第2話 <魔法、そして約束>
第2話 <魔法、そして約束>
あれから数ヶ月がたち、俺は屋敷から出ていた。向かったのは裏にある広い草原。大きな樹木が一本、ぽつんと植えてあるだけでなにもないところだ。なぜここに来たのかというと、誰の目にもつかないところで魔法の練習をしたかったからだ。そう、俺は1人で練習がしたい。だが隣には、ルナがいた。
「なんでお前がいるんだよ」
俺が問いかけるとルナはキョトンと首をかしげた。
「それは私がレン様の専属メイドだからです!」
いかにもエッヘンという絵文字が似合うように胸を張って言うルナを見て俺はため息をこぼす。どうやら父様に「レンは魔法のことになると時間を忘れてしまうからよろしく」と言われたらしい。いくら時間を忘れるからって流石に深夜前には帰る。
そんなことを考えながら魔導書を開き、早速とりかかる。
魔導書には、初級・中級・上級・超級・絶級が書いてあり、まずは初級から試してみる。左手に本を持ち、右手をかざしながら、本に書いてある詠唱文を読み始める。
「荒れ狂う水流よ、今こそ来たれ。ウォーターボール」
読み上げた瞬間、体全身に小さなしびれが走った。感じたしびれは痛さを感じなかった。そのしびれが今度は右手に集まっていく。その瞬間、右手の手のひらに水球が出来上がる。俺が驚いているのもつかの間、水球は勢いよく射出された。ルナも驚いて腰を抜かし、尻をついてしまった。
「ルナ!大丈夫か!」
「は、はい...少し、驚いてしまっただけです」
尻もちをついたルナに手を伸ばし、手をとり立ち上がる。俺の手が少し震えている。初めての魔法で興奮しているのだろうか。
「レン様ってやっぱりすごいですね...」
俺がキョトンとしていると続けて言う。
「この歳で魔法を使えるなんて聞いたことないですよ」
ルナはつぶやきながらそう言った。魔法を使うには魔力が必要になる。そして魔力は俺のような子供にも存在する。なら子供でも使えるだろうに...。そう思いながらもう一度魔法を使う。体に感覚を覚えさせるためだ。手をかざし、詠唱する前に目を閉じ、イメージトレーニングをする。さっきよりも威力が高い水球を想像する。そう頭の中で想像していたら、またあのしびれが走る。俺がすぐに目を開けると、そこにはさっき見た水球が現れていた。すぐさま射出された水球はさっきよりも威力を増していて俺は尻もちをついた。そんな俺にルナは近寄ってきた。
「大丈夫ですかレン様!!」
近づいて来たルナは、少し涙を流していた。よほど心配してくれていたのだろう。俺はすぐに立ち上がり、安心させるために 頭を撫でる。
「大丈夫だよ。少し威力が強くて驚いてただけだから」
そう言いながら頭を撫でていると、次第にルナは泣き止んでいった。
「...今日はもう帰ろうか」
ルナは静かにうなずき、手をつなぎながら屋敷へ帰った。
屋敷につき、ルナには「今日あったことは誰にも話さないで」と言っておいたから誰かに言うことはないだろう。そんなことを思いながら夕食を済ませて自分の部屋に戻る。
それから俺はいろんな書物を読み漁った。読み漁っている理由は、今日あった無詠唱についてだ。俺が今まで呼んだ書物には、無詠唱のことはどこにも記載されてされていないのだ。今読んでる書物のどこにもない。ここにある書物は古いものばかりだから新しいことが記載されていないだけだろうか。時計を見るともう深夜になっていたので本を戻しベットに腰を掛ける。すると、部屋のドアを叩いた音が聞こえる。「どうぞ」と声をかけドアが開かれると、ルナが立っていた。少し不満そうにしている彼女に声をかけた。
「どうした?こんな夜中に」
「...夜分遅くにすみません。すこし、いいですか?」
俺の顔を見たルナはホッとしたような顔をした。なぜそのような顔をしたのかわからないが、ひとまず俺がいるベットに誘導した。
「それでどうしたんだよ」
ベットに腰掛けた彼女に問いかけると、右肩にずっしりと重さを感じた。顔を向けると、肩にはルナの頭がおいてあり、フローラルな香りがした。銀色の髪をたなびかせながら彼女は話し始めた。
「...レン様はどこにも行かないと約束してくれますか?」
藍色に輝く目から涙を流すルナに疑問をいだきながらも、そっと優しく頭を撫でる。
「どこにも行かないし、行ったとしてもルナは俺の専属メイドなんだから、ついてきてくれるだろ?」
そう言った俺の顔をルナはじっと見つめ、泣き始めた。俺は泣かせてしまったと慌てふためいていると、次第にルナは笑顔を見せた。
「大丈夫ですよ、嬉しくて泣いていただけなので」
涙をぬぐい、笑顔を見せるルナを見て、俺は少しホッとした。
「私、この前絵本で読んだことあるんです。『勇者は悪魔族にたちむかい苦戦するが、仲間と協力して魔力を食べさせ、魔力をたらふく食べた悪魔は破裂して、勇者たちは勝ったのだ。』。もしかしたらレン様も膨大な魔力のせいで破裂するかもしれないと考えたら、不安になってしまって...」
絵本か。たしかに5歳はまだ絵本を読むじきなのか。そうだったら父様達が、俺が魔導書を読んでいてびっくりしていたのもうなずける。
「そんなことならないよ、大丈夫」
そう言うとルナも落ち着いたのか、目の腫れもひいてきていた。
「それじゃ、もう遅い時間だし寝るね」
座っていたベットから立って、ルナを自分の部屋に送るためにドアに手をかける。すると左腕が引っ張られているのに気づく。見てみるとルナが控えめに袖を引っ張っていた。「どした?」と声をかけると体をビクンと震わせ、少しもじもじし始めた。
「あの...お恥ずかしいことなのですが、今日は一緒に寝ても、いいですか?」
今日のことがよっぽど怖かったのか、恥ずかしさも混じった震えた声で言ったルナに、優しく微笑み、「いいよ」と要求を飲んだ。
ドアから手を離し、部屋の明かりを消してさっきまでいたベットに移動する。俺がベットに入り、ポンポンとベットを叩くと、ルナは少し顔を赤らめ、ベットに寝そべった。ルナが来たのを確認するとベットの明かりも消して俺もベットに寝そべる。
「おやすみ」と声をかけると暗闇でもわかるほど顔を赤らめ、「お、おやすみなしゃい」と噛みながらも返答してくれた。可愛く思い頭を撫でると毛布の中に顔をうずくめてしまった。微笑みながら反対側を向いて寝ようとすると、背中からルナに抱きしめられた。
「...さっき言ったこと、絶対ですよ」
俺がびっくりしていると、ルナがそんなことを言った。さっき言ったこととはおそらく、どこにも行かないと言ったことだろう。俺はまた反対側を向き、ルナの顔を見た。
「あぁ、約束する」
俺の言葉を聞いたルナは、落ち着いたのかすぐに寝てしまった。俺は静かに「おやすみ」と言って、眠りについた。




