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祖母は
「ちょっと来なさい。」
と三原先生と何故か僕も二階の僕の隣の部屋に案内した。
三原先生は受け取ったバスタオルを頭に被せ、
「濡れたままで大丈夫ですか?」と心配しながら続いた。
僕はこの部屋に入った事がない。
祖父母が普段出入りしている様子も無いのだが、
居候の身としてはあまり詮索するつもりはなかった。
「ここって。」
先生はこの部屋を知っている。
そこは母の部屋だった。
高校を卒業して地元を離れ、大学に行って結婚して、そのままの状態。
母が亡くなってから、自分の娘が亡くなってから掃除以外で手を付けてはいないと言った。
「着替えならここにあるから好きなの使いなさい。」
「でもこれ。」
「あなたにならいいのよ。」
祖母はクローゼットを開き
「どれでも好きなの着なさい。」
「下着類はここにあるから。貴女の好みもあるから無理強いは出来ないけど。」
祖母はそう言って僕をチラリと見た。
是非使ってください。母も喜ぶと思います。
三原先生が振り返り、すぐに祖母の手を取って言った。
「ありがとう。ありがとうお母さん。こんなにびしょ濡れじゃなければ抱き付いたのに。」
「ずっと纏と仲良くしてくれてありがとう。絆とも仲良くしてあげてね。」
祖母のその一言に彼女はまた泣いた。
「うん。仲良くする。大丈夫。」
と涙も拭かずに顔を上げて、僕に近寄ってそのまま手をぎゅっと握って
「もうとっくにトモダチだよ。」
と子供のように笑った。
「トモダチって言うか姉と弟なんですけどね。」
どうもこの人は自分であれ他人であれ、素敵な台詞をブチ壊すのが得意のようだ。
それから彼女は夕食を共にして僕の母との想い出を祖父母と話した。
特に久しぶりに飲み相手の出来た祖父とは随分長く飲み語った。
結局彼女は泊まる事になった。
母の部屋を使ってもらおうかと話たが
「キズナと話がしたいから。」と僕の部屋に布団を用意した。
「お前、今日何で1人で神社に行ったんだ?」
え?あ、はい。えーっと、
「今嘘吐こうとしたろ。」
え。そんな
「本当の事言うと私が心配すると思ったんだろ?」
敵わない。この人には全くもって敵わない。嘘なんて無理だ。無駄だ。
「言っておくけど、私が魔女だから判るんじゃないぞ?」
「お前が判り易い奴だから判るってだけだ。」
「まさかアイツと会う約束していたとかって事はないよな?」
違いますよ。会いたくもない。
短い春休みが終わり、すぐに新学期。
多分一生忘れないであろう最初で最期の高校2年生の初日。
クラス発表に図書館脇の掲示板。
「ま」行なので中央やや下から探しすぐに2-1と判明
次いで女子を確認。小室絢。橘結。南室綴。
隣のクラスに柏木梢。栄椿。宮田杏。殆ど変わっていないのだろうか。
カタカナ表記が目立つとは言っても
女子の知り合いしかいなのだから
エーリッキ・プナイリンナの名前に気付かなくても許して欲しい。
まして隣のクラスのグンデ・ルードスロットを見過ごしても許して欲しい。
まさかセンドゥ・ロゼの名前は無いよな。
エーリッキ・プナ入りンナが、掲示板を眺める僕を見付けた。
僕達は久しぶりの再会に強い握手をした。
だが彼は再会を懐かしむより先に僕に忠告をする。
「彼が戻った。」
うん。知ってる。だからエリクも戻った。
「知ってるってどうして。」
答える前にグンデ・ロードスロットが僕達を見付け駆け寄り
「ボーーースッおひさねーっ。」
結構な力でハグされた。
センドゥ・ロゼ
目的は「橘結を同族とする」。
橘結の「人ならざる者を人とする」能力が必要なのか
それとも使わせないようにするのかは判らない。
「キミも気を付けて。」
僕?
「あの日、プリンセスと一緒にいて、キミは彼の正体を掴んだ。」
エリクはとても恐ろしい事実を口にした。
その後の2度の憑き物はセンドゥが「僕を」襲わせたのだろうと。
サーラの悪友、アレクサンドラが僕を浚ったのもセンドゥの企みで
それは橘結に常に護衛がいるから。
(昨日会ったなんて言えないな)
それでその、エリクが戻ったのは判ったけど
ルーが来たのはどうして?
「協力してもらおうと思ってね。」
協力?
「とにかく、また会えて嬉しいよキズナ。」
え?ああうん。僕も嬉しいよ。




