表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/50

46 協力者が必須

「いっちゃんです!」

「それはもうやめておこうか」

 と言いながら、僕は大きくあくびをした。


 ここ何日か、緊張感がある毎日だったしな。


「なにそれ。ふあー」

 ダンジョンさんがからかうように、僕のあくびをマネする。

 いや、いっちゃんだっけ? 慣れないな。


「ふあーふあー。ふわああ」

 マネをくり返していたダンジョンさんが本気のあくびをしていた。

「それはあくび。眠いときに出るんだよ」

「そうなんだ。ふあー」



「ダンジョンさん、昼寝でもする?」

「昼寝?」

「昨日あんまり寝られなかったでしょ」

「うん、寝る!」

「まだ昼前だし、ちょっと寝て、それからごはん食べようか」

「ごはん、ごはん」

「まずは昼寝」

「昼寝、昼寝。あ、ナリタカ、私いっちゃんだから。いっちゃんて呼んで」

「おやすみ」

「いっちゃんね、いっちゃん」


 ロフトにふとんを敷いて、僕たちは横になった。

 ふとんの距離が煩悩の距離である。

 一メートルくらい離しておいた。


「おやすみ」

「おやすみ!」




「うわあ!」


 大きな声に僕は目を覚ました。

 入り口のほうだ。

 ロフトから乗り出すと、玄関の扉のところに立っていたのはカジル。


 そしてその前には、スライムがいた。


 ぷよん、ぷよんとゆれ動きながらカジルの様子を見ている。


「カジル!」

 カジルは上を見た。

 カジルは手ぶらで、普段着だった。


 まさか。なんでここに。

 と思ったが、動揺は後回しだ。

 いまはスライムの対処だ。


「僕がやる」


 僕の武器は杖の炎、ドラゴンスーツの炎。

 室内じゃ使えない。

 僕は急いで、合成小袋で脱出石とポーションを合成。

 

 そして僕は杖を持ってロフトから飛んだ。


 着地寸前で浮かぶ力を出して勢いを弱め着地。

 すぐ脱出液をスライムにふりかけた。

 するとスライムは光に包まれて外へ。

 外に出るということは、モンスターが消えるということを意味する。

 そして、ここがダンジョン化しているということでもある。


「消えた……」

 カジルは家の中と外を見比べていた。

「カジル。なにがあったんだ」

「あ? ああ、お前ら昼飯に呼んでやろうと思ってノックしたら返事がねえから、中に入って呼ぼうと思ったら、いきなりスライムが出てきてよ。どういうことだ?」

「それは」


「どういうこと?」

 スランスが言った。


 スランスとミミも、扉の外にいた。

 一部始終を見ていたようだった。


「ええと、僕がダンジョンで変なアイテムを拾って変な体質になっちゃったっていうか……」

「私のせいだよ!」


 いつの間にかダンジョンさんは下までおりてきていた。

「君のせい……?」

「そう! 私はダン」

「ちょっと待ってね」

 僕はダンジョンさんの口をふさいだ。


「むぐー、むぐー」

「おいなにやってんだ? 同棲相手だからって暴力ありじゃねーぞ」

 カジルが倫理的なことを言う。

「いや、だから」

 カジルを気にした瞬間、ダンジョンさんが僕の手から抜けた。

「私がダンジョンだから!」


 ダンジョンさんが言うと、部屋の中に、赤い床、青い床が見えるようになった。


「これは?」

 スランスがまわりを見る。

「私はダンジョンだから、きっとこの家をダンジョンにしちゃったんだと思う! ギルドも、ダンジョンみたいに部屋がぐちゃぐちゃに入れ替わっちゃったの。だからナリタカは、部屋がある普通の家じゃなくて、こういうところを選んだんだよ!」


 

 

「どういう意味だよ」

「いや気にしないで、ちょっと静かにしようか」

 ダンジョンさんは僕から逃げ回る。

「私は第一ダンジョンなの。ダンジョンが崩れそうになったでしょ? そのとき、ナリタカが助けて連れてきてくれたの!」

「スキル……?」

「ナリタカのスキルは、ダンジョンと話ができたり、ダンジョンの外に連れ出せるスキルなんだよ!」


 ええと、これはどこから火消ししたらいいんだ?

「つまりだね、ええと」

「たしかに、そう考えればダンジョンの外にモンスターが出たこともうなずける」

 スランスがなんか納得してる。

「この床なんだよ」

「赤い床がモンスターの出るところ、青いところが宝箱の出るところ」

 スランスが素早く動いて青い床をさわる。

 宝箱が現れた。


「おいおい」

「本当に……?」

 中にはポーションが入っていた。


「……バレちゃったらしょうがないけど」

 僕は言った。


「僕は強いわけでもなければ賢いわけでもなくて、ダンジョンに行って攻略法を教わってただけなんだよね。みんなは真面目にやってるところを、抜け道で近道してたっていう、まあ、そういうこと」


 カジルたちは黙っていた。


 これは、失望されただろうか。

 きっと三人は、きちんと努力をしてこれまでやってきたわけだから、僕のスタイルを良くは思わないだろう。


「うまくやってたじゃねえか。やるな」

 カジルは言った。

「え?」

「強いスキルほど誰にも言ったらいけないし、賢く使うべきだ」

 スランスは言う。


「ただ、全部がひとりできるとは限らない。彼女がダンジョンの力を持ってるんだろう? でも、ナリタカ君はダンジョンに行かないといけない。彼女をひとりにするなら、いずれこういうことになったんだよ」

「それは……」

 ならダンジョンに連れていけば、と思ったが、それも可能なのかわからない。

 ダンジョンにダンジョンが二人いるというのはどういうことになるのか。

 

「誰か、このこと知ってる人は?」

「ソフィさんが」

「ギルド長! 人脈すげーな」

 カジルが言う。


「心強いけど、毎回協力してもらうのは難しいよね」

「まあ」

「……だったら、わたしたちがいる……」

 ミミが言った。

「え?」

「おれたちを頼れってよ」

 カジルが、ドン、と胸をたたいた。


「それって」

「おれたちが日中は一緒にいてやるよ。そんならどうだ?」

「でも、そんな」

「まあ、おれはまだあんまり、ダンジョンが人間って意味がわかってねえけどな!」

 と胸をはるカジル。


「状況から見たら、ふつうじゃないのは明らかだけどね」

 スランスが笑った。


「え、でも」

「不安かな」

「いやそんな……」

 僕は正直に言った。


「お前だけじゃどうにもなんねえんだろ。じゃあおれたち頼るしかねえじゃん。なに迷ってんだ? お前はバカなのか?」


 そうだ。

 僕には他に選択肢はない。

 頼るしかないんだ。



「ごめん。ありがとう」

「お前はひとりで企みすぎなんだよ」

 へっ、とカジルが笑う。

「ぼくらだって、ナリタカ君のお世話になってるんだから」

 スランスは言った。

「……あなた、名前は……?」

 ミミがダンジョンさんに言う。


「私? いっちゃん!」

「……まさかと思うけど、第一ダンジョンだからいっちゃんじゃねえだろうな」

「……」

「もっとまじめに考えろよ」

「あ、はい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ