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Kiss of Monster 02  作者: 奏路野仁
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047

朝目覚めると敷島楓の姿は無かった。

祖父母の部屋では寂しかろうと僕の部屋に布団を運び寝たのだが

布団は畳まれ上に枕と熊が乗っていた。

下の階から物音。

敷島楓は台所で朝食の準備をしていた。

フレンチトーストを仕込んでいる。

休日の少し遅く起きた朝に合う素敵な朝食を用意してくれた。

朝食は彼女の「仕事」だと言った。

いつも父親より早起きして一緒に食べる。

夜は帰りの遅い父親を待ちきれず1人で食事を済ませ、眠ってしまう。

彼女の父親は、自分の妻の手術代やら入院費用やらを稼ぐために土日も働いているらしい。

朝だってきっと慌ただしいのだろう。

こうしてゆっくり食事できるのが少しでも彼女の慰めになるのならいつだって付き合おう。

掃除に洗濯にと張り切ってしまったので神社に着いたのは正午を少し回っていた。

数組の親子が七五三の参拝をしている。

その姿を見て、自分がどれほど間抜けなのか実感した。

僕は世界一の愚か者だ。

どうしてよりにもよってこんな日に。

この少女に対し「よかれ」と考えての行動?

違う。僕はただ自分が楽になるよう行動しているだけだ。

まだ間に合うだろうか。もう手遅れだろうか。

ごめん楓ちゃん。今日はかえ

「遅いっ。」

柏木梢と栄椿が僕を見付ける。

「何やってたんだよ。あれ?帰るのか?今来たんじゃないの?」

歯を食いしばっても顔は上げられなかった。合わせる顔なんてない。

「気にするな。」

察したのは柏木梢。彼女は敷島楓の手を取り

「よし楓屋台行くぞ。お昼まだなんだろ?焼きそば奢ってくれる姉ちゃんがいるぞ。」

と走り出してしまう。

「なんだかよく判らないけど今来たトコなんだろ?」

帰りたいですよ。七五三にあの子を連れてくるなんてどうかしている。

「ああなんだ。キズナがどうかしているのなんて最初からじゃん。」

「ホレっそんな顔してるなっ。」

栄椿は僕を蹴り慰めてくれる。

「折角来たんだから楽しませてやれ。」

お昼時だった事もあり、参拝客の流れが一段落していた。

柏木梢はそれを見て「お昼の前に」と橘結の元へ敷島楓を連れて行く。

巫女装束の橘結

「あなたが楓ちゃんね。こんにちは。」

「はっこんにちわっ。」

初めて見る神巫女に戸惑っているのだろうか。

「楓ちゃんは何歳?」

「はっ8歳です。」

「じゃあ去年七五三したのね。」

敷島楓は首を横に振った。

「ママが入院していたから。」

「そっかー。」

「元々数えでやっていたような儀式なんだからこの際細かい事は気にする必要ないわよ。」

合流した南室綴の提案に

「それもそうね。」

と橘結が敷島楓の頭の上で御幣を掲げる。

「目を閉じて。大好きな人の事を思い浮かべて。」

「そしたら神様が大好きな人のために頑張りなさいって頭を撫でてくれるから。」

敷島楓は言われるまま目を伏せた。

きっとパパとママの事。ママの手術が成功して2人元気に戻ってきますように。

橘結は御幣を二度三度振り、その端が僅かに敷島楓の頭を撫でる。

「どう?神様は頭を撫でてくれた?」

コクリと頷く。

「キズナお兄ちゃんとお参りに行って。」

橘結に促されるまま拝殿のお賽銭箱に。

「これで七五三できたな。ホラこれ。」

小室絢が敷島楓に千歳飴を差し出した。

「キズナのにーちゃんがくれるってよ。」

え?ああ。うん。

「ありがとう。」

「楓は夏祭りにも出られなかったのか?」

栄椿に呼ばれ現れた宮田杏の問に敷島楓が頷く。

2年生の夏休みにこの街の誰もが舞う。

それが出来なかったと知った宮田杏は突然走り出し

参拝客の相手を終え一息着いていた橘結の父親と何やら話をしている。

走って戻った彼女は、参拝客に対する見学用に開かれている神楽殿に飛び乗った。

いつの間にか脱いだ靴を手に持っていたのはさすがのネコ娘だ)

「来いよ楓。」

手を差し伸べる宮田杏。敷島楓がそれに応えるより速く

「ボクもー。」

「じゃあ私もー。」

栄椿と柏木梢が舞台に飛び乗る。

橘結は許可を求めようと父親を見る。彼は黙って頷いた。

橘結と南室綴が舞台に登り

「お前も来い。」

と宮田杏が無理やり引っ張ったのは妹の宮田柚。

敷島楓と、その宮田柚を中心に

橘結と宮田杏がその両脇に立つ。

南室綴、柏木梢、栄椿がその後ろに並び、全員が目を合わせ頷く。

舞が始まる。


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