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第1話 非平凡な日常

 爽やかな朝日が部屋に差し込み、俺の一日は始まる。布団から起き上がって着替えを済ませ、台所へと降りていった。

「トウジおはよう!朝だぜ!」

自分と同じ年頃の男が話しかける。俺の名は井原(いはら)藤次(とうじ)。背丈も平均で体格も中間、黒髪に黒い瞳のどこにでもいそうな日本人。俺はこの街の学校に通う一般の高校生だ。…ただ一点を除いては。

「ジーラ、朝からそのテンションはやめてくれ…」

俺に話しかけてきた、見た目十代半ばの青年、ジーラ。癖のある黒髪が、所々自分勝手に跳ねている。喜々揚々とした彼を差し置いて、俺は朝食を食べ始めた。ジーラは「なんだよー」と口をとがらせ、自分の朝食を盛る。毎度の事ながら、こいつの食べた飯はどこへ行くのかと疑問に思ってしまう。朝食を食べ終え、俺は学校へと向かった。ジーラもそれについていく。


「藤次にジーラ、おっはよ~」

脳天気な声で、同級生の男が挨拶する。

「お前は気楽だな、聖印(せいん)。」

こいつのヘラヘラした調子に合わせていたらキリがないと思う。俺は適当に返した。聖印はジーラに笑いかける。

「そーいや、お前って何年留年してんだ~?」

「ぁあ?オレはお前らの先輩だぞ?好きでこんな格好してねーよ。」

ジーラは拳を握り、あからさまな喧嘩腰をする。だが、彼の足はない。いや、ジーラは実体すらない。これがただの幽霊ならともかく、高校生にして罪を犯した死後8年の悪霊だというからからタチが悪い。何で俺はこんなのに付きまとわれているんだろうな…。答えなど出ないと分かっていながら、俺は頭を抱えた。



 学校帰りの帰り道。いつもと同じはずの事なのに、俺の右胸は少しうずいた。

「…来てるな。」

「ああ、オレも気付いてる。」

前にいたのは中年くらいの二人の男。正確に言えば、一人は悪霊だ。足もないし実体もない。こちらに気付いたのか、振り返った。

「へっ、悪霊とガキか。ちょうどいい、アスタークの居場所を知ってたら教えろ。隠したらただじゃおかねえぞ。」

しわがれた細身の姿をしている悪霊の言葉に合わせるように、大柄でいかにも腕っ節の強そうな人間の男が腕を鳴らす。ジーラは眼を細めて睨んだ。

「…アスタークを探して、どうするつもりだ。」

ジーラは低くうなる。が、相手の悪霊は声を張り上げて嗤った。

「やることはひとつに決まってる!殺すんだよ。」

「ふざけるな!!あいつに手出ししたら承知しねえぞ!」

ジーラは勢いよく悪霊につかみかかった。刹那、大柄な男が俺に向かって拳を振り上げてきた。咄嗟に横っ飛びにかわす。今度は大振りな一撃が繰り出され、俺はかわしきれずに吹き飛ばされた。背中に衝撃を受け、体が崩れ落ちる。

「トウジ!」

ジーラが慌てて俺に駆け寄った。それを片手で制止しつつ、俺は上半身を起こす。二人の男がニヤリと笑った。

「これで分かっただろう?抵抗するだけ無駄だ。さあ、アスタークの居場所を教えな。」

「てんめえ…ふざけやがって…!」

ジーラは拳をぎゅっと握る。残念ながら、実体のない彼には人間の男を殴ることはできない。

「待て、ジーラ。」

俺はよろよろしながら立ち上がった。体のあちこちに激痛が走っていたが、壁を支えにして直立する。

「俺はあんたの事情を知らない。だが、アスタークを殺して、お前にどれだけの利益がある?再び混沌が訪れるだけだぞ。」

息がいつの間にか上がっていたが、それでも何とか言い切った。悪霊はわなわなと震えだした。

「混沌だかなんだか知らないが、私には一切関係ない。蘇れるんだ、再びこの世にな!」

「蘇って現世に現れて、何をするというんだ。第一、お前は“あの男”の言葉を信用するのか?命は一回限りのはずだろう。本当に蘇れるとでも思っているのか?」

俺の静かな言葉に、悪霊は奥歯をかみしめていた。だが、キッと俺の方を睨む。

「蘇れれば何でもいい!私は地獄なんかに二度と行きたくないんだ!」

叫んだ途端、周りのガラスに亀裂が走る。霊特有のオーラのようなものが発していた。俺はそんな悪霊を見据えた。

「お前は罪を犯している。蘇ったところでまた地獄に落とされるだけじゃないのか?」

相手は弾かれたように顔を上げた。驚きと悲しみに満ちた目が、俺を見ている。二呼吸ほどの間の後、悪霊は何事か叫びながら走り去っていった。

「…もうアスタークのこと狙わねえかな、あいつ。」

「…だと、いいけどな。」

俺たちは二人の中年が去った方をしばらく見つめていた。

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