初日終了.5
チリーン
白杖に付いている鈴を鳴らして中を確認する。
音からしてけっこう広い。約八,九畳ぐらい……私の部屋と似てる。
土間からの段差に気をつけながら靴を脱いで上がる。しかし床に足が触れた途端に思わず身が固まった。
「たたみ」
歩み慣れた感触がそこにあった。
自然と心が落ち着いていくのを感じながらこの部屋の構造に意識を向ける。そして直ぐにある可能性が脳裏を横切った。
「……私の部屋と…………同じ?……」
広さ、構造、それから置いてある家具さえもほとんど同じ。歩いて周りを手探りで見極める。音でも分かったけど、家具の"置いてある位置さえも一緒"。だから全体を自由に動きまわる事が出来た。
「……」
大体確かめ終えるといつもの定位置に座り机に顔を乗せる。
…………流石に不自然。似ているとか近いとかそんなものじゃない。まるでここで一日を過ごしてきたかのような違和感の無さに、収まりの悪さを覚える。
「……疲れた」
この学校に来て、この状況にあまり漠然としないけど、それはそれでこの空間には気が和らぐ。
その為か今日の疲れが一気に押し寄せてきた。
今までとは違っていっぱい歩いたし少人数だけど同い年ぐらいな人と話した。
「それに……」
* * *
「――三年間この学園から出る事を禁止致します」
「……三年間」
改めて言われた言葉に思わず気になった単語を呟いてしまう。そのぐらい言葉の重みがそこにあった。
すると、どこからか一瞬視線を感じた。どこから? 感じた方向に耳を澄ませようとすると
「どういう事ですか?」
「どうとは?」
「とぼけないで下さい。昨年まではこんな決まり事無かったではないですか。いつから我が校は全寮制になったんですか?」
又もやさっぱりとした人が質問をして話を掘り下げてる。
昨年にはなかったということは今年初めて建てられたということ。
それをどうやら在校生だった二,三年生は知らなかったらしい。
「そうですよ校長先生!! いつから全寮制変わってしまったんですか!?」
「そうだよ! 聞いてないよそんなこと……他の先生も知ってたってことだよね?!」
「え……じゃあ本当に……」
さっぱりとした人を切り目に体育館中から質疑が飛び乱れる。
主に二,三年生から発せられていた喧噪から、一年生はここに来てようやくこの殺伐した空気に現実感を覚え始めていた。……まあ、こうなるって薄々わかってはいたけど……少しうるさい。
「おまえらァァァ!! 今は授業中だァァ! 話しは後で聞く。今は静かに話を聴け」
「……うるさい」
直ぐ後ろから怒号が放たれる。大きく力強く広がる声は周りを一瞬で萎縮させた。
その影響で静かになったのは有り難いけど、別の意味で私にも影響が生じた。
……主に耳に。




