051
「お泊まり会久しぶりよね。」
電気が消えて、皆が横になって眠るのを惜しむ時間。
「高校入ってからは無かったな。」
「いろいろ忙しかったから。」
「たまにすると修学旅行みたいで楽しいけどね。」
「キズナ君のいた中学は何処に行ったの?」
確か京都だったかと。
「確かって?」
「覚えてないのかよ。」
迂闊だった。確か。なんて言ってしまった。
「もしかして行ってないの?」
えーっと実は行ってません。
「風邪でも引いた?」
まあそんなところです。
「何よ。ちゃんと言いなさいよ。」
いやまあ隠すつもりは無いのですけどその早い話班に入れなかったと言うか
クラスメイト達からずっと無視され続けていたので
修学旅行とか運動会とか学校行事って殆ど参加していません。
「誰だ。」
はい?
「キズナを無視した奴らは何処の誰だ。」
そんな事聞いて何すつもりですか。昔の話ですよ。
「お前はそれでいいのかよ。」
いいも悪いも。もう終わった話です。だから話したんですよ。
イヤな思いをしたのは本当だけどもう気にしていません。
「気にしていないって言うから聞くけど。どうしてそんな事になったの?」
「綴ちゃん。もういいじゃない。」
それはあの事故から2年後。
学校に通えるようにはなった。通いたくはない。
継ぎ接ぎだらけの身体。顔の縫い後だって消えていない。
手足にはボルトが入り動きはぎこちなく滑稽だ。
同情の目。
それが消えたのは早かった。
他の誰にも見えない「何か」が見えたあの日だ。
気味悪がられ、嘘吐き呼ばわりされ誰も近寄らなくなった。
ヴァンパイアにも狼男にもそうできたのは
子供の頃、何度か怖い目に合っていたからだ。
あれは、あの影は冷たく痛い。
僕にしか見えないあれは、きっと見てはいけない「何か」なんだ。
僕にどうしてこんな事が出来るの判らない。
でも僕はこの手で「それ」を
僕の言葉を遮るように南室綴は僕の震える手を取った。
「ワタシはキズナがそれを見える事に感謝しているわ。」
「あっ私もっ私もキズナ君に助けられたのよ。」
「私は助けた側だけどな。」
3人は僕が何者なのか判ってもトモダチでいてくれる。
僕から離れてしまうどころか、こうして手を取ってくれる。
「ただちょっと気になるのはさー。」
小室絢の疑問は僕にも答えられない。
「キズナって「継ぐ者」なのかな。」
「キズナ君は普通の人の子だよ。」
「だよな。姫がそう言うなら間違いないよな。」
「でもさ、私と綴がそれを見えるは姫の父ちゃんからそうてできるように習ったからじゃん。」
「どうしてキズナは「それ」が見えて、そうできるんだ?」
夜中過ぎまで皆の思い出話しは続いた。
「ワタシは南室綴になってすぐに紹実ちゃんから絢ちゃんを紹介されて。」
「初めてウチに来た時何か感じ悪い奴って思った。」
「ワタシも絢ちゃんの事ただの乱暴者だと思っていたわ。」
そんな事告白しちゃって大丈夫なんですか?
「もうとっくに言い合っているわよ。」
「今更だよなー。」
三原紹実がそそのかして(?)宮田杏達と引合せ、皆で無茶苦茶な伝説を作り上げた。
いつの間にか仲良くなって、何度か本気の喧嘩をして仲直りを繰り返す。
「ただの乱暴者じやなかったのよ。」
「ただのワガママ女じゃなかった。」
直接そんな事伝えたりはしない。気付いたら親友になっていた。
きっとこの夜だけでは語り尽くせない物語がある。
「絢ちゃんの事乙女ってよく見抜いたわよね。」
「乙女言うな。」
「結構早い時期から判っていたんじゃない?」
最初に話した時からそんな気はしていました。確信したのはもっと後だけど。
「最初って絢ちゃんがキズナの髪掴んで引っ張り回した時?何それ。何でそれで乙女なのよ。」
「引っ張り回してはいないからっ。」
姿勢と言うか、振る舞いと言うか、乙女と言うより王子様って感じでしたけどね。
「王子って言うなって。」
誰かの声が聞こえなくなり、誰かの寝息が聞こえて
静かになって、眠ったのか眠ろうとしているのか。
僕もウトウトとしていた。
「キズナ君。」
隣で寝ている橘結が小さい声で僕を呼んだ。
はい?
「キズナ君。私の事、昔みたいに呼んでよ。」