緑の魔法使い
ちょっと間が空きました。
少し多めに書いてみましたw
「いやあ、たっぷり怒られちゃったよ」
宇宙艦ドックで作業服に着替えたダイゴはシマカゼの
船体にコーティングワックスをかけながら語りかけていた。
「ダイゴ少尉、戦闘中の戦線離脱、ならびに勝手な戦闘行為は重大な軍規違反である」
「よって謹慎168時間と艦艇整備を命ずる、充分反省するように、以上!」
今回の事で懲罰会議にかけられたダイゴは一週間の罰で許された。
本来なら軍法会議モノであったが128艦隊の救助と敵殲滅の功績もあり
軽罰で済んだようだ。
第128艦隊司令官トウゴウは口にこそ出さなかったが心の中でダイゴに
一礼していた。
「まあでも、謹慎のおかげでこうやってシマカゼちゃんのメンテナンスが出来るんだから俺は幸せもんだよ♡」
「もうダイゴさんたら!私も幸せですぅ~♡」
二人?の会話をあきれ顔で見ながら副長のレイチェルは残務処理に
いそしむのだった。
「う~ん、とんでもない数値ですね」
サンダース伍長とメンテナンススタッフは今回の戦闘データを参照しながら唸っていた。
「従来の小型高速艦のスペックを遥かに超えてますよ」
「うむっこれほどとはワシも思ってみなかったわ、ふっふっふ」
「取り敢えず、設計段階で可能な限りのスペック上乗せで作られたわけですけど、実際運用してみたらバランス取れなくてお蔵入りしてた艦ですからね」
「あの艦長、一回の出撃で使いこなしよったわ」
「ええ、まったく凄い事ですね」
「今の宇宙艦はほとんどAI制御で操舵手や砲手は必要としないんですけど魔導回路とか魔力制御等の未知の部分もあるので100%管理出来ていないのが現状ですが、それでも従来艦よりは遥かに扱いやすく強力ですから・・・」
「それにやっかいな新世代AIは乗り手まで選びやがる、ふぅ~!」
「まあ、あの艦長は"シマカゼ"とすこぶる相性が良かったという事だな、今後が楽しみだぞ、ふっふっふ」
シマカゼの船体を楽しそうに磨いているダイゴを眺めながら二人は苦笑いしていた。
なんとかシマカゼのワックスがけを終わらせたダイゴは士官用ラウンジの食堂で疲れを癒すため大好物の"おしるこ"をほおばっていた。
「やっぱり、ここの"おしるこ"は最高だよ!おばちゃん、おかわり!」
食堂のおばちゃんは、おぼんに新しい"おしるこ"を持って来て代わりに空になったお椀をかたずけながら嬉しそうに話しかけた。
「ダイゴさん、初陣で大活躍したんだって?」
「いえ、もう命からがらでしたよ」
「頑張ったんだねぇ、これはアタシの奢りだよ」
「あ・・・ありがとう御座います、ゴチになります!」
ダイゴは遠慮なく2杯目をほおばった。
士官用ラウンジの壁にはホログラムで桜並木の風景が映し出されている。
時折、桜吹雪が舞いエアコンから疑似風が爽やかに流され心地良い空間が演出されている。
そんな美しい風景の中を容姿端麗な美人が歩いてくる。
コスプレのようなケモ耳とモフモフとした尻尾がたおやかに揺れている。
「レイチェルさん・・ズズッ・・何か用ですか?」
ダイゴは"おしるこ"を、ほおばりながら上目で来訪者に問いかけた。
真顔のレイチェルは近くで見てもすこぶる美人で眉間に寄るシワでさえ彼女の美を称える材料でしかなかった。
しかし、ダイゴは彼女の美しさにはあまり興味が無かったようで、どちらかというと何故怒っているのかの方が気になった。
取り敢えず「おしるこ食べる?」と声をかけた。
「ダイゴ艦長、少しお時間をいただいてよろしいでしょうか!」
「レイチェルさん、そんなに形式張らなくても良いですよ、同じ少尉なんだから・・」
「いえ、お気になさらずに!」とキッパリ馴れ合いを否定する。
「ところでダイゴ艦長、この前の行動には納得出来ないのですが!」
「ああ・・ゴメンゴメン今度から気を付けるよw」
ダイゴはバツが悪そうに軽い返事をするが、それが副長の癇に障ってしまい火に油を注いでしまう。
「勝手な振舞は軍規違反です、ましてやスタッフの命を預かる身として恥ずかしくない行動をとって下さい!」
「今後、ギャンブルのような真似は止めていただきたいです!」
一方的に意見をぶつけると気が済んだのか副長は退室していった。
ダイゴは副長の剣幕に少しすくみ上がっていた。
「僕は"しまかぜ"を信じて最良の方法をとったんだけどなぁ・・まあ、仕方ないか」
自身のとった行動を全否定されてしまったダイゴは苦笑いしつつ残りの"おしるこ"をすするのだった。
ダイゴが甘味に舌鼓を打ちながら、一時のまどろみに身を任せていると視界の隅に自分の方を見つめる人影が居る事に気づいた。
「やれやれ、今日はお客さんが多いな」
彼女はダイゴの周りに人気が無い事を確認すると足早に近づき「駆逐艦シマカゼの艦長さんですか?」と尋ねて来た。
「あ・・うん、そうだけど」
ダイゴが生返事をすると彼女は真顔で懇願してきた。
「僕をあなたの船に乗せて下さい‼」
「ごほっ・・え!」
小柄な少女の懇願に少し驚き"おしるこ"を喉に詰まらせかけてしまった。
「し・・失礼しました艦長、僕はミツバ一等兵であります」
少女は改めて自己紹介をする。
「みたところ"緑"の魔導下士官の様だけど?」
魔導士官には赤・青・緑・白・黒の五種が確認されており、この宇宙では
赤は「温熱」青は「冷気」緑は「育成」黒は「消滅」白は「聖霊」と
分類されている
赤と青、そして黒は攻撃魔法として運用しやすいので戦闘艦では重宝されているが白は救護要員の需要があっても緑の需要はほとんど無いのが現状だ。
緑はどちらかというと動植物の育成に特化しておりもっぱら食料部門に配属されるのが常である。
「君、艦に乗りたいの?」
「はい、今まで他の艦長さんにお願いしたんですけど全て断られてしまって諦めかけていたんですが、そんな時に"シマカゼ"のあの美しい艦影を見かけたんです」
「水鳥のような流れる船体に見蕩れてしまって、どうしても夢を諦めきれなくなって艦名からダイゴ艦長の名前を検索したんです。」
「どうか僕を艦に乗せて下さい!」
「いいよ!」
ミツバ一等兵の恋する乙女のような表情を見ながらダイゴはあっけなく許可した。
数時間後、彼は副長と会っていた。
「移籍手続きは済ませておきました」
「ありがとうレイチェル副長、無理を言ってゴメン、助かったよ」
「ところで艦長、なぜ緑の魔法士官を乗艦させたのですか?」
「う~~~ん、本人が乗りたいって言ってきたから・・・」
ダイゴの間の抜けた回答に副長は、また眉間にシワを寄せるのだった。
ダイゴはミツバ一等兵との会話を思い返していた。
「君、魔法以外で得意な事はあるの?」
「えっ・・あの・・美味しい御飯なら自信はあります」
「おっ良いね!」
「料理が趣味なので、よく自分で作ってますw」
「あっでも戦闘には関係ないですよね」
「そんな事ないよ、お腹が空いてたらヤル気が出ないし」
「レーションばかりじゃ味気ないだろ」
「では期待しているよ、ミツバ一等兵」
「あのダイゴ艦長、どうして僕を簡単に乗艦させてくれたのですか?」
「う~~ん、別に・・まあこれも"出会い"だから・・アハハハ」
ミツバはダイゴ艦長という人物を掴み切れず少し困惑したが当初の目的が叶い心を躍らせるのだった。
またダイゴは何も考えていない事を悟られまいと笑って誤魔化していたが彼の頭には"天の声"が聞こえていた。
「今日の"出会い運"100%、あなたのピンチを救ってくれる人材です!」
第10話、修正しました。