065
僕は学校に行く途中で
何も無く、誰もいない場所に向かってお喋りをする。
急に走ってそれきり戻らなかったりもした。
突然ヘンな踊りをしているようにも見えただろう。
「気持ち悪いからうちの子に近寄らないで。」
と、正面向かって言われた事も少なくない。
動画を撮られた事だって一度や二度ではない。
PTAの会議では毎回議題にあがるらしい。
騒ぎを起こしたくない学校は、過度に僕を守ろうとするのだが
子供達にはそれが逆効果となる。
大人が僕を守ろうとすればするほど、子供達は僕を痛めつける。
机に花瓶が置かれていたり、そもそも机と椅子が校庭に投げ捨てられていたりは日常だ。
ある日、ある時、
いい加減にしないとお前を呪い殺すぞ。
と脅したら本気で信じてそれきり暴力は無くなった。同時に、誰からも相手にされなくなった。
僕は平穏を得た。
無視は有難い。今以上の被害が無いのだから。
この穏やかさが心地よくて、僕は知り合いのいない祖父母の家にお世話になろうと決めた。
入学前に正体を知られてしまったが
それでもトモダチでいてくれる。
だけど、それが原因で全生徒を危険な芽に合わせてしまった。
「あー待て。それ言い出したらあの2人は強制退学だぞ。」
いえ。ダメです。それを避けるためにも僕が責任を取る必要があります。
「だから待てって。早まるな。な?」
「言った筈だぞ。竜巻の原因にするって。」
「そのために態々放送までさせたんだ。」
本当に皆それを信じたの?竜巻が弾ける前の光景だって見ていましたよ。
「私は魔女だぞ。忘れたのか/」
もしかして2人が対峙したあたりから全校生徒の記憶を操作したとか
「さすがに操作は出来ないなー。強制的に飛ばしただけだよ。」
「都合良く皆気絶していたからな。簡単だったよ。」
大きな事故にあうと、その前後の記憶が飛ぶことがあると言う。
脳が心を守ろうとするのだとか。
それを応用した技術だと笑って説明できるのは彼女が本物の魔女だから。
とても簡単な事のように言っているが、あの時の彼女の顔色を見ていれば
それが尋常な労力ではなことくらい僕にだって判る。
それだけの事を、僕のためにしてくれた。
いや、今に始まった事じゃない。これまでの事全部の恩を僕はどうやって返せばいい?
「何を言ってる。キズナに恩を返しているのは私なんだぞ。」
恩?僕は何もしていない。いつも助けられてばかりで迷惑ばかり。
「お前はこの街に戻ってきて私に会いに来てくれた。」
あの日、三原先生には祖父が会いに行けと。
「どんな理由だって構わない。お前が来てくれた事実だけが大事なんだ。」
「纏姉ちゃんと会えない10年は、私にとっても辛い事だったんだよ。」
「でもお前が来て、私を救ってくれたんだ。」
「再会できただけでも本当に嬉しかったのに」
「お前は私がずっと出来なかっちた2組の少女達を救った。」
「あの時、私がどれだけ救われたか。」
「キズナには感謝しても仕切れない。」
僕は自分がそうしたいからそうしただけです。
ここに越したのだって誰も知らない場所に逃げ出しただけで
彼女達をトモダチ同士にしたのだって、僕がただそうしたかっだけだ。
「だーっうるせぇなっ。」
「いいから私の恩義を素直に受け取れよっ。まったくそんなんじゃ本当にアイツらから嫌われるぞ。」
でも
「あーもう。じやあもっとキズナを助けさせろ。そしたら許してやるから。」
「ああっでも心配するのはイヤだな。もっとこう何かチョットした心配とか悩みとか問題持ってこい。」
「恋の悩みなんてどうだ?話せ。今後の女関係全部聞かせろ。」
三原紹実は僕を楽しませてくれる素敵な女性だ。
判りました。姉に報告するのはまあ弟しては当然の義務ですね。
だからって「女関係」は養護教諭が教え子に言う言葉じゃありませんよ。
「まあまあ。で?で?今は?」
今?今は誰にもそんな感情ありませんよ。
「えー。若いうちにどんどん恋しろよー。」
遅く起きたので朝食は抜いて
「コンビニ寄って行こう。」
三原紹実は僕を神社に連れて行くと言った。
理由を尋ねると
「あの日の続きだよ。お前秋分の日の祀りがトラウマになりかけてるたん゛ろ?」
春休み最終日に神社に行ったのはまさにそれが理由だ。
あの時は思わぬ邪魔が入った。
「何でも相談しろよ。どうにかなるか、どうにもならないかを一緒に考えてやるから。」
出発すると直接神社前の公園に到着した。コンビニはどうした。
僕一人降ろされ
「上で待ってる。ゆっくりでいいからな。」
彼女はそのまま車で境内へ。
リハビリ。のようなものか。
問題ない。橘家での鍋会にも行けた。問題ない。
石段を1つ登る度に身体が重くなるうよな。
またアイツがいたら。




