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何だよ31個て。これで少ないって?
僕なんか1個だぞ1個。
貰ったばかりの市販のクッキー缶を開けて
「ちょっとパソコン持ってくるから食べてて。」
「じゃあワタシ飲み物用意しようか?」
「うん。頼むよ。はぁ」
溜息をする小室絢と、その背中をさする南室綴が部屋から出る。
「お返し大変だよなー。」
「その場で渡しているみたいよ。」
「それ用意するのが大変だったろうな。いくつ貰えるのかだって判らないし。」
「元々道場の子に配る分があるけど。今回は一応それ全部持たせたのよ。」
「絢ちゃん10個もないよ。てヘラベラしてたけど甘いわって。」
「アタシらの場合は交換会みたいな感じだから前もって用意できるけどな。」
「杏ちゃん今年はいくつ?」
「7個。マジもん2個。」
「ボクも7個だ。同じ子だよね。マジっぽいの1個別であるけど。」
「梢は?」
「ん?私10個。」
「何でお前だけっ。」
「うそ7個よ。男から3つ貰ったけど。」
「そっちのが怖いわっ。」
「姫ちゃんは?」
「えーっと12個。でも私達のも全部交換した物よ。あ、3人にも。」
橘結が取り出すと3人もごそごそ鞄を漁り交換会が始まる。
ここで南室綴と小室絢の母親が紅茶を持って現れる。
「お邪魔してまーす。」
「はいいらっしゃい。あら1つ多いと思ったら絆君だったのね。」
はいお邪魔してます。
「絢からチョコもらった?あの子こん」
「うわああっお母様。ありがどうございます。あとやりますから。」
橘結は慌て立ち上がり小室母を追い出す。
「そうか。そうね。じゃあお願いね。皆さんごゆっくり。」
入れ替わるように小室絢が戻りノートPCの電源を入れる。
「キズナはちょっと向こう向いてて。ヤバイのだとヤバイから。」
ヤバイってなんだ。
「一応音消しておけよ。」
「判ってるょ。」
「あ、大丈夫なやつだ。いいよ見ても。」
SDカードにはテキストファイルと音声ファイル。
テキストにはクラスと氏名、メッセージと自作の詩。
音声ファイルはその朗読。
別のUSBメモリには動画ファイル。女子が自室で自己紹介をして踊りだした。
小室絢の表示用が和らいだように見える。
過去に一体何が送られてきたのだろう。
「それはその。まあ、な。いいじゃん。」
橘結も南室綴もこの件に関して一切口を開くことは無かった。
バレンタインデーってのは女子が女子とチョコを交換する日。
きっとそうだ。女子校ではない共学の高校でコレなのだから間違いない。
「梢。さっき男子から貰ったって言ってたけどうちのクラスの奴?」
「まあ2つはそうなんだけど。1つちょっと洒落にならなくてさ。」
柏木梢はそのカードをテーブルに置いた。
「ひっ。」
「いやいやいや。」
「これヤバイやつやでっ。」
「だよな。」
誰だろう。クラスメイトにヤバイ人がいるのかな。
「何言ってるのよ。ワタシ達の担任でしょっ。」
うえええっ
ヤバイやつだ。これアカンやつや。
でもこれってそのそういうかんけいって事じゃ
「違うわっ。」
「紹実ちゃんがキズナに渡すのとは意味が違うだろコレ。」
「どうしようか。ちょっと困ってる。まあ無視するしか無いんだけど。」
「え?早いウチにちゃんとお返事した方がよくない?」
「えー。」
「そうだよ。後々面倒になるよ。」
「得意の上目遣いで色目使って誘惑こいたんじゃねえの?」
「せんせぇ今度のテスト範囲おせぇてぇみたいな。」
「するかっ。」
男子2人からの分は、文化祭の際ちょっと手伝った覚えはある。程度だと言った。
「サスガ魔性の女。」
「フェロモン撒きすぎだ。」
「気を付けていたんだけどなぁ。」
気を付けていたって前にもあったんですか?
柏木梢の告白は、甘くなかった。




