049
父を亡くしたショックも勿論大きいのだが、真実を知って、
自分の浅はかさがあまりに酷く落ち込んでいた。
のだが、アッサリと立ち直ったのは2月のあの日。
最初から説明するのは面倒なのだが仕方ない。
気分を害する者もいるだろう。僕がこの話を誰かから聞かされたらきっとそうなる。
始まりは1月の終わり。
久しぶりにファミレスで屯していた。
メニューの中にチョコレート特集が組まれ、必然的に話がバレンタインデーへと流れる。
と、期待(?)していたのだが
誰も何も言わない。
「チョコ美味そう」
程度の発言はある。
しかも誰も「バレンタインデー」の単語を発しない。
僕が何か言うのも催促しているようなので黙っている。
勿論、この中の誰かから貰えるかも。なんて淡い期待をしたっていいじゃないか。
いや期待はしていない。
16年間誰からも貰った事のないチョコレートを今更どうこうなんておこがましい。
むしろ、この人達がチョコを贈る相手はどんな人なのだろうと気になった。
「キズナは好き嫌いあるの?」
南室綴のメニューを眺めながらの些細な質問。バレンタインデーとは全く関係ない。
今まで食べた物の中に嫌いな物はありませんでした。
ただ僕の食生活ってスーパーで売っている物だけで、それ以外は食べた事ないから。
「ワタシどうしても椎茸がダメなのよねー。」
煮物の中の椎茸の食感が苦手のようだ。
「他のキノコは平気なのよ。」
網焼きにして醤油垂らすと美味しいですよ。
じっくり弱火で水分が出てきたら醤油(とお酒)を少々。
あの風味が気になるようなら水分を少し飛ばして調整するといい。
(そう言えばサーラ達とのバーベキューで食べた椎茸は美味しかった)
「今度美味しい椎茸ご馳走してよ。」
いいですよ。温かくなったら皆でバーベキューしましょうか。
「さすがにこの時期にBBQはないな。」
「鍋だ鍋。なあ姫久しぶりに鍋しようよ。」
「ふははははは」
小室絢の提案に不敵な笑いは宮田杏。
「アタシ達はもう鍋したぞ。なキズナ。」
「だねーキズナ。」
「鍋したわねーキズナ。」
栄椿と柏木梢が僕に代わって同意した。
「ちょっと何それどーゆー事よ。」
「どうもこうもそのままだが?」
「いつどこで何鍋したの。何勝手にキズナと鍋してるの?」
「教えてやれ。ホレ。キズナ。言ってやれ。何鍋だっけ?」
冬休みもそろそろ終わろうとしたある日にですねー僕の家でですねー
「場所はいいのよっ。何鍋したのか教えなさいっ。」
か・・・
「か?」
牡蠣鍋を。
「なっ。」
ガシャンとテーブルを叩き頭を抱える南室綴。
「そっそんなっ。」
橘結もノリノリだ。僕を潤んだ瞳で「浮気者」とで言いたそうに見詰める。
「てめぇっ姫を差し置いて牡蠣鍋だとおっ。」
小室絢まで僕の胸倉を掴みノる。
材料持参で、僕にではなく直接祖母に
「いい牡蠣が入ったので」
とか何とか言いながら上がり込んだ。
僕に止める手段は無い。
「やるわよ姫。今度の土曜よ。」
「え?土曜って何曜日だったけ。」
「こんなに動揺している姫を見るのは初めてだ。」
僕の部屋は広くはないがベッドと机しか無いので
布団2組を並べられる場所は確保できる。
女子同士なのだから2組で3人だろうと問題ない。
僕はベッドの中で1人。誰も困らない。
そして電気を消す。
争奪戦の末、1人で布団を独占した筈の宮田杏が
夜中(と言っても遅くまでお喋りしていたので早朝近く)に
「猫は寒いのダメだから。」
突然僕のベッドの中に潜り込んできた。
実際寒かった。そのうえ僕はまだ寝ぼけていた。
宮田杏が仰向けに寝ていた僕の身体を枕代わり抱きついても
いつからか飼っていた猫が布団に潜り込んできた。
程度にしか思えず、まるで恋人がそうするように抱き寄せ頭を撫で
あろうことか彼女の額にキスまでした。
と、目覚めた宮田杏が説明した。
どこまで本当なのか彼女にしか判らない。
本当に猫だと思ったと釈明するのだが
「じゃあ何だ。私がキズナに乗ったら蜘蛛が出たーってスリッパで叩くのか?酷いな。」
いやいやちょっと話が違う。
「ボクは雪女だけど体温普通だよっ。平熱36.5度だよっ。」
「だから抱いて。今すぐ私を抱いてよっ。」
「杏ちゃんにそうしたように。ボクを今すぐ強く抱きしめてっ。」
何を言っているのや?
当の宮田杏はまだ眠いのかベッドの中で丸まったまま。
柏木梢はそれをバッと剥いで
「いい加減起きろこの泥棒猫っ。」
「煩いっスリッパで潰そず蜘蛛女っ。」
布団を奪い返し丸まった。
「はぁー。キズナの匂いがする。」
恥ずかしいから止めて。
「ちょっとソレ寄越せっ。」
「止めろっ寒いっ。」
「ボクにも匂い嗅がせろよっ。」
「なんだよもうっ本人そこにいるだろっ。」
「あっ。」
え?