058
厄介なのは教師からのチョコだったが
結局これも相手から直接「告白」がない限りは無視する。
と落ち着いた。
「チョコ受け取ってる奴をカワイソウって思ったの初めてだ。」
宮田杏がしみじみ言うから皆して吹き出した。
「イロイロ面倒だな。」
と小室絢が肩を落とすと
「今年は特にね。」
と柏木梢も項垂れた。
これで2つの議案が片付いた。それでもう1つって?
僕の一言に皆が黙った。
ほぼ同時に上げた顔は全員僕を睨んでいた。
逃げるか?逃げるべきか?
「それでは本日の最終議案について。」
栄椿はトーンを落とし深刻な雰囲気を醸し出す。
「一斉か?順番か?」
「そうね。それがいいわね。」
「落ち着け姫。どっちだ。」
「開けるのは帰ってからにしない?」
「見られたら困るようなカード入れたのかお前っ。」
「困るっつーか恥ずかしいでしよっ。」
「私も1人の時に見て欲しいかも。」
「ボクも帰ってからに賛成。」
「反対の者は挙手。」
「いないので全員一致で承諾とします。」
「帰ってから開けさせる。」
「その前に最終確認をしたいなぁと。」
「ああ私も。キズナ。悪いけど廊下に出てくれ。」
何だ何なんだ。会議が始まったと思ったら追い出されるのか。
このまま帰りたいなぁ。
「帰るなよっ。お前帰りそうだ。」
バレてる。
廊下に出ると紅茶のお替りを持った小室母が来る。
「どうしたの?」
ちょっと廊下に立ってなさいって事になって。
「何したのよ。寒いでしょ。ちょっと来なさい。」
へ?ああはい。
台所は橘家に劣らず広い。
「ココアでいい?」
どうかお構いなく。
「ココアでいいわね。」
はい。ありがとうございます。
「あとコレ。私からバレンタインよ。道場の子供達の余り物だけどね。」
ありがとうございます。
「絢からの見た?さっき結ちゃんから口止めされたけどもう受け取ったでしょ?」
え?いやまだ。
「そうなの?何やってんだ。」
「元々お菓子作りは好きなのよ。でも今回は相当気合入れてたからね。覚悟しなさい。」
覚悟って何の。
「そりゃ始めての彼氏なんだから気合も入るでしょ。」
ああそうか設定は
「キズナっ。」
「勝手にいなくなるなっ。ホントに帰ったかと思ったんだからな。」
あ、うん。ゴメン。
「ちょっと。アンタが廊下に立たせて何言ってるのっ。大体どうしてとつとと」
「うわああっイロイロと準備とかあるだろっ。皆いるんだしっ。それでちょっと待ってもらっただけだ。」
「ホラ行くぞっ。」
と手を取られ連行される。
あ、ココアご馳走様でした。
手が繋がれたまま戻ると案の定その事にツッコミが入る。
「恋人同士って本当なんじゃないの?」
「うわっ。」
小室絢は慌てて僕の手を振り払う。ゴキブリでも掴んだような勢いだ。
「とにかく座れよ。」
皆のチョコレートの多さにただでさえ凹んでいるのに
廊下に立たされたり怒られたり
やっぱり休めば良かった。
テーブルの上は片付き、これでお開きと僕を呼び戻したのだろう。
これで帰れる。
「じゃあ代表して姫ぽん。」
「はっはいっ。」
締めの挨拶か。改まってこんな事するなんて女子には特別な日なんだ。
だとしたら本当にどうして僕はここにいる?
「キズナ君っ。」
はい?
ドサっと紙袋が2つ。
朝、祖母が渡してくれて学校で小室絢に渡した手提げの紙袋。
「これ。バレンタインデーの贈り物。皆から。キズナ君に。」
は?
「皆で約束したの。皆で渡そうって。抜け駆けなしでって。ね。」
「コイツら抜け駆けしかけたけどな。」
「公平に喧嘩にならないように皆で一斉に渡す事にしたの。」
「私達からはキズナを独り占めしないって取り決めをしたのよ。」
「お前は皆のトモダチだ。皆のモノだからな。」
3月のお返しは学校で渡すの恥ずかしかったし
何より他のクラスメイトの視線が恐ろしかったので
一度帰宅し、ファミレスに持参した。
「学校で渡すからドキドキするのに。」
「オマエはバレンタインデーに関する一連が判っていない。」
等々も文句を言われ、それでもめげずにお返しを渡すと
「マカロン手作りとか有り得ない。」
「こんなに美味しいの作られたら私達の立つ瀬がなくなるでしょ。」
とまた怒られた。
バレンタインデーもホワイトデーも嫌いだ。




