桃太郎地獄
古来、日本には「桃太郎」という童話があるのは周知のことだと思う。しかし、この話には後日談があると知っている人はあまり多くないだろう。桃太郎が鬼を退治した後、財宝を持ち帰り、育ての親である爺さん婆さんと幸せに暮らした後の話である。
桃太郎が鬼ヶ島から帰還したとき、鬼は一時的に人々に悪事を働くことを躊躇ったが、それでは家計が立行かぬので細々と人々から金品を巻き上げ続けていた。その間にも桃太郎の武勇伝は全国へと広まりつつあった。
するとどうだろう。まず人々は桃の木に群がった。野生の桃の木というのは珍しく、さらに川から流れてくる桃などなおさら珍しい。よしんば野生の桃があったとしても、大抵の桃は鳥などの動物に食われているか、腐って肥やしになっている。
それでも次の桃太郎を我が子にという人は後を絶たず、中には農地から盗む者、農家から買い占めて川に流す者、仕入れた桃を転売する者まで現れた。桃農家は桃が売れたり盗まれたりと悲喜交々であった。
そうこうしているうちに、桃太郎二世と名乗る者が突如として現れた。彼は貧しい農民の出であると自称し、見窄らしい首輪付きの犬と、人間の赤子みたいな猿を背負って、コケコッコーと鳴く雉を連れていた。手には薪割り用の斧を持ち、鎧兜は頭に被った鍋一つ。褌一丁といった出で立ちで、桃太郎というより今にも熊を倒しそうだ。
それでも二世は鬼ヶ島へ赴くと、二代目鬼の大将を討ちとって僅かばかりの財宝を持ち帰ったという。
この話を聞いた人々は初代桃太郎のとき程の感動は覚えなかったが、その代わりに軽い嫉妬と焦りを感じた。すると次々に桃太郎三世、四世、五世やら新桃太郎、超桃太郎、桃太郎MKⅡなど、中には桃次郎なんて名乗る者まで現れだした。ここに目を付けた吉備団子屋は、初代御用達とか金運が上がるといった文句を謳い一財産をもうけた者もいた。その他にも「鬼の居ぬ間に吉備団子」「団子を食って地固まる」などの名文句も生まれたが、もはや団子屋も何のために団子を売っているのかわからなくなっていた。
さらに今度は野山から猿と雉が消え始め、町からは野良犬が消え始めた。町役人は町の衛生上、野良犬の始末に困っていたため大喜びだったという。
この事態に一番焦ったのは鬼である。鬼は人間には悪事を働くが、鬼ヶ島では私有財産制が守られており、自分が盗ってきたものは自分のものである。その結果、強い鬼の方が財産を蓄えているのは当然であり、次から次へと雨後の筍の如く出現する桃太郎にまず狙われるのは強い鬼からとなる。
こうして鬼ヶ島の鬼は、強い鬼から順に姿を消してゆき、残る鬼たちはこれでは種の存続が危ういと考えるに到った。そこで彼らは一計を案じ、鬼主催で桃太郎大会をやろうと言い出した。つまり桃太郎同士で一番強い者を決め、これに勝ち残った者が鬼退治の権利を得るというのだ。
こうして、こうして、、こうして、、、
斯くして、無数の「こうして」が年とともに積み重なり、年一回、大晦日に桃太郎同士、犬は犬、猿は猿、雉は雉同士、青鬼コーナーと赤鬼コーナーに分かれて戦い、代表者を決める大会が始まった。
日本の大晦日にテレビで格闘技番組が放送されるのは、この大会の名残であるのかもしれないのは此処だけの話である。




