35 第京ダンジョンさんは、ませている
「じゃあ、先に第京ダンジョン行きます」
「それもおもしろいかもね」
僕はライトさんと別れ、歩きだす。
第兆ダンジョンのすごいお宝、ってなんなのかな、と後ろ髪を引かれつつ、避けてもだいじょうぶそうなことは避けてみようの精神で進んでいくぞ、僕は。
でも、じゃんけんでちょっとだけ強い、って本当、どういう状態なのかな。
出す前の動きがちがう? 同じようにしたけどな。
どうがんばっても、じゃんけんで勝つのは無理ってことか?
なんて思いながら歩く。
「やあ」
「どうも」
第京に入る前に、ライトさん登場。
「第兆はクリアしたのかい?」
「はい」
まだ第兆のライトさんとは記憶の共有がなされていないようだ。
「といっても、ただクリアしただけなんですけど」
「なんだ。それでいいのかい?」
「とりあえず。で、あの、第京ダンジョンに入ってみたいんですけど、どこですか?」
「ここだよ」
ライトさんが指したところには、たしかにそれはあった。
看板も下の方についていたので気づかなかった。
「これ、ですか?」
「うん」
地面の近くに、高さ五十センチ、幅五十センチくらいの穴があった。
「え、これ、ですか?」
「そうだね」
「これに入ったんですか? ライトさんも?」
「入ったよ。この先、かなりうねってるから、がっちりした防具や大きめの武器は持って入れないから注意してね」
「え、この先広くなってるんですか?」
「まあ、入ってみなよ」
多分広くなってるだろうけど。
狭いままじゃなにもできないだろうし。
まさか、通路にみっちり詰まったスライムと戦う、とかあるのか?
前後から出て来られたら生き埋めもあるぞ。
僕は脱出石を確認した。
「いってらっしゃーい」
平和そうなライトさんだ。
なんとなく、僕の力を過信してる感じがする。
僕はうっかり死ぬからな?
決して僕の力を上方修正してはいけないからな?
「いってきます……」
なんとか、ドラゴンスーツのままでも入っていけそうだ。
ずり、ずり、ずり、と体のぎりぎりで入っていくと、そこからゆっくりカーブしたり、上にうねったり、下にうねったり、とにかくギリギリの道が続いてから、やっと広くなって立ち上がれた。
「はあ」
ふつうに天井は三メートル以上あるし、幅もそれくらい。
振り返ってみると、僕が出てきた穴が見える。
ほっそい道は十メートルくらいだっただろうか。
ずいぶん長く感じたよ、ほんとに。
こうなってみるとふつうのダンジョン、って感じだ。
「ダンジョンさん? います? ダンジョンさん?」
壁からすっ、と現れた。
メガネをかけて、ローブを着て、杖を持って、なんか魔法使いっぽいダンジョンさんだった。
年齢的には小学校低学年くらいに見えるダンジョンさんだ。
「あなたが呼びましたか?」
落ち着いた声で言う。
「あ、はい」
「あなた……、わたくしが見えるのですね」
「はい、まあ」
「変わったスキルをお持ちのようです。興味深いことです」
ゆっくり近づいてくる。
「あの、僕、お願いがありまして」
「……わたくしにダンジョン案内をさせようとでも?」
「あ、はい」
当てられた。
「人間がわたくしをわざわざ呼び出す理由など、そんなことくらいしか思いつきません。ダンジョンは努力して踏破するものでしょう。案内をさせる、そういう考えは好きませんね」
「でも、僕、戦いとか苦手で」
「苦手を克服しようという心はないのですか!」
ダンジョンさんがやっと離れて、杖をターン! と床に突いた。
「すいません!」
「人間の良さというのは、日々、自分の限界をこえようとがんばるところにあるのだと思っていたのですけれどもね!」
「すいません!」
「だいたい、答えを教わって、それでクリアしようなんていう考え方があまいのです……」
ダンジョンさんは言いながら、かなり近づいてくる。
さがると、さがっただけ近づいてくる。
「これはなんですか?」
ダンジョンさんは腰につけていた杖を見た。
「杖です」
「火が出る魔法の杖、のように見えますが、他の魔法石もついていますね」
「あ、他のダンジョンで、浮かないといけないところがあったんですけど、浮かせる魔法石と、合成小袋で合わせてみたらどうかなと思って。そしたらうまくいったんですよ」
「ほう……」
ダンジョンさんはうなずいた。
「あなた、なにも考えていないような見た目ですけど、まったくなにも考えていないというわけではないようですね」
「あ、ありがとうございます」
スーパー失礼なダンジョンさんだな。
「フードをとっていただけますか」
「え? はい」
「ふむふむ。見た目もそれほど悪くないようです」
「あ、ありがとうございます?」
「コホン。ではあなたにチャンスを与えましょう」
ダンジョンさんは、なぜか僕の横に来て、ぴったりと寄り添った。
「このダンジョンは、魔法は発動せず、大きな武器も持ち込めないようになっています。入り口の大きさは、そうなるように、人に合わせて大きさが変わるようになっているからです」
そんな仕掛けになっていたのか。
「使えるのは脱出石、離脱石といったものだけです。その悪条件で、これまでのダンジョンと変わらない敵を倒せるか。そういうところなのです」
「なるほど」
すごい大変そうだ。
「あなたはこれまで戦うことをせず、楽にやってきた。まちがいないですね?」
「すいません」
「ですが、あなたは他の人が持っているスキルの分を、ダンジョンとのコミュニケーションの分として消費しているのですから、あなたがそのスキルを放棄して戦え、というのもまた、不公平ではあります。つまり」
つまり?
「わたくしと交流し、このダンジョンを踏破することを目指しなさい」
「ん?」
「さあ、交流しなさい!」
そう言うと、ダンジョンさんは僕にぴったりくっついてきた。
きっ、と僕を見上げる。
「ダンジョンの中で何度か見ました。人間は男女で交流をして楽しむのでしょう? その良さを教えなさい!」
楽しいデートをしたい、とかそういう話ですか?
僕もわかりません!




