053
小室絢と橘結が引き剥がしてようやく身の自由を確保した。
朝食の用意してきますから3人とももう少し寝ていてくださいっ
上着を取って逃げ出した。
疲れた。
台所は寒いな。
朝食は蟹鍋の残りを使った蟹雑炊にしよう。あと味噌汁と。
5人分か。白菜とネギはまだあるかな。少し足したい。
鱈もまだあるな。これおかずにしようか。
10分ほどすると小室絢が様子を見に現れた。
まだ寝てていいのに。
「うん?まあな。」
寝巻きのジャージ姿が寒そうだったので上着を渡した。
「いいよ。お前着てろよ。」
台所で火を使って温まりました。後ろ向いてください。
小さいから肩から羽織るだけでも。
「ん。ありがとう。」
どうしたんですか?喉乾いて水飲み来たなら
「あーいや。そうじゃなくてさ。」
「そのー私が言うのもオカシイと思うだろうけど、その、ありがとな。」
はい?
「いやその。綴がさ。お前のお蔭でイロイロと吐き出してくれるようになってさ。」
僕の?
「アイツ結構背負い込んじゃうタイプでさ。」
「お前には好き放題言うから信じられないだろうけど。」
「お前がアイツともトモダチになってから何かこう、変わってきてて。」
「だからさ、これからもずっと私らといろよ?」
「お前にも、私が私達がずっといるからな?自分から1人になろうなんてするなよ。」
「小さい頃がどうだろうと、お前は今私達といるんだからな。」
ズイと一歩踏み込むと、彼女の背が高いから余計にその目が突き刺さるようで
「もうお前を1人ぼっちになんかさせないからな。」
と胸倉を掴まれた。
この脅しはずるい。泣きそうだ。
「さっきまで人に散々文句付けてたくせに何やってるのよっ。」
南室綴がいつの間にか台所の戸口で仁王立ち。
「何だっいつ来たっ。」
「見詰め合って次に何するつもり?ホント油断も隙もない。」
「お前が言うか。お前が言うなっ。」
「キズナ君っ。大丈夫?絢ちゃんに乱暴されていない?」
橘結が僕と小室絢を引き離す。
「乱暴なんかするかっ。」
「胸倉掴んで凄んでいるようにしか見えないっ。」
「ホント油断も好きも無い。」
「姫まで言うか。姫がそれ言うか。」
「絢ちゃんだって。」
「綴もだろ。」
仲良しだなー
「ニヤニヤするなっ。」
と3人から怒られた。
殺伐とした空気は続き、そのままバレンタインデー当日を迎えた。
誰からも「甘い物好き?」とは聞かれなかったので今年も期待はしない。
学校休もうかと本気で考えていたが
祖母が何やら手提げの紙袋をいくつか持たせようとする。
まさか。とは思ったがやはり
「たくさん貰ったら大変でしょ。」
そんな心配いらないからと断る。
こんなの持っているの見られたら恥ずかしくてそれこそ学校に行けなくなる。
「いいから持っていきなさい。」
と無理やり鞄に押し込められる。
どうか見付かりませんように。
登校途中もため息しか出ない。学校行きたくねぇー。
学校に着くともう空気が違う。
すれ違う誰もがフワフワしている。
薄ら笑い。ソワソワ。イライラ。俯き。
教室に入ると、その空気が変わったのが判った。
ピリッと冷たい感じ。
僕が教室に入ったその一瞬、ザワつきが収まり静寂になった。気がした。
机の上の箱で、それが気の所為ではないと判った。
綺麗なラッピング。リボンまで。メッセージカード?
「本命」
堂々と、折りたたまれているでもなく封されているでもなく、箱の上に添えられている。
ほんめいさん?誰だ。そんな人いたっけ。席を間違えたか。
自分の教室か、それとも席を間違えたかとグルリと一周見渡すと
皆がフッと目を逸らした。(ちょっと面白かった)
教室も席もどうやら間違っていない。
恐る恐るカードを取り見る。裏には
「絆様へ」
とだけ書いてある。
様?誰の事だ。いやまて。まだ慌てるような時間じゃない。
罠か?
箱に耳を寄せる。時計の音はしない。
残る可能性はドッキリだ。何処で見ている。とっとと「ドッキリでしたー」て来い。
いや中身がドッキリなんだな?
中は泥団子だな?そうに違いない。




