074
気が付くと横になっていた。
祠の修復をしているようだったがすぐに眠ってしまった。
次に気付いた時は走る車の中だった。
頭痛や吐き気も収まり、とてもスッキリとしていた。
隣に橘結が座り、眠っていた。
終わったんですか?
運転する三原先生に声を掛けると
「お、起きたか。具合はどうだ?」
え?ああはい。何ともないです。それよりあの
「おう。お前たちの役目は終わったよ。」
後は地元の連中でキレイにするだけだと言った。
「あとでちゃんと結にお礼言っておけよ。」
「お前が運ばれてきてからずっと手当てしてたんだからな。」
手当って、僕何処か怪我してたんですか?
「頭の中ぐちゃぐちゃになってた。」
ナニソレ怖い。
「熊と戦うとかホント無茶な奴。」
戦ってませんよ。あ、コレ。
「戦わせるためにそれ渡したんじゃなかったんだけどなぁ。」
だから戦ってないって。
「お前、覚悟しておいた方がいいぞ。」
何のです?
「狭い世界だからな。アッという間に広まるぞ。」
だから何が。
三原先生は楽しそうに笑うだけで答えてくれなかった。
翌日、橘結の父親が態々家にお礼の挨拶に現れた。
僕如きに対してとても礼儀深く、敬意を持ってくれているのが判り恐縮したほどだ。
その席で彼は熊との一戦について聞いてきた。
僕は事前に三原先生からこの腕輪を預かったと説明すると
「それは聞かなった事にしよう。」
どうしてです?
「魔女の所有物だからだよ。」
不浄な存在である魔女の道具を使い何たらかんたら。
ああバカバカしい話だ。
「君だって紹実に責任を取らせたくは無いだろう?」
勿論ですよ。
「なら仕方ないな。」
「君は君の実力で熊を倒した事にしよう。」
はい?
「うん。そうだな。それが一番いい。」
何だ。この人も昨日の先生のように随分と楽しそうに笑うな。
もっとずっと後になって教えてもらうのだが
この一件は現地で橘さんの父親が三原先生に確認をとっていた。
「魔女の所有物」な事も当然ある。が
「その方が後々面白そうだから」と両者の見解が一致し
その場で二人は粗筋を作り僕を祭り上げていた。
自身が全く知らない間にどうやら僕はその界隈で
「熊殺しの伝説」の男とされていた。
夏休みはまだ続く。
予備校の短期講習の下見やオープンキャンパス。
それぞれが次の段階を考えている。
それでも隙きを見付けてプールやイベントやら
すぐに夏祭りもある。
その夏祭りがテレビのニュースで放映された。
「田舎の夏祭り」的な紹介で
僅かな時間ではあったのだが皆の舞が映し出された。
その夜。
僕は橘結と2人で屋台を回りながらおかしな事を考えていた。
あの舞を見てしまうと、僕なんかが気軽に声を掛けてはいけないような気がするのに
こうして話をしていると、とても身近な存在に感じる。
それでつい、子供の頃のように名前で呼んでしまい、
恐れ多くも手を繋いで歩いたりしてしまう。
夏休み残り10日を切った。この日僕は珍しく誰からも予定を入れられなかった。
家にいても暑くて光熱費ばかりかかる。
学校の図書館が開放されているのは有り難かった。
受験勉強中の3年生がそこそこいても図書館では孤独になれる。
料理の本をいくつか取って端の席に座る。
朝食と昼食を兼ねていたのでトイレと、背伸びをする以外席を立たなかった。
誰とも会話をすることなく15時頃になって帰る事にした。
すっかり存在を忘れていた携帯を見るとメールと電話の着信が数件。
全部柏木梢からだった。
慌てて電話をして謝った。
図書館にいて気付かなくて本当にごめんなさい。
「許してやるから、今から会えないか?」




