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07 第十ダンジョンもさくっと!


 第十ダンジョンは、第一ダンジョンからやや北側に行ったところにあった。

 

 入り口の感じは、看板があるところも合わせて、第一ダンジョンに似てる。

 ちがうのは、途中に何組かの冒険者を見かけたことだ。


 二人組、三人組だったり、四人組が分かれたりと、いろいろなパターンがあった。

 五人組以上は見かけない。

 そういえば、カジルたちも三人組だった。

 成果の分配が少なくなりすぎる問題があるのかも。

 このあたりは今度誰かにきいてみよう。


 入っていった二人組を見て、僕はちょっと間をあけて、入ってみた。



 通路は第一ダンジョンよりちょっと広い。

 1・5倍くらいあるだろうか。

 すぐ、最初の角があって、五メートルくらいの直線通路がある。

 たぶんこれが、第一ダンジョンにもあった、まだ引き返してもいい場所なんだろう。

 ダンジョンさんと出会った場所と同じ意味の場所だ。


 僕はとりあえず、槍をのばして、固定した。

 あ、スライムを倒す練習してきたほうが良かったかな。

 いまからでも第一でやって来ようか。



「うわ、よわそー。死ぬんじゃないのー?」

 壁際に立っていた女の子が、僕を見て言った。

 中学生か、へたすれば大人っぽい小学生か。

 Tシャツっぽい服に、短パン姿だった。

 腕を組んで、壁にもたれている。


 つり目で、僕を見下した感じで見ていた。

 


「あ、どうも」

 僕が言うと、視線を外そうとしていた女の子が、僕を二度見、三度見した。



「もしかして君、第十ダンジョン?」

「え、なに言ってんのこの人。あたしが見えてんの? ってそんなわけないけど」

「見えてるよ」

「あー……、あたし疲れてるのかな。ってダンジョンが疲れるかい!」

 彼女が自分の頭をパシンとたたいた。

 ノリノリだな。


 それから真顔で僕を見る。

「……ねえ、あたしのこと見えてる?」

「うん」

「マジか」


 女の子は僕のところまで歩いてきた。

「で、僕、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なに?」

「このダンジョンの案内してくれないかな」

「は? なんで?」

「僕、モンスターを倒したり、そういうのは苦手だから、モンスターが出る床の場所とか、教えてもらえるとありがたいんだけど」

「え、だからなんで?」


 そう言われてしまうと、たしかにそうだ。

 第一ダンジョンさんは、僕と話ができたこと自体で満足してくれたから、なんか教えてもらう流れになったけど。



「えっと、僕、ダンジョンをクリアして稼ぐしかないんだよ」

「だろうね」

「だから協力してほしいなって」

「やだ」

「そこをなんとか」

「みんな体鍛えたりしてがんばってんでしょうが! あんたもちゃんとやりなよ!」


 言いながら、彼女は僕の紙袋をちらちら見ている。


「パン、食べたことある?」

「ないけど、パンくらいちゃんと知ってるから!」

「食べてみる?」

「え? まあ、別に興味はないんだけど、食べてあげてもいいけどね。まあ、興味はないんだけど」


 そういって、半分ちぎってあげたパンを手にする。

「あったかいんだ」

 ぱくり。


 もぐもぐもぐ。

 もぐもぐもぐ。

 もぐもぐもぐ。


 ごくり。


「まあまあね」

 そう言って、残り半分を見つめる。

「食べる?」

「食べてあげなくもないけど」

「じゃあ、はい」

「うん」


 もぐもぐもぐ。

 もぐもぐもぐ。

 もぐもぐもぐ。


 ごくり。


「うん。まあまあだった」

 そう言って彼女は壁の中に入ろうとする。


「ちょ、ちょっと!」

「なに?」

「パン食べたよね」

「食べたけど」

「案内してくれない?」

「えー。途中まででいい?」

「最後までがいい」

「もー」



 バン、と彼女が壁をなぐると、床に赤いところが出た。


「ありがとう!」

「一回だけだよ」


 さっさと歩き始めてしまうので、あわててついていく。


「第一ダンジョンより、赤い場所が多い気がする」

「そりゃ、あたしのほうが難しいからねー」



 スタスタスタ。


 スタスタスタ。


 スタスタスタ。



「あの」

「なに?」

「宝箱の、青い床って、ここはないの?」

「あるよ」

「じゃあなんで」

「もったいないから」


 もったいないって……。


「でも、宝箱もほしいな」

「あんたは、クリアできればいいんでしょーが」

「それはそうなんだけど、お金もないとアパートが借りられなくて」

「そんなのいままでちゃんと計画的にお金を使ってないのが悪いんでしょ」

「お金は最初からなかったんだよ」

「なに? 孤児かなんか? そのわりには甘っちょろい感じなんだけど」

「僕、異世界から来たんだ」


 彼女が足を止めた。


「マジで?」

「う、うん」

「え、すご! マジで異世界から来たの?」

「うん」

「すご! あたし異世界人初めて見たわ。え、ほんとにすごいんだけど!」


 一転、彼女が僕を見る目がキラキラしてきたような気がする。

 

「あ、じゃあ、宝箱も出してもらっても?」

「いいよ!」

「やった!」

「いいけど」

「え?」


「証拠見せて」


 彼女は手を出した。


「証拠……?」

「そう。異世界から来た証拠がないと。だってそんなの言ったもん勝ちじゃん」


 それはそうだけど。

「でも、僕は君が異世界に興味あるなんて知らなかったわけだし!」

「なんかいろいろ言って、それ興味ある! ってなるの待ってたんじゃないの?」

 彼女はじとー、っと僕を見る。

 疑り深い子だ。


「でも、証拠って言われても……」



 学ランのボタンをひとつ外してみた。


「これとかは?」

「なにこれ」

「僕の高校の名前が刻まれたボタン」

「くっそ安っぽい」


 たしかに、こういう装飾はむしろ、この世界の人のほうがよっぽどすごいのを作れるかもしれない。


「スマホがあればな」

「なにそれ」

「写真……、この景色を記録したり、動いてるのを記録したり、音楽を流したりできる、小さい板、みたいな感じ」

「なにそれ。魔法じゃん」

「魔法」


 行き過ぎた科学は魔法みたいなものだというけど、たしかに、僕らはスマホのしくみなんてほとんど知らない。

 使い方も完全にはわからない。

 魔法みたいなものか。


 困ったな。


「ないの?」

「ちょっと待って、いま」


 なにかないかと、学ランの上着を脱いで、ポケットの中を探してみるが、ポーションと脱出石しか出てこない。


「うーん」

「なにそれ」

「どれ?」

「それ」

 彼女が前かがみになって、僕の手元を指す。


 学ランの首元。

「これ?」

 僕がカラーを外してみせると、彼女はうなずいた。


 学ランにおなじみ、首元の白いやつだ。


「なにそれ」

「カラー」

「カラー?」

「あ、プラスチックでできてるんだけど」


 彼女にわたす。


 彼女は手にしたカラーを、ふらふらゆらしていた。


「これは異世界感じる。すごい異世界だ。うん、異世界感じる」


 びよん、びよん、とカラーを弾いて遊んでいる。


 そうか、この世界には、プラスチックはないのか。


「よし。しょうがない、宝箱も見せてあげる」

 彼女が言うと、床に、青い部分が現れた。


「いいの?」

「しょうがない。異世界の証拠見せてって言ったのはあたしだからね」

 びよん。


「じゃ、どうも」

 さっそくふむ。


 出てきた宝箱は。

「おお!」

 100ゴールド!


 他にも脱出石や、現金、あとよくわからない腕輪など。

 もしかしたらギルドでひきとってもらえるかも。



 やった、やった、と喜んでる僕と、びよん、びよんとカラーをゆらしている彼女は、もし見える人がいたら相当異様だったかもしれない。



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