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栄椿は「曲作りするから」と言い訳し舞台への出演を拒否し続けたのだが
「曲作れるの?」
「DTMやってるから。」
「じぁキーボード弾けるでしょ。」
この流れでピアノとして参加するように命令されてしまう。
残るパートはベース・ギター。
「綴ちゃん昔キダーやってなかった?」
「そんな事覚えてんじゃねぇっ。」
小室絢は中学生の頃にギターを触ったものの
「指先の動きが細かすぎて投げ出した。」
それを聞いたエリクが
「ボクがベースをするからキミがギターを弾くといい。」
と言い出すのだが
「うっ待てっ。オマエがキダーしろ。私がベースを何とかする。」
その気になった。
「違うっ。ギターは巧い奴が演れ。それと歌うよりマシだ。」
「それで曲は?もう出来ているの?」
エリクは乗り気だ。
「私歌詞を書く。」
負けじとサーラも目を輝かせる。
参加できないのが残念なような気がしないでも無いが
この厄介事に巻き込まれなくて安心している自分もいる。
南室さんはどうだろうか。彼女こそ皆と一緒にそうしたかったのではないだろうか。
2人で委員会に向かう途中尋ねると
「キズナと同じ思いよ。」
残念なような気もしたけどよくよく考えると恐ろしい。それより
「またキズナと二人きりになれる時間が出来る方が嬉しい。」
また。もう。
「あらキズナはワタシとふた」
嬉しいです。とても。でもその、そんな言い方は止めてください。恥ずかしいから。
「誘惑するのは自由だから。」
される身にもなってくださいて話です。
「少しは誘惑されてるのね?」
少しどころか。
「じゃあ止めない。ずっとそうする。」
そんな事言って、僕が本気になったら絶対相手にしませんよね。
「本気って?」
僕が南室さんに誘惑されてその気になったらって事です。
「何言ってるの?その気にさせるために誘惑してるのよ?」
言っておきますけど僕もこれでも男子高校生ですからね。
皆どうもそのあたり忘れているようで。
僕の事女子中学生くらいにしか見て無いんじゃないかって思うんですよ。
「何ブツブツ言ってるのよ。」
壁ドンして迫ったら南室さん吹き出すかアッパーするかどっちかでしょ。
「試してもいいわよ。」
またそんな事言って。したらしたで後で皆に言って笑い者にするくせに。
「しないわよそんな事。」
「それとも口だけ?最初からする気も無いのに言ってだけなの?」
いやだからそうしたらって話で
「そんな事言ってする度胸も無いくせに。」
南室さんだってできないで
と言い終わる前に彼女は僕の胸倉を掴んで廊下の壁に押し付けた。
確かにドンと音はしたが僕の背中が当たる音。
これ意味違う。
と思っていると彼女の右ストレートが僕の顔を掠め壁にバンッと掌底。
殴られるのかと思った。
「ワタシには出来るわよ。皆との約束さえ無ければキズナの唇奪う事だって出来る。」
と、結構ギリギリの距離で言われた。
「ワタシはいつだって本気よ。」
なんだこれ、僕は口説かれてるのか?
そして秋分の日を挟み、文化祭が開催される。
結果から述べると、皆のバンドはとても素晴らしく大盛況だった。
3人の歌姫もバックの演奏も完璧だった。
この日を迎えるまでの5日間を知る僕としては感動すらしていた。
バンドを組むことになって。と柏木梢にメールを送ると
「それじゃこの店に行ってみ。私から連絡しておくらか。」
何とも渋いお洒落なジャズバー。高校生なんて寄り付きそうもない店。
夕方、僅かな時間ではあるが開店まで機材が借りられ
曲作りや演奏技術までイロイロと面倒を見てもらった。
バンド経験のあるルーはともかく、たかだか1カ月で
素人が人前で披露するレベルの曲を3曲も作れるとは思えなかった。
それでも皆が楽しそうだった。
秋分の日を挟み、結束力は増した。僕はそれでいいと思っていた。
本番まで5日。
その日、実行委員は予定より少し早めに作業を切り上げ
それぞれの所属する各クラブへと顔を出す事になっていた。
僕と南室綴は本番を控えた皆を激励しにバーに行った。
音楽には詳しくないが、僕が聞く分には「完璧」だ。
皆負けず嫌いだからアホほど練習したのだろうなぁ。
だが南室綴の何気ない一言が火を点けた。
「文化祭レベルとしては上出来ね。」
彼女の真意がどの方向を指していたのか判らない。
だが皆はきっと同じようにその言葉を捉えただろう。
翌日の放課後、文化祭実行委員としての事務作業中に
「皆の様子見てきてくれないかな。」
と南室綴に頼まれた。
朝から皆が不機嫌だった。練習中に何かあったのだろう。
僕も気になっていたので。と練習を覗く。
「だからそこはこうだってさっき。」
「違うだろ。それじゃオカイイって。」
昨日までの笑顔が消えていた。




