の名前、出身地、顔写真の他にこの学校における貴方たちの方針を書きさせて頂きました。今からその方針を読み上げさせて貰います。」
どうやら契約書に書かれている文章を口にも出してくれるらしい。ほっとする反面まだ、言いようのない不安が付きまとう。
『 ⒈他生徒への心身的そんしょう行為を行う。又、合意の無い暴力や破壊行為をしない
『 ⒉教職員への反こう、問題行為を行う。又、最低限授業には参加し妨害をしない
『 ⒊校舎から出ようとする。
以上の契約内容を遵守の元、違反行為が見つけられた次第に減点対象となり、一定値を下回った際には特別対応として五億円を請求する事で本契約とさせて頂きます。
意味が分からない。1と2は後と先で言ってる事が全然違うし、3に関しては矛盾している。でも、それだけならまだ良かった。
理解したくない。けど、もしそうなら辻褄が合う。あの人が何故動いたかが。




