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47 安心と疑問

 確認をすると、どうやらダンジョンさんは昨日、眠っていなかったことがわかった。


「お腹いっぱいで寝られなくて、それからも、緊張して寝られなかったの」


「眠ると、ダンジョン状態になる……?」


 シャッフルは、眠らなくても起こるということか。

 さらに、ダンジョンさんがちょっと家を出てみると、出現ポイントは消えた。


「要するに、勝手にこの家に入らないようにすれば問題ないってわけか」

 カジルは言った。

「それと、彼女が外にいるときは、誰かがをひとりきりにしないように一緒に行動すると、実害はなくなりそうだね」

 スランスが言う。



 部屋にダンジョンさんが入っても、廊下に誰かがいたり、部屋を出入りする人がいたりするば平気なのはギルドでも実験済みだ。

「……ドア、開けておいたら……?」



 新しい武器屋で実験をさせてもらったら、なんと、それだけでシャッフル現象を回避することができた。

 モンスター出現などの兼ね合いもあるので、すぐどこかに引っ越したいとは思わないけれども、ダンジョンさんの体質についての対処法はわかってきた。


 そして対処ができる。

 僕だけじゃ無理だった。


 他人というのは僕に害を与えるか、離れて見ているかのどちらかで、ダンジョンさんは奇跡みたいなものだと思ってたけど。

 この世界は特別なのか。

 元の世界も、もしかしたらそういう部分があったのか。

 もう関係ないけど。



 僕とダンジョンさんはカジルたちに誘われ、リリさんの宿屋でちょっと遅い昼ごはんを食べた。

「よく食べるねー」

「はい!」



「で、ナリタカ、どうすんだ? 今日、次、行くのか?

「ちょっと下見だけして来ようかと思ってるけど」

「第垓だっけ? 何年かかっても行ける気しねーな」

 カジルは笑った。

「カジルだって僕のスキルがあれば行けるよ」

「そうかな」

 スランスが言った。


「スキルっていうのは、その人に合ったものしかもらえないとも言われてる。ぼくのスキルなんか、脱出、だからね」

「脱出?」

「脱出石を使わなくてもダンジョンから、あるいは家から出られる。ぼくの性格にぴったりだ。そんなものだよ」

 おくびょうだ、とでも言いたいんだろうか。


「脱出っていうより、離脱石に近い気がする。逃げるとか、そういうふうにとらえないほうがいいよ」

 僕が言うと、スランスは笑みを浮かべた。


「それに、それを言ったら僕なんて、ダンジョンに案内してもらわなきゃ冒険ができない、ビビリの中のビビリ、ビビリキングだよ」

「……ビビリキング……」

 ミミが笑った。

「え?」

 そこが笑うの?

「……ごめん……」

 すると、笑いが伝染していって、みんなで笑った。




「じゃあ、ちょっと行ってきます」

「いってらっしゃーい!」


 僕はダンジョンさんを月の宿に残して、いつものドラゴンスーツで出かけた。


 ひとりで行動をするのは久しぶりな気がする。

 あの冒険者狩りの一件依頼、ダンジョンさんとの前にも、いつもランスさんや、他の冒険者の気配を身近に感じていたからだ。


 さて、どういうダンジョンか。


「おーい」


 やってきたのは、ソフィさんだった。

 こっちへ手を振りながら走ってくる。

 と思ったらもう、僕のすぐ近くまで来た。

 なんだいまの


「月の宿に行ったら、あんたが第垓に行ったっていうからさ」

 息も切れていない。

「なにか用ですか?」

「ギルドで、あんたに合成、頼もうかと思って」

「合成ですか」

「離脱石、ハイポーション、脱出液なんかをね。魔法石の合成なんかまでやってもらわなくてもいいけど、こういう、貴重品になってるものを、もっと安く売りたいわけ。ギルドとしては。仕入れはやるからさ」


「つまりかんたんにいえば、みんなが欲しいものを合成して、安く売ってくれないかっていう話」

「いいですよ」

「え?」

 ソフィさんは意外そうにした。


「これから、あんたに得になるようなことを言おうと思ったんだけどねえ」

「その心配はしてません。ソフィさんは人に恩を着せて平気でいられる人じゃないと思ってるので」

「生意気だね」

 ソフィさんがにやりとした。


「それに、他人と協力して生きていこう週間に入ったので」

「なんだいそりゃ」

 人間はひとりじゃ生きていない、なんて言われて言われて言われ倒していることを言うつもりはないけど、一理あるな、とは思っている。

 安く買い取られるというのが他人のためになるのは悪くないし、材料提供をしてくれるならノーリスクで定期収入だ。

 悪くない話だろう。


「じゃ、いいんだね?」

「はい」

「あとでよろしく頼むよ」

「はい」



 そしてふっと、ソフィさんの目つきが変わる。


「お子さんはいつ意識がもどるか、現時点ではわかりません。すぐにもどるかもしれませんし、しばらくかかるかもしれません」

 ソフィさんは言った。


「は……?」


 ソフィさんは、僕を見ているようでいて、どこかずっと遠くを見ているような目をしている。


「ですが外傷は軽い傷ばかりで、頭部の検査の結果も深刻なものではありませんでした。血がたまって脳を圧迫するようなこともありませんし、記憶障害もないのではないかというのが現時点の見解です」


「ソフィさん?」


 ???

 なに?

 なにを言ってるんだ?

 


 ソフィさんの目が僕をとらえた。

「じゃ、あの子のためにもがんばんだよ!」

 そう言って僕の背中をバシン、とたたいた。

「……はあ」

「なんだい? しゃっきとしな、しゃきっと」

 そう言って、ソフィさんはギルドの方へと歩いていった。



 なんだいまのは。

 意識がもどる?

 なんの話だ?

 冗談かなにかのつもりだったんだろうか。

 僕が寝ぼけてた、っていうのはさすがに自分でも無理があると思うけど。


 僕は第垓ダンジョンに行くのも忘れ、ソフィさんが見えなくなるまでじっとその場にいた。


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