37 裏で進行中だった
ライトさんの剣に刺された瞬間、僕の体が光った。
これが、復活、なんだろうか。
血に染まった剣を持ったライトさんを見つつ、僕は転送の腕輪を発動させた。
続けてライトさんが攻撃を仕掛けてきたが、僕の体を包む光に弾かれた。
ライトさんは僕に、続けて攻撃を仕掛けようとしたが、止まる。
僕らの周囲に、たくさんのライトさんが現れていた。
百人以上いるんじゃないだろうか。
しかも、僕を刺したライトさんと、増えたライトさんは別だ。
いつもの白い鎧を着ているのは、僕を襲おうとしたライトさんで、まわりにたくさんいるのは黒い鎧を着たライトさんだ。
ライトさんがいっせいに言う。
『そいつは偽者、分裂できるボクが本物。わかるよね?』
いっせいに、僕にウインクしてきた。
『ナリタカ君、ギルドへ』
白い鎧のライトさんはなおも僕への攻撃を続けるが、僕の周囲にただよう光によって剣は折れた。
折れた剣がくるくる回って地面に刺さる。
「ん?」
僕のまわりの光が薄くなってきた。
転送の腕輪でギルドへ飛んだ。
ギルドの前に着地し、走ってギルドへ入る。
「ソフィさん、ソフィさんはいますか!」
入っていった僕に、なにごとかと冒険者たちの視線が集まる。
「どうしました!」
カウンターでリーナさんが立ち上がった。
「ライトさんに襲われて、いや、ライトさんじゃないみたいなんですけど」
「いらっしゃい」
「うお!」
振り返ると、ソフィさんが背後に立っていた。
「あ、あの、いま」
「どこに出たんだい?」
「第京です。第京ダンジョン」
「第京だ」
ソフィさんが指示すると、ギルドの中にいたうちの三人が立ち上がり、走って出ていった。
なにがなんだかわからない。
「なにがなんだかわからないって顔してるね。来な」
ギルドの奥の部屋に入った。
奥には大きな机、手前にはゆったりしたソファがある。
「まあ座りな」
「はあ。あの、第京に行ったらライトさんに刺されて、刺されたと思ったら、別のライトさんがたくさん現れて」
「落ち着きな。リーナ、茶をいれておくれ」
「はい」
「で、ライトに刺されたって? そりゃ『変装』だな」
「『変装』?」
「この前捕まえて、逃げられたっていうのは『変装』スキル持ちだったみたいなんだ。会ったことのある人間、誰にでも化けられるみたいだね。まったく見分けがつかないらしい。そいつが、あんたを追いかけて、あんたがダンジョンに入ったところでライトを殺って、化けて待ってたんだろうよ」
「そんなことが……」
「ライトさんが負けたっていうのは、分裂してたからですよね?」
たしか、分かれれば分かれるほどひとりあたりは弱くなる、と言っていた。
「かもしれない。相手が強いのかもしれない」
「さっきライトさんが、ものすごくたくさんに分裂してたんですけど」
「時間稼ぎだろうね。確実にやるために」
「なるほど……」
「あの、お茶をどうぞ」
リーナさんがお茶を入れてくれた。
一口飲むと、いい香りが広がる。
「おいしいです」
「よかった」
リーナさんがにっこり。
僕もすっかりリラックス、はさすがにできない。
「では、ごゆっくり」
リーナさんは出ていった。
「これで二人だ」
「二人?」
「さっき、仲間を別のところで捕まえたんだよ。月の宿の近くだったね」
「月の宿?」
カジルたちのやっている宿屋だ。
「どうしてですか?」
「そりゃあんた、あんたが仲良くしてる人たちを襲おうとしたっていうことだろう」
「え……」
「考えればわかるだろう。あんた自身をやるのもいいが、あんたが大切にしているものをやるのもいい。あんたを確実に殺るっていうよりは、どうにかして、あんたが嫌がることをしてやろうっていうやり方をしてるね」
「なんで、僕が仲良くしてるってわかったんですか」
「聞き込みだろう」
ソフィさんは当然のように言う。
「……、それって、あの、月の宿が襲われるのを防げたっていうことは、ソフィさんたちはそうなるってわかってたんですよね」
「そりゃそうだね」
「でも、昨日の会議ではそういう話じゃなくて、その、あくまで僕を囮にして敵を釣ろう、っていう話しかしなかったですよね」
「そうだね」
「どうしてですか」
と言いつつ、答えは出ている。
僕に詳しい話をしたところで意味がないから、限られた話だけしておいて、ギルドはギルドで動いていたのだ。
「あんたには悪いと思ったけど、勝手にやらせてもらったよ」
「……ありがとうございました」
「ん?」
「みんなを助けてくれて……」
「……気にしなくていいよ」
「それに、僕を生き返らせてくれて」
「うん?」
「僕を死なせても、捕まえること自体はできるじゃないですか」
魔法だかアイテムだか知らないが、金銭的に、相当の費用がかかっているはずだ。
「そういう方向にはしないよ。うちの方針としてね」
ソフィさんは言った。
「けが人は多少出ても、死人は出さないようにする主義なんだ」
「そうですか。ありがとうございます」
「あんまり礼ばっかり言うもんじゃないよ。人が安くなっちまうからね」
「……はい」
そのとき。
遠くで、ドーン! という音がして、地震のように床がゆれた。
大きなものではなかったし、すぐ止まったので地震とはちょっとちがう。
そして足音が近づいてくる。
ドアが開いた。
「ソフィさん! 大変です!」
リーナさんだ。
「なんだい」
「ダンジョンが攻撃されてます」
「なんだって?」
「第一ダンジョンが、爆発のような攻撃を受けています!」
その言葉に、僕も立ち上がった。




