前門の流星群、後門のゴブリン艦隊
第9話、ちょっとだけ長めに書いてみました。
ボン!ボン!ボン!
シマカゼ主砲の3連弾を浴びた敵巡洋艦が爆散し近くの艦も誘爆する。
「ダイゴ艦長、ミサイル残数0です!」
「魔導砲もマジックポイント0になります!」
「エネルギー残量20%を切りました、これ以上の高速戦闘は航行不能になりかねます!」
「うん、了解・・・」
オペレーターからの報告に返事をしながら思考を巡らすダイゴ。
敵艦の3割近くを轟沈させ高速戦闘を続けたシマカゼはダメージこそ受けなかったが戦闘能力は著しく低下していた。
「艦長、どうするのだ? これ以上は戦えないぞ。」
困惑するレイチェル副長はダイゴに意見する。
その時"天の声"が彼の頭の中に響く
「丑寅の方角が吉方です」
「うはっ鬼門かよw」
「シマカゼちゃん上下角0度2時方向に全速転進、逃げるぞ!」
「わっかりました~♡」
桃色の軌跡を引きながら"シマカゼ"はゴブリン艦隊の包囲を突破していく。
「ウギャアアアア~怒、逃がすな追え!追え~!!」
一駆逐艦に艦隊を翻弄され大損害を出したゴブリン・コマンダーは
完全に頭に血が上っていた。
全ての艦が向きを変え"シマカゼ"を追いかけ始める。
残されたトウゴウ艦隊はア然としながらも機転を利かせ負傷した味方艦の救助作業を進めるのだった。
「艦後方に魔法障壁を集中させろ、他はいらない!」
シャワーのように敵魔導ビームがシマカゼを追い何発か命中するが魔法障壁に阻まれプラズマを散らせる。
「障壁損耗率70%、あと2~3発食らった持ちません‼」
オペレーターのエルフが悲痛な報告を上げる。
「敵の数が多すぎる、逃げ切れないぞ!」
副長も動揺が隠せず、ダイゴに詰め寄ろうとする。
モニターの星界図を睨んでいたダイゴの目が移動する光点を見つけ輝く
「前方1000キロ流星群接近!」
「よし、シマカゼちゃん、そのまま敵を引きつけつつ、あの流星群に突っ込め!」
「ええええええ~‼」どよめくクルーたちを尻目にシマカゼは「了解しました~♡」と迷う事無く従った。
青白い宇宙空間に白い尾を引いて流星が降り注ぐ。
大きなモノから小さなモノまで数千にも及ぶ流れは観る者の心に感動と畏怖を与えるような美しい光景だったが、その中に飛び込むシマカゼ達には、そんな余裕など無い。
ゴブリン艦隊は船速を緩め流星群に飛び込んでいったシマカゼの行動をモニターで眺めていた。
「バカな奴だ、追い込まれて流星群に飛び込みやがった」
「自滅するつもりかよ、ギャハハハハw」
シマカゼを追っていたゴブリンたちは腹を抱えて笑った。
前門の流星群、後門のゴブリン艦隊。
絶体絶命な状況にもかかわらず、ダイゴたちは突き進む。
「今日のラッキー指数は120%、予想外の展開にみな驚くでしょう」
ダイゴにしか聞こえない"天の声"がそう告げる。
副長のレイチェルはダイゴの顔に余裕の"笑み"が浮かぶのを見た。
ズゴーン!!!
激しい衝撃と共にシマカゼの魔法障壁に細かな流星の破片が直撃し砕け散る。
さらに「直上、巨大流星群接近、直撃コースです!」
オペレーターの悲痛な叫びがブリッジに響く。
魔法障壁を完全に失ったシマカゼは丸裸も同然で直撃を受ければ
轟沈必至だったがダイゴは何も発せず艦は直進を続ける。
ゲラゲラゲラwww
ゴブリンたちは艦隊を完全に停止させシマカゼの最後の瞬間を笑って眺めていた。
巨大な流星群がまるでシマカゼに殺到するかのように集まって行く。
ゴブリンたちは目の前で行われようとする宇宙ショーを食い入るように見つめる。
しかし次の瞬間、彼らは驚くべき光景を目の当たりにする。
巨大流星群がシマカゼに激突する直前、接近し過ぎていた巨大個体同士が激しくぶつかり合い爆散し軌道がズレていく。
シマカゼはその合間を縫うように駆け抜け難を逃れてしまう。
さらに衝撃で飛び散った流星群が散弾のようにゴブリン艦隊に向かって降り注ぎ停止していたゴブリンたちは逃げる間もなく巻き込まれてしまう。
飛沫とはいえ質量のある物体が高速で襲ってきたのだ。
流星群は魔法障壁などものともせず突き破り戦艦を次々とへし折って行く。
あっという間に50隻余りの艦隊は爆散し全滅してしまった。
「・・・・・」
最後尾にいたゴブリン・コマンダーの旗艦はなんとか被害を免れていたが目の前の惨劇を目の当たりにして絶句した。
「な・・何が起こったのだ???」
頭から水を被ったような冷や汗をかきゴブリン・コマンダーは大慌てで逃走していった。
流星群を抜けたシマカゼはゴブリン艦隊の全滅を確認する。
「ふうう・・」
ダイゴ艦長は肩の荷を降ろすかのように深いため息を吐き出した。
「シマカゼちゃん、本当にありがとう」
「どういたしましてダイゴさん、楽しかったです♡」
「帰ったらキレイに磨いてあげるからね」
「やった~ダイゴさん、大好きです♡」
そして「進路反転、128艦隊に合流、救助に向かう」と号令をかけた。
シマカゼのクルーたちは現状が理解できず、取り敢えず助かった事だけは把握しダイゴの指示に従った。
副官のレイチェルはダイゴを静かに見つめていた。
「バカ・・・天才・・・まさかね・・・」
と思考を巡られせるのだったが結論には至らず頭を悩ませるのだった。
9話、修正しました。