ゴブリン・ジェネラルと死神の鎌
取り敢えず"第一章"完結です。
皆さんが読んで楽しんでいただけたら幸いですw
数百発の大型ゴブリンミサイルが邪悪な軌跡を残しながらシマカゼを追いかけていく。
「敵・・敵ミサイル多数接近、もの凄い数で後方レーダーが真っ白です!お・・追いつかれます!」
オペレーターのエルフが悲鳴を上げる。
副長のレイチェルもどうして良いのか判らず思わずダイゴを見返す。
ダイゴは報告を受けるとコキコキと頭を動かし思考を巡らせると"シマカゼ"に話しかけた。
「シマカゼちゃん、君の本当の力を僕に見せてくれ!」
「ヒーロー物のお約束ですよね!いつから気が付いていたんですか?」
「僕は君の事なら何でも知っているよ、シマカゼちゃん!」
「いや~ん、ダイゴさんのエッチ~♡」
緊急事態にとんでもない会話をする"二人?"に周りのスタッフは一瞬ア然とする。
「最大船速!リミッター解除"シマカゼ"第2形態に移行!」
「了解です♡」
シマカゼ船内の有人ブロックが全てロックされ、床や壁から拘束アームが現れるとスタッフを掴んでいった。
「エナーシャル制御の限界点を越えます!スタッフは対ショック姿勢を保って下さい」
緊急艦内放送が流れ赤色灯が点滅し一気に加速し始める。
「きゃっ・・な・・何が起こるの???」
状況を把握しきれないレイチェル副長や他のスタッフたちも驚きを隠せない。
迫るゴブリンミサイル群。
最大船速で逃げるシマカゼだがジリジリと距離が縮まって行く。
「フォーミュラフォーム展開♡」
バスッバスッバシューッ!
艦体のアチコチがパージされ主砲以外の武装も剥がれていく。
剥がれ落ちた外装が敵ミサイルと接触し爆炎を撒き散らすがそれでもなお圧倒的な数のミサイルが追って来る。
"シマカゼ"はスリムになると同時に内包されてたカナードやスラスターが展開し"水鳥"から更にスリムな"フォーミュラーマシン"の様な形態になっていった。
「さあ、みなさ~ん本気出しちゃいますよ~♡」
シマカゼのエンジンが美しく輝き、さらに力強い加速を始める。
「なんじゃこりゃあああ~!!!」
機関室で調整をしていたサンダース伍長は拘束具に押さえつけられながらエンジンが奏でるメロディに見蕩れてしまった。
「ヒイイイッ」「キャアアアッ」「ウゴオオオッ」
エナーシャル制御がされているハズなのにもの凄い加速Gにスタッフたちは悲鳴を上げ拘束具にしがみつき唯一人ダイゴだけは拘束具に体を預け両足に力を込め踏ん張って構えていた。
シマカゼはまるでドローン戦闘機のようなサーカス運動を繰り返しミサイル群を回避した、それはもう駆逐艦の動きではなかった。
近接しては自爆するゴブリンミサイルの衝撃波を何事も無かったようにすり抜け"彼女"は加速する。
「キャハハハッ」「フフフッ」
究極のピンチなハズなのに"シマカゼ"と"ダイゴ"は思わず笑みがこぼれてしまっていた。
ゴブリン・ジェネラルは何が起こっているのか分からなかった。
敵よりも数で上回り新兵器による先制攻撃で3分の1を殲滅した。
なのに・・・なのにだ、いつの間にか劣勢に立たされ味方艦は減り魔法障壁さえ満足に展開出来ていない。
目の前で爆散するゴブリン艦を目の当たりにし、まるで花火を見ている様な気分にさえなって来る。
"このままでは負ける⁉"
ゴブリン・ジェネラルの脳裏を死神の鎌が過ぎる。
恐怖と怒りで感情の抑えが効かなくなった彼が思考停止になる寸前に取った行動は新兵器に頼る事だった。
「絶・・絶叫砲を撃てェ!今すぐ準備しろォ~!」
絞り出すような号令がブリッジに響く。
「ありったけの生贄どもをシリンダーに送り込むんだァ~!」
理不尽な命令により魔物たちは強制的に"絶叫砲"のシリンダーに押し込められていく。
「絶叫砲、発射準備完了!」
オペレーターの伝令に少し安堵したのか。
「ギィッヒッヒッ覚悟しろォ、これで貴様等も終わりだァ~!」
とゴブリン・ジェネラルは口元を吊り上げ不敵な笑みを浮かべながら号令をかける。
「絶叫砲、発射ァァァ・・・」
「直上よりミサイル群接近!」
「ゴ・・ゴブリンミサイルです!・・ヒィィィ!」
号令とほぼ同時にミサイル接近の報告が入るが彼は何が起こったのか分からなかった。
一瞬、ゴブリン・ジェネラルの頬を冷たい汗が流れ落ちる
それは死神が彼を愛でた瞬間だった。
少し前、ゴブリンミサイル群に追われた"シマカゼ"は一度戦線を離脱したが、そのままミサイル群を引き連れて大きく迂回し手薄だった天頂方向から舞い戻ったのだ。
数百発ものゴブリンミサイルに追われ絶体絶命と思われたシマカゼはまるで鬼ごっこを楽しむように追撃をかいくぐり、戦場に戻ると一直線に敵要塞艦へと降下して行った。
「魔・・魔法障壁を張れ~!」
要塞艦は巨大な魔法障壁を張り巡らせる
「無駄だよ、主砲発射!敵障壁をブチ破れ~!!!」
シマカゼの主砲から発射された純白なビームが敵の魔法障壁を粉々に打ち砕く。
「ミサイル様、御一行ご案内~♡」
シマカゼは敵艦のギリギリでドリフトをかましながらスレスレで駆け抜けて行く
その後を追ってきたゴブリンミサイル数百発が、かわし切れずハリネズミのように突き刺さって行く
「ズボッズボッズボッズボッズボッズボッズボッズボッズボッボン!」
ゴブリン・ジェネラルたちは恐怖に顔をひきつらせたまま声すら発する事も出来ずに蒸発し"要塞艦アルラウネ"は近接するゴブリン艦隊を巻き込んで爆散した。
勝敗は一瞬で決しリーダーを失った残存魔王軍は戦意を消失し逃走していった。
「ふう・・機関停止、みんなお疲れさんでした」
ダイゴは目を伏せ大きな溜息をつくとスタッフたちに声を掛けた。
シマカゼの猛烈な高機動と戦闘の緊張感から解放され、思わず笑みがこぼれる。
しかし、他のスタッフもフラフラでぐったりし失神する者もいた。
副長のレイチェルも真っ青な顔で口元を抑えると洗面所に駆け込んで行く。
艦内はこの後しばらく酸っぱい匂いが漂っていたのは言うまでもないw
「ダイゴさん、やりましたね♡」
唯一、AIである"シマカゼ"だけは元気に声をかけ彼を労った。
「ありがとうシマカゼちゃん、最高だったよ!」
「お役に立てて光栄です♡」
「帰ったらまたピカピカに磨いてあげるよ」
「わ~い♡」
二人?は今しがたまで激戦をくぐり抜けて来たとは思えない程、和やかな雰囲気が流れた。
「ダ・・ダイゴ艦長、旗艦ミカサより・・通信です・・」
ぐったりしたエルフのオペレーターが呼びかける。
ダイゴは慌てて姿勢を正すとモニターが開かれトウゴウ司令官の姿が映し出された。
「ミカサ艦長トウゴウだ」
「シマカゼ艦長ダイゴ少尉であります」
「今回の貴艦の働き見事であった、第128艦隊・第95艦隊を代表して"礼"をいう」
「ありがとうダイゴ少尉」
司令官の感謝の言葉にダイゴは無言で敬礼を返した。
「大変とは思うが、この後味方艦の救助を手伝って欲しい」
「了解しました」
簡単な通信だったが、トウゴウの感謝の気持ちは充分に伝わって来た。
「あ~緊張したぁ・・」
通信を終えたダイゴは一言漏らすと、頭を切り替える。
「さあ、負傷した艦の救助に向かうぞ、みんな、もう少し頑張ってくれ!」
ダイゴの号令の元、スタッフたちはキビキビと仕事を始めるのだった。
その様子を洗面所から戻って来たレイチェルは何故か頬を赤らめて眺めていた。
ダイゴは宇宙基地に戻ると報告書を提出し、すぐさま"シマカゼ"のいるドックに向かった。
「今日は大活躍だったね、シマカゼちゃん!」
「いえいえ、ダイゴさんこそ"持って"ますよ♡」
「ありがとう、でもこうやって君を磨いている方が楽しいよ」
「もうダイゴさんたら♡」
まるで恋人同士のような会話をしながら所々酸っぱい匂いを漂わせた艦内を丁寧に掃除していく。
メンテナンスを終えたダイゴは後をサンダース伍長にまかせ、ヘトヘトになりながら宿舎の風呂に入り自室に戻った。
自室の前には意外な人物が待っていた。
「遅いです、ダイゴ艦長!」
「レ・・レイチェル副長・・?」
私服の彼女は見違える程、女子力を上げていた。
「あ・・あのダイゴ艦長、今日の貴官の活躍に高揚して発情してしまったようだ」
「えっ???????」
「獣人の性なのだ、すまないが責任を取ってくれ」
「わッ!ちょっと・・・待って・・あっ!」
そう言うと副官は尻尾を振りながら強引にダイゴの自室に押し入ると鍵を閉めた。
「あ~~~~~~~ッ」
男の幸せそうな悲鳴が木魂する。
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漆黒の闇に閉ざされた暗黒惑星
暗闇の中ライトアップされ浮かび上がる魔王城
その大広間で玉座に座る魔王に部下が報告を行っていた。
「ゴブリン・ジェネラルが負けました」
「ふむ・・」
部下の報告にまったく興味を示さず生返事をする魔王。
「やはり勇者が現れたのでしょうか?」
「貴様等が全滅すれば、それもありうるな」
皮肉交じりの返答で他の将軍たちの動揺を誘っている様だった。
「では次はワタシが参ります、よろしいでしょうか、魔王様?」
立ち並ぶ将軍たちの中から青い影が一歩前に出て一礼する。
「好きにするがいい、少しは我を楽しませよ」
そう言うと魔王は大きなアクビをたれるのだった。
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「本日付で"中尉"に任命する」
ダイゴが辞令メールを受け取ったのはレイチェルから解放され爆睡した24時間後だった。
彼は、今回の活躍を認められ、たった2戦で昇進を果たし中尉となった
もちろん今回の昇進について第128艦隊"ミカサ"艦長トウゴウの口添えがあった事は言うまでもない。
第14話、修正しました。
"第二章"はこれからプロットを作成するので冬頃になる予定です。