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41 第一ダンジョン崩壊


 ソフィさんと、ダンジョンさんはまだ、そこにいた。


「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ!」

 めちゃくちゃな走り方で来たので酸素が足りない。

「飲みな」

 僕の口に、ソフィさんがポーションの小ビンをねじこんできた。

 飲み干すと、すっかり呼吸が整い、つかれも消えた。


「ありがとうございます」

「スキルはとれたかい」

「わかりません。祭壇みたいなところで、風に飛ばされて」

「それでいいんだよ」


 横たわっているダンジョンさんが目を開けた。

 

 僕は横に座る。


「ダンジョンさん」

「また会えたね、ナリタカ……」

「ダンジョンさん」

 僕はダンジョンさんの肩の下に手を入れ、体を起こす。


 気持ちを集中する。

 いくぞ!


「ダンジョンさん、治れ!」


 うおおおおお! 

 うおおおおお!

 うおおおおお……。


 ………。


 特に、ダンジョンさんの様子も変わらなければ、ダンジョンの様子も変わらない。


 ダンジョンさん治療スキル、が備わったわけじゃないのか……。


 治るんじゃないとすれば、なんだ?


「ん」

 ソフィさんが上を見る。


「そろそろだね」

「なんですか」

 パラパラ、と天井から細かいものが落ちてきた。


「崩れてる。限界だ。脱出石を用意しな」

「なにを?」

「第一は終わりだよ」

「終わりませんよ」


 僕が言うと、ソフィさんは困ったような顔をした。


「ソフィさん、スキルを、新しいスキルを手に入れればなんとかなるって言ったじゃないですか」

「そうするしかないって言ったんだ」

「だからこうして」

「可能性は可能性だ。現実も見な」

「現実って……」

「どうしようもないことだってあるんだ」

「うるさい」

「なに?」

「うるさい、まだわからないだろ!」

 僕はソフィさんに怒鳴っていた。


「わかったようなことだけ言ってるなら、あんたはさっさと逃げろよ!」

 僕が言うと、ソフィさんは、ふっ、と息をついた。

「死ぬ気かい」


 周囲にパラパラと砂利のようなものが落ちてくる。

 ズズズ、という振動のようなものも感じる。


「ダンジョンさんは死なない!」


 そのとき、ダンジョンさんにそえた僕の手が、横からゆっくりと払いのけられた。

 ダンジョンさんだ。

「ナリタカ、行って」

「行かない」

「行って!」

「行かない」

「なんでわかってくれないの!」

「僕はダンジョンさんが大切だからだ」


「私が大切なら、外に出て」

「なんで!」

「私もナリタカが大切だからだよ!」

「……」

「お願い。ナリタカ……」

「…………」

 

「ほら」

 ソフィさんは、僕の前に脱出石を置いた。



 僕は立ち上がった。

「ナリタカ、バイバイ。……ナリタカ?」

 僕はダンジョンさんを抱え上げた。

 ドラゴンスーツの効果もあってか、軽々と持ち上げることができた。

 

「ちょっと、ナリタカ?」

 ダンジョンさんが身をよじらせる。

「全体が壊れるって決まってるわけじゃない。どこか残ってれば、元通りにできるかもしれない。どこか、崩れないところを探そう」

「ナリタカ、無理だよ!」

「無理じゃない」

「生き埋めになっちゃうよ!」

「なああんた、その子誰だい」

 ソフィさんが急に言った。


「その女の子、どこから出てきたんだい」


 ソフィさんの目は、ダンジョンさんを見ていた。


「……え?」

「その子だよ。女の子」

「……ソフィさん、見えるんですか」

「うん」

「……この子は、どんな服装をしてますか」

「白い、上からスカートになってる一枚の服だよ」

 ワンピースという言葉はないのか。

 でも見えてる。

 

「私、第一ダンジョンです!」

 ダンジョンさんはソフィさんに言った。

「あんたが……?」

「はい。はじめまして! ではないですけど!」

「本当にあんたがダンジョン……?」


 会話が成立している。


 どういうことだ。


「自分以外の人も、ダンジョンと交流することができるようになるスキルになった……?」


 そう考えれば納得はできるような。


「だとしたら条件はなんだい。あんたに抱えられることかい? それはなんだか、しっくり来ないね」

 たしかに、僕が触れたら発動、ということではなかった。

 そこは変な感じはする。

 

「あ」

 天井が崩れた。

 天井だったものが割れ、無数の岩となって僕の頭の上に降り注ぐ。


 その様子は、妙にスローモーションだった。

 いますぐダンジョンさんを放り出して、床に落ちている脱出石を握れば外に出られるだろう、と冷静に思っている余裕もあった。


 だけど僕は、ダンジョンさんに覆いかぶさるように姿勢を変えるだけだ。

 ドラゴンスーツが、この岩をすべて受けきっても平気なくらいの守備力を持っている、可能性、だってある。

 現実がどうなるかなんて知らない。

 欲しい可能性に賭けてなにが悪い。



 そのとき、視界の端でものすごい速さで動くものがあった。


 それは僕に、青く光る液体を振りかけてから、青白く光って飛んでいった。


 青い光の液体が体にかかるのを見ながら、これはたしか、ポーションと脱出石を合成してつくった脱出液だな、などとゆっくり考えていた。

 これにより、僕は脱出石をつかったのと同じことになり、ダンジョンを出てしまう。

 すごい速さで動いていたのはソフィさんか。

 僕の体が青白く光る。

 すべてがゆっくり見えた。

 それをじっくり考えることもできた。

 ただ、僕自身もスローにしか動けないので、見えていること、考えていることに関係なく、状況を受け入れるしかなかった。


 ダンジョンさん……!


 脱出液の効果に従い、僕は光となって強制的に第一ダンジョンを出てしまった。


 出口の前。


 轟音とともに岩が出口をすべてふさぎ、それだけで止まらずこちらがわにも岩が転がってくる。


「危ないよ!」

 呆然としている僕の腕をソフィさんがつかみ、転送の腕輪の効果で、設定されていた第兆ダンジョンへと飛んだ。


 着地すると、遠くから、大きなものが崩れる音、地響き、振動が伝わってきた。


「崩れたね」


 ソフィさんは言った。

「本当に崩れたんですか」

「わかるだろう?」


「でも、だったら、これは……」


 僕はまだ、ダンジョンさんを抱えていたのだ。


 ダンジョンはダンジョンの外には出られない。

 そのはずだ。

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