061
エリクは橘結を屋上に呼んだ。
皆にも聞いてもらいたいと、南室綴、小室絢だけではなく
宮田杏も柏木梢も栄椿も呼んだ。
勿論グンデ・ルードスロットもいる。
彼は改めて来日の目的を語る。
「私で役に立つなら協力は惜しみません。」
橘結は、自分を囮にすると言い出した。
南室綴も小室絢も、彼女がそう言うのだと判っていたようで反対しない。
「いえ。貴女はこの件に煩わされないでいただきたい。」
お二人が傍にいる限り、貴女は安全だ。
エリクは南室綴と小室絢に
「ボクは貴女達の邪魔はしない。」
「ボクに言われるまでも無いだろ。プリンセッサの護衛はお任せする。」
「ボクはボクの責任を果たす。」
エリクは橘結の護衛を放棄したのではない。
センドゥ・ロゼの動向であるとか現状だとかを認識しているのだろう。
彼が現れればきっと誰よりも早く駆け付ける。
「キミ達も、今まで通りプリンセッサを御守りしてクダサイ。」
「お前は判ってないな。守られているのはアタシ達なんだよ。」
あのー
「どうしたの?」
エリクの目的は判った。でもルーは?
ルーは何しに日本へ?
「モクテキ?ジャパニメーションですよ。」
あらそうなの。
いつか来るかもしれない日に備え、小室道場に通う事になった。
正式な入門ではなく、小室絢の内弟子のような扱いなので
不定期に、あくまでも小室道場と小室絢個人の都合でその予定が決まる。
小室絢は、市か街かの主催の教室の参加を忘れ僕を道場へ。
見たことも無い子供達に「あっ」と声をあげ僕は道場から追い出される。
「ごめん。すっかり忘れてた。あ、ちょうどいいや。お前母ちゃんの相手しろよ。」
はい?
「キズナ連れてきたら合わせろって言われててさ。」
「お前恋人だからって変な事言うなよ。」
恋人?ああそうか。そうでしたね。
「忘れてんじゃねぇっ。」
2人で台所に行くと
「キャーッ絆君っ。本当に来てくれたの?ちょっと借りていいの?」
「いいよ。父ちゃんの手伝いしなきゃだから。すっかり忘れてたよ。また怒られる。」
ブツブツ言いながら道場へと向かった。
「ごめんねーガサツな娘で。」
いえ、思いやりのある素敵なお嬢さんですよ。
「そう言えって言われたの?」
はい?
「付き合わなかったらボコボコにするぞ。とか言われたの?」
言われてません。
「じゃあ絢のどこがいいの?」
(親が聞くかそれ)
トモダチ想いで正義感が強くて
「って言えって言われたんでしょ。」
本心です。
「じゃあどして絆君まで強くなろうとするの?」
はい?ソレって何か関係ありますか?
「大抵の相手なら絢1人で瞬殺できるわよ。」
瞬殺って。まあそれはそうなんでしょうけど。だからこそ。
えーっと、絢さんに誰かを傷付けてほしくないから。かな?
僕はいつも守られてい助けられている。
絢さんを守ろうとかそこまでは考えられません。
でも僕が弱いからって絢さんが誰かを傷付けるのは見たくないから。
彼女は突然目を潤ませて
「誰かを守るために自分が傷付いてしまえば、守られた人も傷つく。」
「私達が高校生だった頃に私が纏ちゃんに言われたの。」
「私はずっと纏ちゃんや紀ちゃんを守っていたつもりだった。」
「私に出来ることは身体を張った事くらいだから。」
「紀ちゃんは私の怪我を心配するけど、纏ちゃんは違った。」
「怪我する前に言って。きっと何か別の方法がある筈だからって叱られた。」
「自分の身体に傷が1つ付いたら紀ちゃんの心にも傷が1つ付けているって思いなさいって。」
それは僕以外の皆に言って欲しいです。
僕は守られている側なので。そうさせたくないから頑張っています。
「だから紀ちゃんも結ちゃんを道場に通わせたのよ。」
するとつまりその
「うん?」
紀ちゃんてのはもしかして橘さんの?
「あら言ってなかった?結ちゃんのお母さん。橘紀子。」
「私達3人でよくあば、遊んだのよ。」
あば?
僕の母と小室絢の母が出会うのは2人が小学生の時。
互いが互いを「何となく面白そうな子」程度で遊ぶようになる。
母が強引に連れ回し、母のしようとしている事に共感し協力する内に親友になった。
中学生になり、小室家は橘家に仕える。
僕の母がそれに従う理由も必要もないし、実際そうしていない。
母にとっては橘家と小室家の関係は意味を持たない。
その意義や意味を尊重するが個人とは別問題。
母はただ、橘紀子とトモダチになっただけだった。
「纏ちゃんがいたから、私は紀ちゃんともトモダチでいられた。」
と言ってくれた。
やがて互いがそれぞれの道へと進むが友情は失われない。
それぞれの子が産まれても、その親交は深まるだけだった。
ずっとずっと続くと思っていた。
真壁纏が亡くなり、
その2年後に橘紀子が亡くなる。
2人の親友を失った悲しみは想像すらできない。
彼女は橘紀子の病床を見舞い
私を1人にしないでと懇願した。
「何言ってるの。絢ちゃんがいるでしょ。」
「結と仲良くなってくれるといいわね。」
「纏ちゃんの子も、きっとこの街に戻ってくる。」
「結と約束したから。」
橘結と南室綴が小室道場に訪れ、市の主催する特別指導を終えた小室絢と合流する。
3人揃って、僕と小室母のいる台所へと現れた。
と、小室絢の母親は突然涙を零した。
ずっと潤んではいたが、とうとうポロポロと泣き出してしまった。
慌てたのは小室絢。自分の母親がトモダチの前で泣き出すなんて。
「ごめんなさい。」
「絆君と話しながら、ずっと纏ちゃんに似てるなーって思ってて。」
「そしたら結ちゃん来て。それが紀ちゃんに見えて。」
「ごめんねー。」
何だかとても嬉しそうに僕達に謝った。
橘結は貰い泣きして、わーっと彼女の胸に飛び込んだ。
南室綴が僕の背中を押す。
抱き合う2人を包むように慰めた。
彼女は泣きながら
「2人がいてくれて本当によかった。」
と笑ってくれた。




