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目がみえないから夢を見る  作者: muro
始まりの入学
1/21

初登校.1

 お母さんの声がした。

 少し掠れていて優しい声。

 聞いてるだけで安心し、身を預けてしまうその声に。

 今日も私は夢を見る。



 * * *

 


 見慣れた"光景"を前に左手で右手首を掴みそっと上げる。現実で在ることを確認し深呼吸した。


ジメジメとした空気に当てられ汗がにじむ。まだ夏にはなっていないが、体感温度からして、外からギラギラと輝いている太陽は、もう夏の顔をしているのだと想像させられる。


 そんな暑さを見に受け、私は少しでも涼しさが欲しく、そっと布団から身を起こした。

 上半身を起こし、眠い頭でどうしようかと考えはじめていたとき、「失礼します」と声が掛けられ(ふすま)が開く音がする。


「失礼致します」


 聞き慣れた声が聞こえ、そっちの方に顔をむける。

 少しソプラノが利いていて淡々とした声。毎朝お越しに来てくれるその声は、少し冷たい音だけれど、私の眠気をそっと覚ましてくれる。


「おはようございます。ユメお嬢様」


 彼女は、使用人兼私のお世話係の霧景(きりか)。年上で私より6つ上の22歳。2年前、私がこの家に引き取られたとき、一緒に彼女も雇われた。淡々としていて必要以上な事は話さないが、私が不自由な生活をしないように、いろいろとサポートしてくれる。


「おはよう……キリ」


 私は、霧景のことを愛称で"キリ"と呼んでいる。

 気に入った人や仲良くなりたい人には、親しみを込めて愛称を付けるようにしてる。けっして2文字の方が呼びやすいから、愛称と称して楽をしているわけではない……。


「今……何時?」

「朝の6時45分でございます」


 キリは、質問に答えながら近くに来ると「失礼します」と言い、私のパジャマを脱がせ制服を着せてくれる。

 初めての制服は少しキッチリしていて、動き辛いところもあったけど、何だか新鮮な気持ちになった。


「お食事の準備は出来ております。――失礼します」


 キリは、少し間を置いてから私の"左手"をそっと掴んだ。ゆっくりとした足取りで部屋を出る。

 手を引かれているけれど、私の歩幅に合わせて歩いてくれるため、安心して身を預けた。


「ユメお嬢様。お食事の前に身なりを整えましょう」


 そう言うと掴んでいた手を離した。


 少しすると蛇口をひねる音がし、水が流れ溜まる音をボーッとしながら聞く。

 左からキリが「お顔を洗います。少しお顔を下げてください」と言い、私はそれに従い顔を洗ってもらった。

 しっかり洗ってもらった後は、優しくタオルで拭いてもらう。


 何気に顔を拭いてもらうこのときが、けっこう好きだったりする。なんて言うか……優しく包まれている感じが安心して好き。

 ひとときな幸せに浸っていると、顔を包んでくれていたタオルが遠ざかっていく。


 残念な気持ちでいっぱいの中、またそっと手を掴まれる。


「では、居間の方へ向かいましょう。竜月(たつき)様がお待ちです」

「…………そう」


 その名前を聞いた瞬間、"感情"が消えた。少し強く手を握り、手を引かれるまま只々(ただただ)体を動かした。手の温もりだけは消えないように。

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