メリークリスマス
賑やかな夜の街、行き交う人の波に飲まれそうになりながらフラフラと歩く男が独り。
「はぁ、騒がしいなぁ」
今日はクリスマス、男は周りの幸せな空気を吸うことはなく仕事を終え帰路につく。
「可哀想に、新しい物があれば古い物に用はないということか…まだ綺麗なのに」
通りがかったゴミ捨て場に捨てられていたフランス人形に男は呟いた。
「…」
男は人形をしばらく見つめると黙って帰路に戻った。
誰もいない部屋、古びたアパートに独り暮らし、この男にとってはクリスマスは邪魔な存在でしか無いのだ。
「サンタさん、僕にもぷれぜんとくださいよぉ…なんてな」
男は独り呟き缶ビールを開け座布団に座り込んだ。
「…う…ん?」
男は知らずのうちに寝てしまっていたようだ、だがその眠りを携帯電話の着信が妨げた。
「誰だこんな時間に…非通知か」
時刻は午前1時、男は悩んだ末電話を耳に当てた。
「もしもし?どちら様でしょうか」
電話の向こうから聞こえた声は…。
「もしもし?私メリーさん、今ゴミ捨て場にいるの…とても寒いの、お兄さんの家に行ってもいい?」
まるで少女のような幼い声が男の頭を掻き回した。
「なんだ君は悪戯か?もう遅いから早く寝た方がいいよ」
男の頭には引っかかるものがあった。
(メリーさん…都市伝説の真似事か?まさかさっきの…まさかな。)
「お兄さんのお家で寝かせてほしいの。」
男の耳に聞こえてきたのは悲しそうな少女の声、少し心配な気持ちと僅かな興味が男の中で絡まる。
「今どこにいるの?もし本当にゴミ捨て場なら一人じゃ危ないよ、向かうからそこにいて、どこのゴミ捨て場かな?」
男が少女に心配の声をかけると少女は少し安心したような声で答えた。
「ありがとう、大丈夫だよ私がそっちに行くから…ふふふ…」
電話が切れた、男には僅かに恐怖心が芽生えつつあった。
「…一体なんだったんだ。」
その時また電話が鳴り始めた。
「…もしもし」
「もしもし、私メリーさん…今あなたのお部屋の前にいるの、鍵を開けてください。」
男は玄関へ向かい覗き窓から外の様子を眺めた…が、外には誰もいなかった。
「やっぱりただの悪戯か…?」
男が鍵を開けドアを開け用とした時。
「今、貴方の後ろにいるの。」
男は静かに電話を切った、電話で話す必要が無いのだ…後ろから声が聞こえるのだから。
「…本当にくるなんて、君はあの都市伝説のメリーさんなの?」
男が少女に向かって話しかける。
「…お兄さん怖くないの?さっきゴミ捨て場で私に同情してくれたよね、うれしかった。」
「だから…同情してくれるなら…優しいお兄さんなら私とずっと一緒にいてくれるよね?」
少女の言葉に男の中の何かが切れた、ぶち切れて跡形もなくなった。
「メリー…ちゃんいいよ、僕と一緒に暮らそう、君とてもいい匂いだね…何歳?ほっぺたすりすりしても…いいかな」
男の中の何か、それは恐怖心だったのだ。
「えっ、お兄さんどうしたの…?なんか怖いよ…。」
逆に怯えるメリーさんをよそに男は言葉を続ける。
「後ろ向いてもいいかな?襲ったりしないでね?…めっちゃ可愛い!!!」
男の目に映ったのは金髪の青い目をした10歳程の女の子。
「君さえよかったら僕と暮らそう、もう孤独にはうんざりしてたんだ。」
男の言葉にメリーさんは
「は、はい…よろしくお願いします!」
男が渾身のガッツポーズをとる、余程孤独が嫌だったのか、メリーさんと暮らせるのが嬉しいのか定かではない。
「こんな僕に最高のプレゼントをありがとうございます、サンタさん。」
メリーさんは少しだけ頬を上げ男にこう呟く。
「これが本当の…メリークリスマス…。」